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532話 とある騎士達の一目惚れ2

 それからも食事と酒に手を付けながら様子を窺う僕達だったが、なかなか機会は巡ってこなかった。彼らは一度、姫様に呼ばれて皇帝陛下の元に赴いたようだが、それ以外は最初のテーブルから動かなかったのだ。

 特に茶髪の青年は依然として周囲を警戒している様子で、特に氷龍の少女を気にかけているらしい。半龍の少女も白翼の少女も、それから青髪の女性も、彼からあまり遠くへと離れることはなかった。


 だが、これはもう諦めようかと思った時、唐突に機会が巡ってきた。氷龍の少女が、何故だかこちらのテーブルへとやって来たのだ。

 僕達は思わず、氷龍の少女から距離を取った。限りなく害は低いのだろうが、氷龍の相手などどうすれば良いのかわからない。


 幸いにも、氷龍の少女は僕達を気にした様子もなく、テーブルの料理へと手を付け始めた。どうやらこちらの料理が目的だったらしいと、僕は胸を撫で下ろす。

 しかし、これは良い兆候ではないだろうか。先程までの青年の様子では、随分と氷龍の少女の事を気にしている様子だった。この子がこちらへ来たということは、彼もこちらへと来る可能性が高い。


 そうなれば、青年は少女達から離れることになるのだ。その間に、少女達に話しかければ良いだろう。

 案の定、青年は氷龍の少女の元へ来ようと一歩を踏み出しかける。だが、よし、と思った瞬間、青年は隣にいた半龍の少女に話しかけられていた。


 それから足を止めた青年は、どうやらそこから半龍の少女を見守ることに決めたらしい。なかなか上手くはいかないようだ。

 こうなれば、別の手を考えた方が良いだろう。僕はすぐ目の前のテーブルで食事をする、氷龍の少女へと目を向けた。


「……よし、あの子に話しかけてみるか」


「おいおいルカ、本気か? 相手は氷龍だぞ?」


 マルクが氷龍の少女に聞こえないよう、声を潜める。その言葉に、僕は小さく顎を引いて見せた。


「あぁ、折角の機会だろう? 無駄には出来ないよ。それに、多少話をするくらいなら大丈夫なはずだ」


 今まで青年達の様子を見ている限りでは、警戒している様子はあったものの、普通に食事を楽しんでいたようだ。それは氷龍の少女にしても同じである。

 別に接近禁止令が通達されているわけでもないのだ。この子に話しかけたくらいで、何か問題が起こるようなことはないだろう。


「ルカに賛成ですね。氷龍の子から、彼女達の情報を集めましょう」


「……よし、付き合うぜ!」


 それから僕は、マルクとキールと一緒に氷龍の少女へと歩み寄っていった。


「ちょっといいかな?」


「ん? なんじゃ?」


 僕の言葉に、少女は不思議そうな顔をしてこちらを見上げた。


「君、確か氷龍の姿になれる子だったよね? 名前を教えてもらえるかな?」


「うむ? 良かろう、我は氷龍のレイじゃ!」


 僕の言葉に、氷龍の少女は疑う様子もなく名乗りを挙げた。こうして見ると、言葉使いは少々特殊だが、普通の女の子にしか見えないな。


「レイちゃんだね? 僕はこの城の騎士をやっているルカと言うんだ。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「聞きたいこと? ふむ、我に応えられることであれば構わぬぞ?」


 僕の言葉に、レイは首を傾げながらこちらへと体ごと向き直った。思った以上に素直な様子で、この子が氷龍だということが信じられなくなりそうだ。

 僕はレイの言葉に「あぁ」と言いながら言葉を続ける。


「レイちゃんと一緒にいた人達がいるよね? その中で、青髪の――」


「銀髪の子について教えてもらえないか?」


 僕の言葉を遮り、マルクが氷龍の少女へと問いかけた。ちょっと、先に僕がこの子に話しかけたんだけど。

 レイはマルクの言葉に首を傾げ、元居たテーブルの方へと顔を向けた。


「銀髪と言うと、クリスの事かのう?」


「クリスさんと言うのか……その、どんな方なんだ?」


「そうじゃのう、我と同じで食べることが好きじゃな! 我にとっては、姉のようなものじゃ!」


 レイの言葉に、僕は驚きを隠せなかった。氷龍の少女が己の姉と慕うほどとは、彼らは随分と信頼されている様子だ。

 少女の言葉に、マルクは何度も頷きを見せた。


「食べることが好きとは、俺と気が合いそうだな! なぁ、他には――」


「レイさん、白髪の子の事を教えてもらますか? 白い翼の子です」


 さらに問いかけようとするマルクを押し退け、キールが声を掛ける。

 その言葉に、レイはほぅほぅと頷きを見せた。


「白髪と言えばフィナじゃな。フィナはそうじゃな、普段はのんびり屋さんじゃな。良く一緒にお昼寝をするのじゃが、翼がふかふかで気持ちが良いのじゃ!」


「なるほど、確かに見事な翼ですよね。ただ、もう少し内面を知りたいのですが……」


 楽しそうなレイの言葉に、キールは眉尻を下げて見せた。彼としては白翼の少女の好みなどを聞きたいのだろうが、氷龍の少女の口から語られた内容は、彼女の主観を大いに含んだものだった。

 深く問えば答えは返ってきそうなものだが、僕にだって聞きたいことはあるのだ。僕はレイが応えるよりも先に、少女へと問いを投げかける。


「レイちゃん、青い髪の女性の事を教えてもらえるかな?」


「ふむ、青い髪と言うとイルマじゃな」


 そう言って、レイは話題の女性の方向へと目を向けた。僕も釣られてそちらへと目を向けてみれば、件の女性と目が合った。

 女性はどこか、訝しむような目線をこちらへと向けている。不審に思われただろうか。


「イルマさんと言うんだね? どういう方なのかな?」


「イルマか、そうじゃな……いつも落ち着いておるな! 我がシャルやエルザと遊んでいるところを、よく見守ってくれておるぞ!」


「なるほど……」


 やはり年上の女性として、包容力があるみたいだな。僕の思った通りだ、これは是非とも彼女と話をしてみたいところだ。

 それにしても、レイの言うエルザと言うのは、もしやエリザヴェータ姫のことだろうか。彼ら冒険者達がエリザヴェータ姫のところに滞在しているという話は聞いていたが、思った以上に親密な様子だ。


 そんな風に考えていると、目の前の少女が不思議そうに首を傾げて見せた。


「しかし、何故そのようなことを聞くのじゃ?」


「え? えっと、それは……」


 少女の言葉に、僕は思わず言い淀んだ。正直にお近づきになりたいなどと言っても良い物だろうか。

 だが、そんな風に口籠ったのが不味かったのだろうか。


 不意に、少女の氷の瞳がすっと細められた。


「お前達、もしやクリス達によからぬことをしようなどとは思っておらんじゃろうな?」


「い、いや、そんなことは……」


「クリス達に危害を加えるようなことは、氷龍である我が許さぬぞ」


 豹変した少女の様子に、僕は思わず後退った。マルクもキールも、少女から放たれる言い知れぬ圧力に顔を青褪めさせている。目の前の少女が本質は氷龍だということを、今更に思い知らされた。

 もしも氷龍を怒らせたとあれば、僕達はただでは済まないだろう。周囲の助けが入るよりも先に、僕らは軽々と殺されてしまうに決まっている。


 不味い、今すぐ何か言わなければ。

 僕はレイへと向け、否定するように両手を忙しく振って見せた。


「ご、誤解だよ! ただ、僕らは彼女達と仲良くしたいだけなんだ!」


「ふむ? 仲良くとな?」


 僕の言葉に、レイは怒気を収めた。如何に氷龍と言えど、短絡的な行動は取らずに耳は貸してくれるらしい。

 これならば、まだ話し合いの余地はある。


「そ、そうなんだ! 一目見た時から、彼女達のことが気になっていてね? 出来れば、彼女達と二人きりで話をしたいと思っているんだけど……」


 僕の言葉に同意するように、マルクとキールが激しく首を縦に振って見せる。

 そんな様子を目にしてか、氷龍の少女はすっかりと表情を先程までの少女らしいものへと変えた。


「ふむ、クリス達と話をか……うむ、それくらいであれば――」


 そう少女が言い掛けた時だった。


「レイ、何かあった?」


 青髪の女性が、俺達のところへとやって来た。

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