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52話 冒険者指南1

 シャルロットの装備や物資を整えた翌日、俺達は王都グロースベルクから見て南にある森へとやってきていた。

 今回は、冒険者ギルドには寄っていないため、依頼も受けてはいない。あくまで、シャルロットへと冒険者にとって必要となる知識をいろいろと教え込むことが目的だからだ。

 そのうち依頼を受けるのを再開するだろうが、しばらくは採取やゴブリンの素材といった、簡単に手に入る素材の売却額で繋ぐつもりだ。オークの一匹でも狩れれば、その日の稼ぎとしては十分だろう。


 幸いにも、フォレストスネイクの素材売却のおかげで、いろいろと購入した後でもまだ資金に余裕はあった。もうしばらくの間は、シャルロットのために時間を割いても大丈夫だろう。

 そんなわけで、俺達は南の森の浅い部分で、植物を中心とした素材採取に励んでいる。


「いいか、シャル? これはハイル草といって、ライフポーションの素材になるんだ。ここに実が成っているのがわかるか? この実が重要で、これがないと価値がないから気を付けるようにな。どんな時でも冒険者ギルドに行けば買い取ってもらえるから、見つけたら優先的に採取するんだぞ」


「はい、ジークさん」


 俺はシャルロットと一緒に腰を落とし、ライフポーションの素材となるハイル草を採取する。その際は、出来るだけわかりやすいように採取方法や注意点を説明する。こういった知識が、冒険者になったばかりのシャルロットには必要となるのだ。

 そうやってシャルロットへと基礎知識を授けていると、クリスティーネが両手に緑色の物体を持ち、目を輝かせてやって来た。


「シャルちゃん、こっちがトップっていう食べられる山菜だよ! そのままだとちょっと苦いんだけど、煮ると美味しくなるからスープに入れるのがお勧めなの。それからこっちはブラット! これも食べられる山菜で、お肉と一緒に炒めて食べるのがお勧めかな」


 そう言って、クリスティーネも持ち前の知識をシャルロットへと惜しみなく与えている。その内容は先程から食べられるもの、そしてその味と調理方法という、いささか偏った知識ではあったが、これも冒険者には必要な知識だろう。森で遭難した時などに、それらの知識があるのとないのとでは、生存率は雲泥の差である。

 それから少しの間、各種説明をしながら素材採取をする俺の耳に、ふと気になる音が届いた。いつものように周囲を警戒するために風魔術で音を拾っていたのだが、聞こえたのは小さな足音だ。聞こえた音からしても、おそらく少数だろう。


「シャル、魔物がいるみたいだ。狩りに行くぞ」


「ま、魔物と戦うんですね」


 俺が告げると、シャルロットが緊張したような顔で頷いた。俺達が出会った時は魔物に襲われていたのだし、やはり魔物は怖いのだろう。まぁ、以前は魔物などとは無縁の暮らしをしていただろうし、無理もない話である。

 しかし、シャルロットが俺達と共に冒険者を続ける以上、魔物と戦うことは避けられない。何とか回数をこなして、慣れてもらうしかないだろう。

 俺が安心させるように声を掛ける前に、クリスティーネが笑いかけた。


「大丈夫だよ、シャルちゃん! 私とジークがいるからね!」


「は、はい、クリスさん!」


 あまり緊張が解けたようには思えないが、少しは安心できただろうか。

 俺はシャルロットの様子を窺いつつも、二人を連れて音の聞こえた方へと移動する。やがて木々の合間を縫って、魔物の姿が見えてきた。

 そこにいたのは、群れから逸れたと思しき一匹のゴブリンだった。枯れ木のような手足を持った小さな体躯が、森の中で何やら土を弄っている。


 冒険者が最も多く出会うとされる魔物だ。シャルロットが最初に出会う魔物としても適任だろう。

 俺達は木々の後ろに身を隠し、ゴブリンから目を離さずにこそこそと話し合う。


「シャル、見えるか? あれがゴブリンと呼ばれる魔物だ」


「あれが、そうなんですね。初めてみました」


 シャルロットが感心したようにゴブリンを見つめている。あまり強そうには見えないためだろうか、思っていたほどには恐れてはいないようだ。


「数が多いと厄介だが、一匹ならそれほど問題のない魔物だ。特徴としては、人を見つけると優先的に襲ってくる。力は強くないから、噛みつかれないようにだけ注意すればいい。素材としては魔石くらいしか取れないから、綺麗に狩ることは意識しなくてもいいぞ」


「食べても美味しくないから、お肉も気にしなくていいからね」


「わかりました、ジークさん、クリスさん」


 クリスティーネから不要なアドバイスが授けられるが、シャルロットは律儀にそちらにも頷いて見せる。

 それでは、ゴブリンがどこかに行ってしまう前に、手早く狩ってしまおう。


「よし、それじゃシャル、あのゴブリンを氷属性の中級魔術で狙ってみてくれ。詠唱は覚えているな?」


「はい、昨日お借りした本を読んで、覚えました」


 俺の問いに、シャルロットは頷きを返す。

 俺は昨日のうちに、シャルロットへと手持ちの魔導書を貸し出し、魔術の詠唱を覚えてもらっていたのだ。なにせ、俺は全属性に適性がある。そのため、魔導書も全属性分を揃えていたのだ。

 すべてを揃えると少々嵩張るのだが、マジックバックがあるおかげで置き場所には困っていない。元手はそれなりにかかっているけれど。


 シャルロットは一度ゴクリと生唾を飲み込み、決心をしたように左手を前へと出してゴブリンを見据える。


「『現界に属する氷の眷属よ 我がシャルロットの名の元に 槍の如く我が敵を貫け』」


 シャルロットの詠唱と共に、翳した左手の前に氷柱が現れる。細く長く、先の尖った氷の塊の切っ先は、狙い違わず離れたゴブリンへと向けられていた。


「『強き氷の槍アイス・シュタルク・ランツェ』!」


 魔術名を唱えると同時に、氷の槍がゴブリンへと放たれる。槍は氷の粒子を散らしながら一直線に突き抜け、ゴブリンの遥か頭上を通り過ぎた。


「あっ」


 氷の槍はそのまま中空を突き進み、その先にあった木に突き刺さると溶けるように消えていく。槍の当った衝撃で、大量の葉がざわめき、そのうちのいくらかが地面へとゆるやかに落ちていった。


「外しちゃいました……」


「まぁ、初めは誰だってそんなもんだ」


 俺は慰めるようにシャルロットの頭に手を置く。いきなり完璧にやって見せろというのも酷な話だろう。的がゴブリンという小さい魔物だったのも悪い。オークだったら当たっていただろうな。これから先、機会はいくらでもあるし、徐々に慣れていけばいいだろう。

 俺達の前では、こちらに気付いたゴブリンが向かって来ていた。


「クリス、あれは俺がやる。シャル、よく見ておけよ」


 そう言って、俺は一歩前に出る。

 ゴブリン一匹というのは、シャルロットが剣の相手をするのにも最適ではあるのだが、シャルロットはまだ冒険者になったばかりである。遠距離から攻撃できる魔術はともかくとして、魔物相手に至近距離で対峙するのはまだ早いだろう。剣で相手をするのは、俺やクリスティーネと訓練を積んでからでも遅くはない。

 俺はゴブリンに左手を翳すと、牽制するように初級魔術を放つ。


「『氷の槍(アイス・ランツェ)』!」


 肘から先程の氷で出来た槍が生み出され、ゴブリンへと一直線に駆け抜ける。それは狙い違わずゴブリンの胴体へと着弾し、その身を後方へと跳ねさせた。


「魔術で一撃で倒すのが一番手間がかからないが、別にそれだけで倒しきる必要もない。さっき、シャルはゴブリンの頭を狙っただろう? それよりも、慣れないうちは胴体を狙った方が確実だ」


 俺は倒れているゴブリンへと歩み寄る。俺の魔術を受けて倒れていたゴブリンは、ぴょんと飛び上がって再び俺の方へと駆け出していた。

 俺はそれを迎え撃つように、右手に持った腕を上段から振り下ろす。


「『氷撃剣』!」


 言葉と同時に、俺の持つ剣の刀身が一瞬のうちに氷に覆われる。そして、斬るというよりも叩き潰すような形でゴブリンの頭に剣を振り下ろした。

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