531話 とある騎士達の一目惚れ1
僕の名前はルカ・エリシナ。ここ、帝都ゴーラトガラーで騎士をやっている。
騎士見習いになって三年、更に正騎士になって三年、時折魔物の討伐なんかを行いながら、日々訓練に励む日々を過ごしている。
先日、城が影のようなものに覆われるという大事件があった。原因が禁忌の魔術具だったというのは、後から聞いた話だ。
いつものように騎士棟で訓練を行っていた俺も、その事態の収拾にあてられた。影から湧き出てくる人型の魔物のようなものを相手に戦っている間に、どうやら事態は収まったらしい。
そうして今日、僕は城で行われる食事会へと招かれた。何でも、禁忌の魔術具に纏わる騒動を解決した褒美の一種ということだ。僕だって多少は頑張ったつもりだが、数匹の魔物を抑えていた程度でしかないので、こんな風に招待されるのは嬉しい。
同期で入隊した騎士達と共に食事会の開催を待っていると、ふと周囲の騎士達が大広間の入口の方へと目を向けた。何かあったのだろうかと、僕は騎士達の視線を追う。
そこには、やけに人目を引く集団がいた。
先頭にいたのは、明るい茶髪の青年だった。外見はまだ歳若く見えるが、何か秘めた力のようなものを感じる。少なくとも、見た目で侮っていいような相手ではないだろう。
そして問題なのは、彼の後に続いて入ってきた少女達だった。青年は煌びやかなドレスを身に纏った美少女達を、総勢で七人も連れている。
どの少女も町中で見かければ思わず振り返ってしまうだろう容姿をしていたが、その中でも特に僕の目を引く女性がいた。藍色のドレスを身に纏った、僕よりも少し歳上の青い髪の女性だ。首元に鱗のようなものが見えるあたり、人族ではなさそうだ。
だが、異種族であったとしても関係ない。あれほどの美人だ、何とかお近づきになれないだろうか。
そんなことを考える僕の肩に、両側から手が置かれた。
「おいルカ、すごい美人がいるじゃないか。あれは誰だ?」
「マルク、君も気が付いたか」
話しかけてきたのは同期のマルクだ。体格の良い騎士で、両手剣やハンマーと言った武器を好んで使用している。
「あんな美人、この城にいたか?」
「例の禁忌の魔術具を破壊したという冒険者達でしょう。ほら、氷龍の少女を連れています」
マルクの問いに答えたのは、同じく同期のキールだった。細身ながら、槍の扱いが上手い騎士だ。
僕達はまだ若手の騎士なので、先刻の氷龍の姿を見る場では、少し遠くに配置されていた。そのため、噂の冒険者達の姿を目にするのはこれが初めてなのだ。
辛うじて、騎士達の中心に歩いていき、氷龍へと姿を変えた少女を見ただけである。その近くに冒険者達もいたはずなのだが、氷龍ばかりに気を取られていたのであまり記憶に残ってはいなかった。
「あれがそうなのか? あまり強そうには見えないが……」
「龍を手懐け、禁忌の魔術具を破壊した人達だぞ? 強いに決まっているだろう」
噂の冒険者達については、氷龍に餌付けしたとか力でねじ伏せたとか、何故か黒龍を仕留めたなどと情報が錯綜している。だが、少なくとも龍に挑むほどの実力があることは確かだ。
僕達にはそこまでの実力がないということで、氷龍の鱗を手に入れるための討伐隊にも選ばれなかったほどだ。彼らの実力は、王族の護衛を除けばこの場の誰よりも上だと考えても良いだろう。
「ううむ、何とかあの銀髪の美人と話せるといいんだが……」
「あ、マルクの好みはそっちなんだ? 確かに、その、大きな子だよね」
どうやらマルクの興味は銀髪の半龍族の娘のようだ。
ちなみに大きいというのは背が高いという意味ではなく、胸が大きいという意味である。容姿も美しいし、マルクの好みのど真ん中であることは間違いない。僕にしたって、青髪の女性がいなければ彼女に目を奪われていただろう。
「確かにその子も美人ですが、やはり一番はあの白髪の子でしょう。見てください、あの愁いを帯びた表情を、儚げな佇まいを。何とも庇護欲をそそられますね」
キールの好みは白翼の有翼族の娘らしい。確かにあの子も綺麗な娘だし、何より純白の翼が美しい。
「庇護欲って言っても、多分彼らは僕達よりもずっと強いよ?」
「そこは俺達が鍛えれば、そのうち釣り合いは取れるだろう?」
さすがマルクは前向きだ。自分の腕前が上がればいいと考えるのは、良い考え方だと思う。
「それで、ルカはあの中だと誰が好みなんです?」
「僕は青い髪の女性だな」
「お前、年上好きだもんな」
僕の答えにマルクが笑みを返す。この三人では頻繁に酒を飲んでいるので、女性の好みなんかも既に周知されているのだ。
「どうする、話しかけてみるか?」
「ちょっと難しいんじゃないかな?」
先程から、茶髪の青年は周囲を警戒している様子だ。女の子達に話しかけようとしても、彼が間に入るであろうことは想像に難くない。
それに、半龍の少女も白翼の少女も、茶髪の青年と随分と仲が良いように思う。親し気に青年と腕を絡める様子からは、親密な間柄であることが窺えた。
それと比較すれば、青髪の女性は他の娘達よりは青年と多少距離がある。あれで青年と恋仲なんてことはないだろうし、まだ話しかけやすい方ではないだろうか。
そんな風に考える僕の横で、キールが軽く首を横に振って見せる。
「しばらく様子を見たほうがいいでしょうね……だって、あれを見てくださいよ」
そう言って、キールは青年の方を指し示した。
見れば、茶髪の青年は氷龍の少女を躊躇なく抱え上げているのではないか。随分と気安い様子で、少女の方も青年の首へと腕を回している。
「すごいな……あの子、あんな姿だが本当は氷龍なんだろう?」
「あぁ、それを躊躇なく抱き抱えるなんて……」
氷龍の少女を抱き抱えた青年は、欠片も怯えた様子など見せずに腕の中の少女へと何やら話しかけている。
いくら少女の外見をしていたとしても、その本質は氷龍なのだ。僕には仮に話しかけられたとしても、あんな風に接することは出来ないだろう。
「よし、ひとまずキールの言うように様子を窺おうぜ。そのうち別行動をするだろうし、その時に話しかけるとしよう」
そんなマルクの言葉に、僕とキールは揃って頷きを返すのだった。
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