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539話 とある騎士達との決闘2

 さて、決闘と言うからには、ある程度の規定を取り決める必要がある。何でもありの勝負で、勝敗は相手が死ぬまで、なんて出来るはずがない。

 というわけで、簡単な約束事を交わすこととなった。


 まず、使用するのは武器一本のみ。それで武勇を決することとした。純粋な剣術――相手の騎士には槍使いもいるのだが――での腕前を競うというわけである。

 そのため、身体強化以外の魔術の使用は禁止となった。魔術も使える俺にとっては不利な条件ではあるが、剣一本でもなんとかなるだろう。


 勝敗の決定方法だが、基本的には自己申告である。互いに素人ではないのだ、引き際くらいは弁えているだろう。最悪の場合は、気絶するまでぶちまわすことになるが。

 俺とクリスティーネという治癒術の使い手がいるため、手加減も不要だ。俺の持つ剣はもちろん、騎士達の持参した武器も訓練用に刃先は潰してあるので、勢いあまって殺してしまう心配もない。骨くらいは折れるかもしれないけどな。


 それから俺は、ルカと名乗った騎士と少し距離を開けて対峙する。他の者達は、俺達から十分な距離を開けて見学の体勢だ。


「ジーク、頑張ってね!」


「身の程を思い知らせてやるの!」


「ま、あなたなら負けないでしょ」


 ある意味賞品代わりの三人が、口々に声を掛けてくる。皆、俺の勝利を疑っていない様子だ。俺としても、やるからには負けるつもりはない。

 俺は少女達へと、軽く手を上げて応えた。少女達は応じるように、俺の方へと手を振った。見学に回った残りの騎士の二人は、その様子を見て既に悔しそうな表情だ。まだ何も始まってすらいないんだが。


 ルカが両手で長剣を握り締め、俺も愛剣を構え直す。


「行きますよ!」


「何時でも来い!」


 同時に駆け出し俺達は、激しく剣を打ち付け合った。




 さて、そんなわけで騎士達との決闘を執り行ったわけなのだが。

 結論から言わせてもらおう。

 俺は無事に三連勝を収めた。


 剣を納め、深く息を吐きだす。俺の前では、マルクと名乗った大柄の騎士が、地面の上で伸びていた。

 苦戦、と言うほどではないが、それなりに良い勝負が出来たのではないだろうか。とは言え、三連戦の合間に休憩も取ることはなく、最後まで余裕を持って立ち会えたのだが。


 そんな感想を抱いたところで、パチパチと小さく手を打ち鳴らす音が聞こえてきた。振り向いてい見れば、勝負の様子を見守ってくれていた少女達が、俺の方へと拍手を送っていた。


「さすがはジーくんなの!」


「ジークさん、すごいです!」


「恰好良かっ……いえ、その……」


 フィリーネとシャルロットが素直な歓声を上げ、何故だかアメリアは途中で言葉を切り、頬を赤らめて顔を俯かせた。理由はわからないものの、少なくとも褒めてくれてはいるのだろう。


「ふふっ、ジークはやっぱりすごいなぁ……っと、はい、おしまい!」


 そう言って、半龍の少女が膝を曲げた体勢から立ち上がる。

 クリスティーネには、怪我をした騎士の治療をお願いしていたのだ。訓練用の武器とは言え、さすがに無傷では済ませられなかった。もっとも、怪我を負ったのは騎士達だけで、俺の方には怪我一つないのだが。


 どうやら丁度、槍使いの騎士であるキールの治療が終わったようだ。


「あ、ありがとうございます!」


 床に座り込んだ体制で、キールがクリスティーネへと礼を告げる。その顔ははっきりと赤くなっていた。あいつ、フィリーネとのデートを希望していたくせに、クリスティーネにも色目を使うのか。

 もっとも、クリスティーネのような娘に至近距離で怪我の治療なんてされた日には、誰だって見惚れてしまうのだろうけどな。


 その様子を見てから、俺は傍の騎士の隣へと屈み込んだ。


「ほら、すぐ治してやるからな」


「あっ、出来れば俺もクリスさんに治療を……」


「却下だ」


 マルクの言葉をバッサリと斬り捨てる。いちいちそんな要望まで聞いてはいられない。俺の言葉に、騎士はがっくりと項垂れた。

 それから騎士達の治療も終わり、彼らは俺達の前へと並び立つ。


「いやぁ、噂に違わぬ実力でしたね。感服しました」


「悔しいが、こうも完璧に負けた以上は、クリスさんのことは潔く諦めよう」


 キールが俺の腕前に感心を示し、マルクは残念そうにしながらも、クリスティーネをデートに誘わないことを約束してくれる。

 やはり城勤めの騎士だけあって、決闘で負けた以上は未練がましく縋り付かず、事前の取り決めを守ってくれるようだ。こういう潔い態度には好感が持てるな。


「今日は突然決闘など申し込んで、申し訳ありませんでした」


 ルカが謝罪を口にし、騎士達は揃って頭を下げて見せる。それに対し、俺は頭を上げるように促した。


「あまり気にしないでくれ。俺としても、いい訓練になった」


 これはリップサービスというわけではなく、本心である。

 ルカとの立ち合いでは、クリスティーネ達とはまた違う太刀筋の剣を体験できた。マルクの大剣やキールの槍などは滅多に相手をすることがないので、対人戦のいい訓練になる。俺にとっても、なかなか悪くはない時間だった。


 そこで、クリスティーネが何かを思いついたように両の掌を打ち鳴らした。


「そうだ! 今度は私とも手合わせしようよ!」


「それはいい考えなの。フィーとデートをしたいって言うのなら、せめてフィーより強くないとダメなの」


 半龍の少女の言葉を受け、白翼の少女が頷きを見せる。どうやら二人とも、俺達の決闘を見て興味が湧いたようだ。

 彼女達が騎士達と戦闘訓練をするのは、彼女達のためにもなるだろう。俺の見立てでは、この娘達が負けることはないと思うが。


 そんな少女達の言葉を受け、騎士達は揃って瞳を輝かせた。


「是非ともどうぞ!」


「いつでもお相手致します!」


 若干、下心が見える気がするが、まぁいいだろう。訓練にかこつけて妙なことをしようとするなら、またしばき回せばいい。

 こうして俺達は騎士達と訓練の予定を取りつけ、彼らは去って行った。


 ちなみに、この約束は果たされることがなかった。

 エリザヴェータの客人である俺に対して私闘を吹っ掛けたとして、彼らはこの後騎士団で問題になったらしい。罰として鎧を着用の上、城の周りを数十周走らされたそうだ。その程度で済んだのは、俺達から取り成したためである。


 別に俺としては、一切気にしていなかったのだがな。それでも罰則なしというわけにはいかなかったそうで、俺達との勝負も実現することはなかったのだった。

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