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526話 食事会に向けて2

「ジーク、お待たせ!」


 元気な声と同時に、少女達が扉を開けて室内へと入ってくる。その時の俺は、「お連れ様方はもう少し時間がかかるようです」と言う侍女の用意してくれた紅茶を飲みながら、そろそろ出ないと間に合わないんじゃないか、などとぼんやり考えていた。

 どうやら食事会に出るための着替えが終わったらしい。俺は紅茶のカップをテーブルへと戻し、入口の方へ顔を向け腰を浮かせる。


「あぁ、遅かったな。もうすぐ――」


 俺は腰を中途半端に上げた体勢で、瞳を見開いた。目の前の光景に、思わず言葉を失ったのだ。


 まず目に入ったのは、半龍の少女と白翼の少女の二人だ。

 両開きの扉を同時に開け放ったと思しき二人の少女は、先を争うように俺の方へと駆けて来る。そうして俺の目の前まで来ると、自らの姿を見せつけるように大きく両手を広げて見せる。


「見て見てジーク! どうかな?」


「似合ってるの?」


「ちょっと待て! ちゃんと見るから、少し離れてくれ」


 二人がぐいぐいと来るものだから、全体像が見えないのだ。俺の言葉に、二人はハッとしたように表情を変え、数歩後退った。そうしてようやく、頭から足先までが見えるようになる。

 クリスティーネが身に纏っているのは、白を基調としたドレスだ。腰に巻かれた大きな緋色のリボンが良いアクセントになっている。袖は花のような複雑な作りとなっており、内側の二の腕が透き通って見える。


 対してフィリーネは黒色のドレスを身に纏っていた。全体的なデザインはクリスティーネのものと似ているが、どちらかというとフィリーネの方がシンプルな造りである。意匠が単純な分、少女の白髪がよく映えている。

 てっきりフィリーネあたりは露出の多いドレスを選びかねないと思っていただけに、普通のドレスが出てきて拍子抜けした気持ちだ。


 とは言え、両者共に似合っていることは言うまでもない。薄く化粧も施されているようで、普段よりも少し大人びて見えた。


「あぁ、とてもいいな。二人とも、すごく綺麗だぞ」


 俺が素直な感想を口にすれば、クリスティーネは顔を赤らめ、フィリーネは口元に笑みを浮かべた。少なくとも喜んでは貰えたらしい。

 そこへ、残りの少女達が歩いてきた。


「ちょっとジークさん、アミーのことも見てあげてよ!」


 そう言って、エリーゼがアメリアの手を引いて来る。その姿を見て、俺は片眉を跳ね上げた。

 二人が身に纏っていたのは、そっくりな明るい緋色のドレスだった。肩が大きくさらけ出され、二の腕がさりげなく覆われている。スカートの前面は膝丈だが、後ろに回るに連れ少し長くなっている。


 何よりも目を引くのは、二人の頭部だろう。鏡写しのように、二人の赤毛には白い大輪の花飾りが挿されていた。こうして見ると姉妹のようだな。

 普段通りに見えるエリーゼに対し、アメリアは不慣れな服装のためか、どこか委縮しているように見えた。アメリアの手を引くエリーゼは、さぁ褒めてやれとばかりに俺へと仕切りに目配せを送る。


「似合ってるぞ、アメリア。もちろん、エリーゼもな」


「ふふっ、ありがと!」


「あ、あんまり見ないでよ……」


 純粋に言葉を受け取るエリーゼに対して、アメリアは恥ずかしそうに顔を俯かせた。ドレスを着るのが嫌と言うわけではなさそうなので、しばらくそっとしておいてやれば、そのうち慣れるだろう。


「ジークや、我はお腹が空いたぞ!」


「レイさん、走ると折角のドレスが乱れちゃいますから……」


 俺に縋りつき両手を伸ばしてくるレイの後ろで、シャルロットがドレスの皴を伸ばしてやっている。二人が身に纏っているドレスも似通っており、薄水色の可愛らしいデザインだ。

 胸元が前面に折り返されているような意匠で、肩と鎖骨がはっきりと見えている。どことなく清楚な雰囲気はシャルロットによく合っているが、レイはそんな雰囲気を吹き飛ばすほどに元気が有り余っている様子だ。


「二人とも可愛いな。食事会に行けば好きなだけ食べられるから、もう少しだけ待ってくれ」


 俺の言葉にシャルロットは照れたような笑みを浮かべるが、レイはまったく気にした様子がない。この氷龍の少女にとっては、色気よりも食い気の方が大切らしい。

 それから俺は、最後の一人へと目を向けた。


「イルマも似合って……いや、本当に似合ってるな」


「当然よ」


 思わず漏れた本音に、イルムガルトは少し得意げにポーズを取って見せた。だが、実際によく似合っていた。

 イルムガルトが身に纏っているのは藍色のドレスだ。全体的に体のラインが出るようなデザインで、他の少女達よりも大人っぽい雰囲気である。


 前身から伸びる布が首の後ろで留められており、腕や肩を露出させつつ、背中が大胆に開いている。

 どことなく、皆よりも着こなしにこなれた感じがした。


 七人の少女達が立ち並ぶさまは壮観の一言で、これを見られただけでもドレスを着用するよう勧めた甲斐があったというものだ。正直、他の騎士達にこの姿を見せるのが、少し惜しい。


「ジ、ジークも、その、すっごく似合ってて……か、格好いいよ!」


「そうか? ありがとうな。ただ、ちょっと首周りがきついんだよな……」


 俺もエリザヴェータの強い勧めにより、パーティ用の正装を身に纏っている。白いシャツに茶のブリーチ、足には皮のブーツを履き、上から丈の長い黒のコートを羽織る形だ。

 襟にはタイを巻くのだが、これが慣れていないために少々窮屈なのだった。軽く首を回してみても、若干の圧迫感を覚える。


 そんな俺の片腕が、フィリーネによりするりと取られた。


「似合ってるから平気なの! さぁジーくん、パーティに行くの!」


 次いで、反対の腕がクリスティーネに取られる。


「えへへ、パーティの料理、楽しみだなぁ!」


 綺麗に着飾っていても、フィリーネは食事会で出される料理の方が気になるようだ。その様子に思わず苦笑を漏らしながら、俺は少女達と共に部屋を後にするのだった。

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