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529話 お城と食事会3

「……なんだろうか」


 皇帝の言葉に、俺は思わず身構えた。わざわざ皇帝から俺に対して言いたいことなど、碌な話ではないだろう。

 何だろうか、やはり氷龍であるレイを無断で城内に連れ込んだ件だろうか。それとも、許可なく騎士達に助力して本棟に踏み込んだことだろうか。


 いや、一番あり得そうなのは、禁忌の魔術具を破壊するために室内を滅茶苦茶にしたことだろう。はっきりとは覚えていないものの、壁に大穴を開け天井を抉り、調度品をいくつも壊したはずだ。

 あれらの賠償はしなければならないだろう。せめて、魔術具を破壊した功績で多少手心を加えて欲しいところなのだが。


 そんなことを考える俺の前で、皇帝は軽く頭を下げた。


「今回、禁忌の魔術具を破壊してこの国を救ってくれたことに感謝する」


 その言葉に、俺は思わず息を呑み込んだ。

 貴族のような権力者、それも皇帝のような立場の者が、俺達のような一般人を相手に軽々しく頭など下げるものではないだろう。こういう場合は顔を上げてくれと言うべきなのだろうか。いや、それすら失礼になりそうな気がする。


「それは……あー、エルザには世話になったからな」


 そんな風に曖昧に答えるしかなかった。実際、エリザヴェータには世話になっているし、その恩返しの気持ちがあったことも嘘ではない。


「うむうむ! 我としても、町がなくなっては来られなくなってしまうからな!」


「ははっ、人の姿をした氷龍が町中にいるなどと知られれば、騒ぎになるだろうな」


 レイの言葉に、皇帝はさぞ可笑しいといった様子で笑って見せた。この物言いでは、町の人々にはレイの事を知らせないのだろうな。

 無駄な混乱を生むよりは、城内だけの秘密に留めた方が良い。もっとも、そのうち噂として出回りそうなものだが。


「明日は叙爵の儀を執り行う。よろしく頼むぞ、名誉男爵殿」


「……有り難く、受け取らせて頂く」


 返す言葉が、思わず硬くなる。俺としては男爵の肩書など、正直に言って荷が重い。名誉だとか思うよりも前に、本当に貰ってよいのだろうかと言う気持ちだ。

 もっとも、以前ヴィクトルから聞いた話によれば、あくまで名ばかりの爵位のようなものらしいので、あまり気にする必要もないのだろうが。本当に、下手に土地など貰わなくてよかった。


 そう考える俺の前で、皇帝は何やら肩を落として見せる。


「本当なら、通常の男爵の地位を授けたいところなのだがな……どうだ、このままこの地に留まらぬか?」


「それは……有り難い言葉だが、約束があるんだ」


 皇帝からの問いに、俺は否定を返す。

 まず、アメリアとエリーゼを王国にある火兎族の里まで送ってやる必要がある。アメリアはエリーゼを見つけ出したことで、火兎族から出てきた目的を達したし、エリーゼにとっては五年ぶりの故郷だ。


 ダスターガラーの町で奴隷から解放してから、もう随分と日数が経過してしまった。かなり回り道をしてしまったが、ようやく帰れる目途が立ちそうなのだ、早く故郷へと送ってやりたい。

 それから、イルムガルトを王都まで連れ帰る約束もしている。イルムガルトの故郷は王都の西と言うことだからな、まず王都までは連れ帰ってやらなければ。その後のことは、またその時に話し合えばよいだろう。


「そうか、残念だな……優秀な冒険者には、是非とも我が国に残ってもらいたいものなのだが」


 そう言って、皇帝は心底残念そうな様子で溜息を吐く。

 多少リップサービスが含まれてはいるのだろうが、俺達の実力はそれなりのものだし、事実として今回の騒動を収めた実績がある。そんな俺達が国を離れることを、惜しく思っているのは本心のようだ。


 皇帝の権力を駆使すれば、俺達の意思を無視してこの地に留め置くことだって不可能ではないだろう。それでもそうせずに潔く引く姿勢には、好感が持てるな。さすがに、エリザヴェータの父親だけはある。

 それから皇帝は、氷龍の少女の方へと視線を移す。


「レイと言うのだったな? お前はこの先も、我が国に留まるのだろう?」


「国と言うのがどこまでかわからぬが、我の棲み処は山にあるぞ!」


 氷龍の少女にとっては、国と言う概念などあってないようなものだろう。例え領地の境界線が変わったところで、そこに住むレイに影響が出るようなことはない。

 そんな少女の様子を見て、皇帝は難しそうに眉根を寄せた。


「レイに通常の男爵の地位を渡すかと言う意見も出たのだがな……」


「それは……さすがに無理があると思うが……」


 皇帝の言葉に、躊躇いがちに言い返す。

 いくらレイが人の姿を取り、言葉を交わせたとしても、その本質は氷龍なのだ。この子に領地の経営なんてまず出来ないだろうし、代理として人を雇うのも難しい話だろう。

 そんな俺の言葉に、皇帝は一つ頷きを返す。


「あぁ、私もそれは承知している。名誉称号を授与し、登城を許すのが精一杯だろう」


 氷龍の身に名誉男爵の称号を渡すことも、結構思い切った処置だとは思うのだがな。まぁヴィクトルの話では、氷龍と敵対することなど以ての外ということなので、それなら密に手を取り合う方向へと舵を切ったという事なのだろうな。


「本当ならもっと私的な場で、じっくりと話を伺いたいところなのだがな。残念ながら、許されていないのだ」


 そう言って、獅子のような男は溜息を吐きだした。

 皇帝と言う立場では、俺達のような者とはこういった大勢集まる場で多少言葉を交わすことは出来ても、改めて話し合いの場を設けるようなことは出来ないらしい。

 正直、俺としては皇帝と向かい合って話をするのは緊張するので、そういった場が開かれないことは有難い。


「後日、また改めてヴィクトルを向かわせる。今回の顛末を始め、詳しい話はそちらでしてくれ」


「ジークハルトさん、今日は楽しんでくださいね!」


「わかった、楽しませてもらうよ」


 そう言って俺は皇帝に軽く頭を下げ、その場を後にするのだった。

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