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512話 氷龍の少女の取り扱い1

 風雪の中から現れたのは、見慣れた少女の姿だ。龍の姿の時についた傷は、人の姿にも反映されたものだが、少女の言う通り先の戦いでは無傷だったらしい。

 周囲を取り囲む騎士達から、困惑したようなざわめきが響く。龍の姿に転じた時とは異なり、今回は少女の姿に変わるところをはっきりと見られただろうからな。それだけで全てを信じられるとは思わないものの、少女の正体に気付いた者もいるだろう。


「それでジークや、これからどうすれば良いのじゃ?」


 正面から俺を見上げながら、レイが小首を傾げて見せる。


「まずは今まで通り、エルザと話をするべきだろうな」


 城側の人間で、俺達の話を一番親身になって聞いてくれるのは、他でもない彼女であろう。身分が高い上に、俺達としても話しやすい相手だ。何が起こったのか、レイのことも含めて話す相手としては最適だろう。

 また、エリザヴェータを話し相手に選ぶのは、身綺麗にしたいというのも理由の一つだ。特に俺とフィリーネは、血の跡がひどいからな。彼女と共に東棟へと戻り、浴場を借りた方が良いだろう。


 それから俺達は、騎士達の囲いで待つイヴァンの元へと足を進めた。その間、騎士達は戸惑った様子で俺達へと武器を向けたり、それを諫めたりしている。彼らとしても、氷龍から少女へと姿を変えたレイに対して、対応を決めかねているようだ。

 それはイヴァンについても例外ではないらしく、老紳士は珍しく困惑したような表情を向けた。


「皆様……私の目には、先程の氷龍がレイ様へと姿を変えたようにお見受けしたのですが……」


「あぁ、それも含めてエルザと話をしたい。その前に、浴場を借りられるだろうか? さすがに、この格好だとな」


「えぇ、まぁ、それはもちろん構いませんが、しかし……」


 イヴァンの目がレイから離れない。警戒するのも当然か。俺だって、逆の立場であれば如何に少女の姿をしているとはいえ、警戒を解かないだろう。


「この子の安全は俺が保証する。絶対に大丈夫だ」


「……………………かしこまりました。姫様との会談の場を設けましょう」


 長い沈黙の末、老紳士は頷きを見せた。おそらくは、かなりの葛藤があったのだろう。

 それでも了承して見せたのは、俺達のエリザヴェータへの恩と今回の助力、それにこれまでのレイの振る舞いと氷龍の行動と言った一連を鑑みてのことだろう。


 これが、ぽっと出の冒険者が少女へと姿を変える氷龍を連れてきたのであれば、とてもではないが首を縦に振るようなことはなかったはずだ。

 それから俺達は揃ってエリザヴェータの元へと戻り、丁度騎士達によって安全が確認されたということで、東棟へと戻ることとなった。


 ちなみに、どうでも良いことだが第三皇子は西棟へと戻るらしい。こいつ、仮にも皇子だというのに何の役にも立たなかったな。騎士達に指示を与える役目はあったらしいが、結局解決したのは俺達だ。

 とは言え、俺としてもこの男といつまでも顔を合わせていたくはないので、戻ってくれるのであればそれはそれで構わない。


 そうして俺達はエリザヴェータと共に、東棟へと戻ってきた。幸いにも、建物は影に覆われただけだったので、内部の損傷はほとんどないようだ。大きな被害は俺達の突入した本棟と、レイが大型の影と争った際に出たものだろうな。

 東棟へと戻った俺達は、まず初めに風呂へと入った。何時までも血に塗れた服を着ているわけにはいかないからな。


 女性陣はいつものように、大浴場に一緒に入るようだ。普段はエリザヴェータも共に入っているのだが、さすがに今回はイヴァンによって止められていた。レイの正体がわからない以上は、当然の処置だな。

 入浴を終えた俺達は、揃って広間の長テーブルを囲んで椅子へと腰かける。侍女達の手により、すぐに紅茶と茶菓子が運ばれた。


 部屋の壁際には、護衛なのだろう騎士がずらりと並んでいる。普段よりも随分と数が多いのは、それだけレイのことを警戒しているのだろう。もっとも、これだけの数がいたところで、氷龍を相手には意味など成さないだろうが。

 席についているのは俺達の他にはエリザヴェータと、傍に控えるイヴァン、それからいつの間に呼ばれたのか、ヴィクトルの姿もあった。皇族とは言え、まだ歳若いエリザヴェータだけよりも、ヴィクトルのような者がいたほうが話は早いだろうから助かるな。


 ヴィクトルはテーブルの上で両手を組み、椅子に腰かける俺達の顔を一通り見回した。レイのところで視線を止める時間が長かったように感じたのは、決して俺の気のせいではないだろう。


「それでは、今回の件について話を進めていきたいと思います。とは言え、私もまだよくわかってはいないのですが……」


 そう言って、ヴィクトルは眉尻を下げて見せた。

 彼の話を聞けば、今回の事件が起こった時点では、ヴィクトルは城の本棟にいたらしい。そこで、ヴィクトルも例に漏れず影の中へと呑み込まれたそうだ。


 気が付いた時には室内で倒れていたらしく、全てが終わった後だった。そのため、この城で一体何が起こったのか、未だ全てを把握はしていないらしい。


「皇帝陛下を始めとして、多くの者が被害に遭ったようです。現在、被害状況を調査中です」


 どうやらこの件には、ここ帝国の皇帝までもが巻き込まれたらしい。まぁ、禁忌の魔術具が城の本棟で起動されたのだから、当たり前の話か。

 それ以外にも、城で働く大勢の者達が影へと呑み込まれたのだ。全容を把握するまでには、なかなか時間がかかるだろう。


「やはり、お父様も……あの、御無事ですよね?」


「えぇ、外傷もなく、意識もはっきりとしている御様子です。とは言え、当面は様子見のために安静にしていただく必要がありますが」


「そうですか……良かった」


 ヴィクトルの説明に、エリザヴェータがほっとした様子で胸を撫で下ろす。彼女の父親のことなのだ、心配にもなるだろう。

 そんな少女の様子を穏やかに眺めていたヴィクトルは、「さて」と一言口にすると、一度姿勢を正して見せた。


「この度、城を影のようなものが覆い尽くし、その中に人を取り込むという事象が発生しました。また、その影のようなものの中からは人型の魔物が現れ、城の者達を襲ったと聞いております。そしてこれらの事象は、すべてとある魔術具が原因だと聞き及んでおります」


「えぇ、イヴァンの話によれば、古代魔術具にして禁忌の魔術具の一つ、『影の王国』が使われたのではないか、ということでした」


 ヴィクトルの説明をエリザヴェータが補足する。この辺りの話は、俺達も事前に聞いたことだな。

 状況としてはイヴァンの告げた内容が当て嵌まっているものの、それだって漠然としたものだ。実際のところは、専門の資料などを当たらなければ解明は不可能だろう。

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