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520話 宰相との話し合い2

「もちろん我々としても、帝都近隣に氷龍が巣をつくり、人を襲い始めたという事であれば討伐を試みます」


 ヴィクトルが説明するには、数十年前にそう言った事態が実際に起こったということだ。ヴィクトルも記録で読んだだけだというが、当時の騎士や冒険者の総力を挙げて、氷龍を打ち取ったらしい。


「ですが、当時と現在とでは状況がまるで違います」


 そう言って、軽く首を振って見せる。

 まず何よりも、場所が悪い。当時は場所が帝都の外だったので、周囲への被害など考える必要などなかった。だが、今回はよりにもよって城内なのである。こんなところで氷龍が暴れれば、被害は騎士以外の使用人達まで、大勢に至ることだろう。


 そして状況も悪い。騎士団長を始め、有力な騎士や冒険者達は、氷龍の鱗を求めて帝都を離れているのだ。残った戦力だけで、氷龍を討伐するのは至難の業である。

 それから最大の理由として、件の氷龍は人と敵対しておらず、むしろ手を貸すほどで、会話が可能だという点である。


「話の分かる氷龍が相手ですよ? 討伐などせず、交流した方が利点が多いのです」


 帝国としても、下心がないわけではないらしい。あわよくば、レイから労せずして氷龍の素材が欲しいという事なのだろう。

 何せ、氷龍の素材は希少で高価だ。特性としては氷属性に突出しているものの、その効力は絶大である。現実的には鱗くらいしか渡せないだろうが、それだけでも安定供給が出来るとなれば莫大な利益を生むことになる。


 その当たりの事は、俺も事前に予想していたことだ。レイの存在を知れば、まず利用しようと考えるだろう。

 そのこと自体は、ある程度仕方がないことだと思っている。何よりも、これはレイ自身のことなのだ。あの子が自身の鱗と引き換えに欲しい物でもあるのであれば、それを交渉材料とした話をすることだろう。


 俺に出来るのは、精々レイが騙されないか注意することだけである。最終的には、レイが決めればそれで良い。


「ヴィクトルさんの言い分は、理解が出来る。レイと交流する利点についても、わかっていたことだ。だが、万が一と言うことは考えなかったのか?」


 レイと協力関係が築けるのであれば、帝国としても願ってもないことだろう。

 しかし、その牙が帝国に向くという可能性を、考えられないはずがないのだ。


 もしもレイがその気になれば、この帝国を滅ぼすことだって、決して不可能なことではないのだ。その危険性を常に念頭に置きながら、レイと交流など出来るのだろうか。

 俺だったら、危険な芽は早めに摘んでしまおう、という考えが過ぎる。だからこそ、俺も警戒を解けなかったのだ。


「姫様から皆様の話は聞きましたよ。皆様は氷龍ではなく、黒龍と戦ったと」


「ん? あ、あぁ……その、騙して悪かったな」


「すみません、言い方が悪かったですね。その事を責めているわけではありません。我々が交わしたのはあくまで氷龍の鱗の取引であって、龍殺しの栄誉ではありませんから」


 ヴィクトルの言葉に、俺はほっと胸を撫で下ろす。帝国に対して虚偽の報告をしたと、罪に問われるかもしれないと思っていたのだ。

 俺達はあくまで持ち込んだ氷龍の鱗に対して取引を交わしただけで、氷龍を仕留めたなどと言う話はしていない。そのあたり、あまり自慢げに吹聴などしなかったことが功を奏したな。


「私が言いたいのは、皆様には龍に挑むほどの力がある、と言う事です」


「とは言え、それもレイの協力があってのことだからな」


「それでも、と言う事です。普通の人は、例え騎士であっても、例え氷龍の協力を得ようとも、龍になど挑まないのですよ」


 そう言って、ヴィクトルは大きく息を吐きだした。

 龍に挑めるほどに力を持っている者など、騎士団でも数えるほどだそうだ。しかも、今はそう言った者達は軒並み、氷龍の鱗を得ようと帝都を離れている。


 つまり、いくらレイを討伐しようと考えても、出来ないというのが本音らしい。


「もしもレイさんを怒らせるようなことになれば、我々は終わりです。最低でも、中立と言う立場でいてもらわなければ困るのですよ」


 なるほど、消去法でレイと友好関係を築く意外に、道はないという事なのか。

 正直俺は、俺やクリスティーネ達を人質にとってレイに言うことを聞かせるような、強硬策すらあるのではないかと考えていた。


 その可能性も含めて警戒をしていたのだが、今の話を聞けば、もしそんなことをすればレイは激昂するだろうし、そうなった場合は帝国側に打つ手はないという事なのだろう。

 ひとまず、俺達の身は安全だと考えても良さそうだ。


 ただ、今後の事を考えると潰しておきたい可能性がある。


「ヴィクトルさんの話は分かった。現状、レイに手出しなど出来ないから、あの子の好きにさせているということだな?」


「そういうことです。幸いにも、レイさんは姫様と良い関係を築いているようです。今しばらくは、様子見をする段階かと」


 触らぬ神に祟りなし、と言うわけだ。帝国側としても、あの氷龍の少女を見定めているのだろう。その結果、彼女に害意がないことがはっきりすれば、人と手を取り合うことも不可能ではない。


「それで、氷龍の鱗を求めて旅立った騎士達が戻ってきたら、どうなる?」


 俺が危惧しているのは、騎士団の主戦力が戻ってきた後の事だ。彼らは、氷龍を狩るために旅に出ているのである。当然、龍と戦うだけの力を持っている者達だ。

 そんな彼らが城へと戻って来れば、再びレイが討伐対象になる恐れはないのだろうか。


 彼らの手は、レイにも届く恐れがあるのだ。その時にはきっと、俺達はこの場にいないことだろう。そうなった時、俺は残されたレイの身が心配だ。

 そんな俺の問いに、ヴィクトルはゆるゆると首を横に振って見せた。


「彼らが戻ってくるのは、まだまだ先の話です。もしその時まで、レイさんと友好関係を続けられたのであれば、わざわざその関係を壊してまで氷龍を討伐しようという話は持ち上がらないでしょう」


 そう言って、ヴィクトルはどこか凄みのある笑みを浮かべた。


「もしもそのような話が持ち上がるようであれば、私が責任持って潰しますので、ご安心を」


 その言葉からは、ヴィクトルの本気度が窺えた。俺は思わず、小さく息を吐き出す。

 少なくとも、ヴィクトルは本心からこの話をしているようだ。そもそもの話、もしレイを害そうと考えているのであれば、俺にこんな風に話しには来ないだろう。俺達が帝都を離れてから、レイを始末すれば良いのだ。


 少なくとも、ヴィクトルの事は信じても良いだろう。完全に、とは言わないが、ここに滞在している間はもう少し肩の力を抜いても良さそうだ。


「そちらの考えはよくわかったよ。わざわざ話してくれてありがとう」


「いえいえ、国の英雄に対するお返しの、ほんの一部でございます」


「英雄ね……」


 何やら随分と評価されているようだ。確かに、禁忌の魔術具にまつわる騒動は国の命運を左右する大事件で、解決したのが俺達なのは事実なのだが。俺としては、アメリアさえ助け出せればそれでよかったんだけどな。

 英雄などと呼ばれたところで、あまり実感はない。


「さて、秘密の話はこれで終わりです。後はレイさんも交えて話をしたいところですが……」


「わかった、連れてくるよ」


 そう返し、俺は椅子から腰を浮かせた。

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