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524話 氷龍のお披露目2

 レイが氷龍の姿を取ると同時、周囲の騎士達から一斉にどよめきの声が上がる。中には、腰の剣に手をかける者もいた。無理のない反応だ、いくら話に聞いていたとは言え、実際に目にすると驚きが勝るものだ。

 それでも恐慌状態に陥らないあたりは、さすが訓練を積んだ騎士と言うことだろうか。本棟の窓から見える使用人の中には気を失った者もいるように見えるが、あれは大丈夫なのか。


 そんな光景を見渡してから、俺は身内に当たる少女達の様子へと目を向けた。

 当然のことながら、クリスティーネとシャルロットは大きな反応を見せていない。この二人は、俺と同じく氷龍となったレイの姿を何度も見ているのだ。


 それからフィリーネとエリーゼ、イルムガルトもそこまで驚いてはいない。三人が氷龍の姿となったレイを見るのは、騒動のあった日に目の前で変わった姿と影の巨人と戦っている姿、それに少女の姿に戻った時だ。

 それなりの時間、視界に納めていたのである程度見慣れたようである。特にフィリーネは普段から表情の変化が控えめなので、今も興味深げに観察するような視線をレイへと向けていた。


 唯一、アメリアだけが少し緊張した様子を見せていた。

 思い返してみれば、アメリアは魔術具の生み出した影に呑み込まれていたがために、レイが氷龍の姿となる瞬間も、影の巨人と戦っている姿も見てはいない。ただ一度、レイが氷龍の姿から人の姿に戻るところを見ただけだ。


 それらを確認し、俺は反対側へと目を向けた。そちらにいるのはエリザヴェータと皇帝、それから皇族の護衛を務める騎士達である。

 まずエリザヴェータだが、意外なことに氷龍の姿を恐れてはいないようだ。もちろん驚きはしているようなのだが、大きく開いた翠の瞳を、キラキラと輝かせている。新しい玩具を貰った子供のような、無邪気な表情だ。


 それから皇帝だが、こちらも警戒はしているように見えない。ただ目の前の光景に大層感心しているようで、レイの姿を観察するように目を細めていた。


「なるほど、これが氷龍か……美しいな……」


 皇帝が小さく言葉を溢す。少なくとも、悪い印象は持たれていないようだ。


『ふふん、どうじゃ、我の真の姿は! 恐れ、崇め、敬うがよいぞ!』


 あらゆる視線を独り占めにしたレイは絶好調の様子だ。その声は騎士達にも聞こえているようで、再びどよめきの声が上がる。

 氷龍からそんな言葉を掛けられては、威圧されているように感じかねない。ただ、この子に悪気がないことはよくわかっている。レイの事をよく知る俺には、少女の姿のレイが胸を張る光景が思い浮かんだ。


「なんと、この姿でも会話が可能なのか」


 皇帝はただ純粋に驚いているようだ。そう言えば、氷龍の姿でも言葉が通じることは言っていなかったかもしれない。

 エリザヴェータと皇帝はレイの事を警戒していない様子だが、周囲の騎士達はレイに恐怖を覚えている者も少なくなさそうだ。もう少し、安全であることを強調しておいた方が良さそうだな。


 そう考え、俺は傍らのアメリアの手を取った。


「ほら、アメリア。大丈夫だから、な?」


 そう声を掛けながら、レイの方へとゆっくりと近寄る。


「わ、わかってる、平気よ!」


 そう返しながらもアメリアは俺の手を振りほどかず、むしろ握り返した。そのまま、俺の後に続いて氷龍の方へと歩み寄る。

 レイが大人しくその場に伏せる姿を見ながら、俺はそのすぐ隣まで近寄った。そうしてレイの氷の鱗に覆われた左腕へと、アメリアの手を誘導する。


 アメリアは少し緊張した様子だが、俺の勧めるままにレイの体へと手を伸ばした。そのまま、鱗の表面を軽く撫でる。


「どうだ、アメリア? これが氷龍の鱗だ」


「知ってるわよ、ジーク達が持ち帰ったんでしょう?」


 そう言えば、アメリア達も素材としての氷龍の鱗は見たことがあるのだった。それでも氷龍の体には興味があるようで、感心した様子でその体へと触れている。


「我々も触ることが出来るのか?」


「大丈夫だ。ただ、硬さを試そうとか、武器で斬りつけるようなことは止めてくれ」


 皇帝の声へと言葉を返す。多少斬りつけられたところで、氷龍の鱗には傷一つ付けることも難しいだろう。それでもレイに対して武器を向けるようなことは、俺の心象的に許したくない。

 皇帝は了承の返事を返し、周囲の騎士達を諫めると、静止の声を無視してエリザヴェータを連れこちらへと歩み寄ってきた。


 そのまま二人は至近距離で氷龍の姿を見上げ、揃って感動したように大きく息を吐きだした。そっくりなその動作に、血の繋がりを感じさせる。

 続いて皇帝は恐る恐るといった様子で、レイの腕へと手を伸ばす。その手が鱗に触れ、その表面を指先で撫でた。


「おぉ、これが氷龍か……すごいな……!」


「硬くて、とっても冷たいです!」


 レイの体に触れる二人は、実に楽しそうな様子だ。

 その姿を、レイの大きな金の瞳が映した。


『どうじゃ、我の背中にも乗ってみるか?』


「何、良いのか?!」


 レイの言葉に返す皇帝の声には、隠しきれない期待の色が含まれている。まさか、皇帝が乗り気になるとは思わなかった。

 周囲の騎士達からは「陛下、おやめください!」といった声が上がるが、本人はどこ吹く風だ。騎士達には悪いが、俺にも皇帝は止められない。


「お父様、ずるいです!」


「よし、任せておけ!」


 不満そうに頬を膨らませたエリザヴェータを、皇帝は躊躇なく抱き上げた。どうするつもりかと眺めていれば、その場で跳躍し、一息にレイの背中へと乗ってしまう。

 なかなかの身体強化の使い手だな。それに、随分と破天荒な性格のようだ。


「すごいです! お父様、高いです!」


「はっはっはっ! すごいぞ、これが龍の視点か!」


 頭上から声が降ってくる。騎士達は口々に「陛下! 姫様!」「危険です!」「お降りください!」などと叫ぶが、当の本人達は随分と楽しそうな様子だ。

 氷龍の背に乗り、愛娘と笑いあう皇帝の姿は、まるで少年のようだった。

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