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518話 半龍の少女の思い付き

 後から起きてきた少女達を加え、俺達はいつものように早朝の訓練に励む。とは言え、禁忌の魔術具が生み出した騒動に対応したのは、つい昨日のことだ。今日のところは軽めの運動くらいにしようということで、皆の意見が一致した。

 それから体がいい感じに温まる程度に動いたところで、半龍の少女がふと足を止めた。


「そうだ!」


 そう言って、両の掌を打ち鳴らす。それを受け、その隣で剣を振っていたフィリーネが首を傾げて見せる。


「クーちゃん、どうしたの?」


「いいこと思いついたの! おーい、レイちゃーん!」


 そう言って、氷龍の少女へと片手を振る。名を呼ばれたレイはシャルロットとの話を中断し、クリスティーネの方へと駆け寄った。

 そうして少女の前で足を止め、その顔を見上げ首を傾げる。そんな様子を、どうしたのだろうかと俺は遠目で見守った。


「何じゃろう?」


「レイちゃんが氷龍だってことは、みんなに知られちゃったよね?」


「うむ、そうじゃな」


「それなら、レイちゃんが氷龍の姿になって、一緒に訓練が出来るじゃない!」


 何とも嬉しそうな様子で、半龍の少女がそんなことを口にした。

 なるほど、確かにそれはいい考えだ。レイの正体が公になった今、最早レイの事を隠す必要などない。


 レイが氷龍の姿から少女の姿へと変わるところは、あの場にいた大勢の騎士達が目撃している。人の口には戸が立てられない、さすがに城下まで情報が出回っているとは思わないが、少なくとも城の者の多くは氷龍へと姿を変える少女の事を知っているだろう。

 氷龍のような強力な魔物と戦った経験は、俺の他にはクリスティーネとシャルロットだけだ。他の皆が経験するためにも、氷龍の姿のレイと訓練をするのは、実力の向上と言う意味でも最適である。


 って、そんなわけがないだろう。


「おぉ! それはいい考えじゃな!」


 などと、今にも氷龍へと姿を変えてしまいそうなレイの傍へと駆け寄り、その小柄な体を羽交い絞めに……するには翼と尻尾が邪魔なので、横抱きに抱え上げた。

 突然のことに驚いた様子のレイは、目を丸くしながらも俺の首へと両手を回した。


「何じゃ、ジークや?」


「氷龍の姿になるのはダメだ。騒ぎになるだろう?」


 そう言って、俺は周囲へと目を向けた。俺達から距離を置いた建物の傍には、幾人かの騎士の姿がある。彼らは皆、一様に俺達の方へと視線を向けていた。

 とは言え、俺達の事を監視している、と言うわけではないようだ。精々、様子見くらいのものだろう。一度その目で見たり、噂になっている氷龍の少女を見てみたいという、純粋な興味だと思われる。


 本気でレイの事を警戒しているのであれば、あの程度の人数では足りるはずがないからな。もちろん、何かあれば伝令役にはなるのだろうが、精々その程度だ。

 だからと言って、この場でレイが氷龍の姿へと戻れば、たちまちのうちに騎士達が集まってくることになるだろう。


 そんな風に説明すれば、クリスティーネは不思議そうに小首を傾げて見せた。


「でもジーク、レイちゃんの事はお城の人達に知られちゃってるよね? 捕まえられる心配もなさそうだし、大丈夫じゃないかな?」


「そうじゃそうじゃ、問題なかろう?」


「問題あるに決まってるだろう」


 少女達の言葉に溜息を吐き、俺は懇々と説明を始めた。

 まず第一に、普通の人は氷龍など見慣れていない。例え昨日実際に目撃したり、話に聞いたりしていたとしても、この場に氷龍が姿を表そうものなら、大変な騒ぎになるのは確実だ。


 しかもそれが、ただ訓練のために姿を現したなどと思い至る者など皆無だろう。間違いなく、昨日のように何らかの事件が起きたのではないかと考えるはずだ。いや、そもそも氷龍が現れること自体が大事件である。

 さらに、この場に現れた氷龍が昨日の氷龍と同じなのか、また別の氷龍が現れたのか、騎士達には見分けられないだろう。実際に見比べたことがないので何とも言えないが、見慣れた俺でさえ区別がつくかはわからないのだ。


 そもそもの問題として、氷龍となったレイが動き回るには、ここは少々狭すぎる。俺達が訓練をした雪山とは、事情が異なるのだ。

 未だ、周囲の城の建物には、昨日の事件の爪痕が色濃く残っている。この城が元の姿を取り戻すには、百日単位の月日が必要だろう。そんな中でレイが動き回れば、辛うじて原型を残した一角も全壊しかねない。


 そういった事を一通り語って聞かせてみれば、龍の翼と尾を持つ少女達は、ほぅほぅと納得したような表情を見せた。


「そっか……いい考えだと思ったんだけどなぁ」


「レイとの訓練が出来れば実入りは大きいだろうが、まず無理だろうな」


 溜息を吐くクリスティーネへと言葉を返す。この城にいる間、レイが氷龍の姿に戻ることはないだろう。

 いや、もしかすると確認のために、一度氷龍の姿を見せてくれ、と願われる可能性はあるか。その時だって、氷龍の姿を見るだけに留め、動き回れるわけではないだろう。


 それから俺達は、普段よりも軽めの運動を続けるのだった。

 ちなみにこの時、「訓練をするだけのスペースがあって、氷龍の姿になる許可があれば良かったんだけどな」なんて思いつきを溢したところ、クリスティーネとレイは本気にしたらしい。


 二人は訓練の後、許可をくれそうな相手と言うことで、ひとまずイヴァンに聞きに行ったそうだ。

 老紳士から返ってきたのは、「どうか、ご勘弁を」という言葉だったという。

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