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538話 とある騎士達との決闘1

 唐突な呼びかけに、俺は声の方へと顔を向けた。

 そこにいたのは、騎士と思しき見知らぬ三人の男達だった。真ん中の一人は俺とよく似た体型の男で、もう一人は大柄で体格が良く、最後の一人は細身で背が高い。三人とも騎士鎧を身に纏い、それぞれ長剣、大剣、槍を携えている。


 先程の言葉は、俺達へと向けられたものだろう。だが一体何の用なのだろうか。

 男達の相手を少女達に任せるわけにもいかないので、俺は騎士達の方へと歩み寄った。


「何か用か?」


 呼びかけてみれば、三人はどこか緊張した様子を見せる。それから互いに顔を見合わせてから、真ん中の男が口を開いた。


「あなたに、決闘を申し込みます!」


「……は?」


 その言葉に、俺は思わずぽっかりと口を開けてしまった。何を言われているのか、一瞬理解が出来ない。

 決闘、と言っただろうか。それはあれか、双方が同意のもとで争い合う、果たし合いのことを言っているのだろうか。


 言葉だけを聞けば喧嘩を売られているようにも思えるが、男達の様子を見る限りでは、俺に恨みがあるようには見えない。俺自身、彼らに恨まれるようなことをした覚えもない。そもそも初対面だしな。

 では何故、いきなり決闘など申し込まれたのだろうか。ううむ、わからん。


「すまない、意味が分からないんだが……」


「突然のことで申し訳ありません。あなたに、我々と勝負してほしいのです」


 俺が素直な問いを投げかければ、存外丁寧な答えが返ってきた。胸に手を当て答える騎士の様子を見れば、やはり俺に対して害意を持っているというわけではなさそうだ。

 だがしかし、騎士が俺に対して決闘を申し込んでいるのは事実である。その目的は何だろうか。


 単にそういった腕試しが好き、という可能性はある。騎士になるくらいだ、剣には多少なりとも自信があるのだろう。その腕を試す相手が欲しかった、ということだろうか。

 あとは、俺達の噂を聞いて挑んでみたくなった、とかか。俺達は龍に挑み、禁忌の魔術具を破壊した冒険者として、この城では広く知られているのだ。その腕前が噂通りのものか、試したくなる気持ちはわからなくはない。


 とは言え、そんなことは聞いてみればわかる話だ。


「決闘か……場合によっては別に受けても構わないんだが、そもそもなんで俺なんだ?」


 まぁ、クリスティーネ達と戦わせろなどと言われても困るのだが。仮に少女達が手合わせを望んだとしても、先に俺の方で騎士達の腕は測らせてもらうつもりだ。

 そんなことを考えていたが、俺の言葉に騎士は何故だかイルムガルトの方へと目線を向けた。


「実は、あなたに勝つことが出来れば、イルマさんがデートをしてくれると仰って……」


「……なんだって?」


 騎士の言葉に、俺は思わずイルムガルトの顔を凝視した。その途端、蒼鱗の女は露骨に俺から顔を逸らした。ちょっと待て、何の話だ。


「イルマ、知り合いなのか?」


「知り合いってほどでもないわ。ただ昨日、少しね」


 昨日と言うと、やはり食事会の場で知り合ったのだろうか。ほとんど俺達から離れているようには見えなかったが、いつの間に面識を持ったのか。


「それで、デートって言うのは?」


「私と話がしたいって言うから、ジークハルトに勝ったら考えるって言ったのよ」


「勝手に俺を巻き込むなよ……」


 イルムガルトの言葉に、俺は思わず溜息を漏らした。

 つまりは、イルムガルトは食事会の席でナンパをされたということなのだろう。それ自体は、何ら不思議なことではない。イルムガルトは容姿が整っているし、昨日のドレス姿も良く似合っていた。見惚れる騎士がいるのは当然である。


 だが、何も俺を巻き込む必要はなかっただろう。そう言ったことは、当人同士で話し合って決めてくれればよいと思う。

 そんな俺の疑問に、イルムガルトはこちらへと顔を寄せた。


「別にその場で断っても良かったけど、しつこく付き纏われても面倒でしょう? 条件を付けたほうが早いと思ってね。ジークハルトに勝てるくらい強いのなら、話くらいはしてあげても構わないし」


 そんなことを耳打ちしてくる。それならそれで、前以て俺に話をして欲しいところなのだが。

 それからイルムガルトは俺から少し離れながらも、言葉を続けた。


「それに、これは私だけに関わる話じゃないのよ」


「……と言うと?」


 何となく予想をしながらも、俺は騎士達へと問いかけた。

 騎士達は俺の言葉を受け、その場で姿勢を正して見せる。


「俺はそちらのクリスさんと」


「私はそちらのフィナさんと」


「そして僕は、イルマさんとのデートを望みます!」


 前以て決めていたかのように、騎士達は順番に自身の想いを表明した。

 クリスティーネもフィリーネも、人目を引く容姿をしているのは百も承知だ。さすがに決闘を申し込まれるのは想定外だったが、食事会の席で二人に見惚れる者が出ることはある程度予想していたことだ。


 さて、彼らの言葉を受けて、少女達はどういった反応を示すのか。


「……えっ?」


 当のクリスティーネはというと、よくわからないといった様子で小首を傾げて見せた。自分のことを言われているという自覚があまりなさそうだ。


「んん?」


 フィリーネの方はというと、難しそうに眉根を顰めている。少なくとも、嬉しそうには見えないな。

 仕方がない、俺の方からもう一度話を伝えるか。


「クリス、フィナ。この騎士達は二人とデートがしたいと言うことだが……どうする?」


 俺の気持ちを言わせてもらうと、別に独占欲というわけではないが、二人がこの騎士達と二人きりで出掛けるという事には思うところがないわけではない。だが、二人がそれを望むというのであれば、俺にそれを止める権利などないのだ。

 二人はどちらを選択するのだろうかと、俺は少し緊張しながら様子を窺った。


「えっと……そう言うのは、ちょっと……」


 クリスティーネはとても困った顔でそう告げた。はっきりと拒絶の言葉を返すほど強くは言い返せないものの、あまり気は進まないといった様子だ。


「フィー、嫌なの」


 それに反してフィリーネは騎士の言葉をバッサリと斬り捨て、俺の腕へと己の腕を絡めた。フィリーネとのデートを希望した騎士は少しショックを受けたような表情を見せる。ちょっと可哀想だ。

 ひとまず二人の意思は確認できたと、俺は騎士達へと向き直る。


「という事らしい。諦めてくれ」


「そこをなんとか!」


 俺の言葉に、騎士達が懇願するように両手を合わせる。随分と必死だが、それだけ少女達に見惚れたということだろう。そうは言っても、本人達が嫌だというなら、俺としても行ってやれなどというつもりはない。

 何とか帰ってもらえないかと思っていると、イルムガルトがこちらへと一歩近づいた。


「だから、ジークハルトと勝負して勝ったら応じてあげるって言ったのよ。クリスもフィナも、ジークハルトが負けるなんて思わないでしょう?」


「うん! ジークが負けるわけないよ!」


「当然なの」


「ということでジーク、私はともかく、二人のために頑張って」


「……仕方ないな」


 俺との勝負に負ければ潔く諦めるというのであれば、決闘を受けても構わないだろう。何だかイルムガルトにいいように使われている気がしないでもないが。

 ただ、俺としても決して決闘に乗り気でないというわけではないのだ。


 何しろこれは、帝国の騎士の腕前を体験する良い機会である。俺達だけの模擬戦闘では、どうしたって恒常化してしまっているところがある。何せ、互いの手の内など当の昔に熟知しているのだからな。

 ここに来て、初めての相手と訓練が出来るというのは、俺としても嬉しい話だ。


 俺はイルムガルトの言葉に一つ溜息を吐き出し、騎士達へと向き直る。


「わかった、決闘を受けよう」


 こうして、俺は帝国の騎士三名との決闘を行うこととなった。

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