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510話 合流

 フィリーネを背負い、アメリアを抱き上げた俺は、エリーゼ達と別れた場所へと辿り着いた。けれど、そこに彼女達の姿は既になかった。どうやら、俺達が本棟へと向かってから移動したらしい。


「う~ん、どこに行ったんだろうね?」


「さてな」


 小首を傾げるクリスティーネへと小さく返す。

 城の中と言うことはないだろう。建物を覆う影は晴れたものの、その理由は彼女達にまだ伝わってはいないはずなのだ。今頃、騎士達の手によって城内の安全が確認されているはずだが、それが終わる前にエリザヴェータ達を城内に入れるとは思えない。


 行くとすれば城の外だろう。単純に、城から離れたほうが安全だったからな。

 そう考えて門へと目を向けた時だった。見覚えのある赤毛の少女と青髪の女が、エリザヴェータを始めとしたその他数人と共に、城の門に姿を現した。


 少女達は門のすぐ傍で足を止め、本棟を見上げる。集団の護衛をしていたのだろう、騎士服を着た男の一人が、騎士の集まっている場所へと駆けて行った。

 少女達は周囲の状況を確認するように、左右へと目線を振って見せる。やがて、赤毛の少女は俺達の存在に気が付いたようだ。


 小さく声を上げたような素振りを見せ、傍らに立つ青髪の女の袖を引く。赤毛の少女が俺達の方を指し示したことで、女も俺達の姿を認めたらしい。

 それから赤毛の少女は金髪の少女と何やら言葉を交わし、青髪の女と共にこちらへと駆けてきた。


「アミー!」


 エリーゼは俺の抱き上げたアメリアの姿を認め、安堵の表情を見せる。腕の中の少女も駆け寄るエリーゼを見て、ほっとしたように表情を緩めた。

 それからアメリアは、はっとしたように表情を変え、顔を赤らめたまま俺の腕の中でもぞもぞと動きを見せる。


「エリー! ジ、ジーク、その、下ろして……」


 ばたばたと暴れる少女を、俺はその場に下ろしてやる。ここまで運べれば十分だろう。ついでに、フィリーネも背中から下りるようにと促す。

 地面に降り立ったアメリアは再会を喜び合うように、エリーゼへとひしっとばかりに抱き合った。


「アミー、無事で良かった!」


「エリーも、怪我はない?」


「私はイルマと避難してたからね」


 アメリアの言葉に、エリーゼが苦笑を見せる。どうやら二人はエリザヴェータと共に、城の敷地外へと退避していたようだ。

 あの状況だ、時間が経てば経つほど強力な影騎士が出現していたので、その判断は正しいと言える。護衛の騎士達もついていたおかげか、エリーゼ達の元までは危険は及ばなかったようだ。


 そうしてひとしきり抱き合っていた少女達だったが、体を離したエリーゼは安堵の表情から、どこかイタズラっぽい笑みを浮かべて見せる。


「それにしてもアミー、随分美味しい思いをしていたみたいじゃない? あ~あ、心配して損しちゃった」


「そ、それはジークが……」


 エリーゼの言葉に、アメリアが何やら小さな声で返している。何を言っているのかはわからないが、相変わらず仲がいいな。

 そんな二人の様子を眺めているところへ、イルムガルトが俺の方へと歩み寄ってきた。


「良かったわ。全員無事……ってわけでもなさそうだけど、今はもう平気なのよね?」


 特に俺とフィリーネの様子を眺めながら、イルムガルトが軽く首を傾げて見せる。全身あちこちを血で汚した姿を見れば、問いかけたくなる気持ちもわかる。


「あぁ、治癒術で治療済みだ。イルマ達の方は何もなかったか?」


「えぇ、敷地の外まで逃げてたから。それで、今はどういう状況なのかしら? 城を覆っていた影みたいなのがなくなったって聞いて、戻ってきたんだけど……」


 俺達が城の本棟へと向かってから、イルムガルト達はエリザヴェータや第三皇子と共に、城から少し離れた場所まで避難していたらしい。城が確認できる程度の距離で、様子を窺っていたという。

 それから事態が収まったという報告を受けて、丁度戻ってきたところだったようだ。イルムガルトやエリーゼはともかく、何時までも皇族を城下に留め置くわけにはいかないからな。


 そのような言葉に、俺は一つ頷きを返す。


「あぁ、俺達で元凶の魔術具を破壊したんだ」


「私達って言っても、全部ジークのおかげだけどね?」


「私達三人とも、あの影に呑まれてしまいましたから……」


「そんなことはないさ」


 肩を落とす三人へと、否定の言葉を投げかける。

 クリスティーネ達は俺の助けになれなかったと考えているようだが、そんなことはない。俺一人ではそもそも、あの禁忌の魔術具がある場所まで辿り着くことすら出来なかったのだ。あの魔術具を破壊できたのは、皆の助力があってこそのものである。


 俺達の話を聞き、イルムガルトは小さく溜息を吐きだした。


「結局、ジークハルト達が解決したのね。さすがだわ」


「偶然が重なっただけさ。とは言え、残っている騎士達だと厳しかったかもしれないから、俺達が辿り着いたのは幸運だったな」


 イヴァンの話では、騎士団に所属する精鋭達は氷龍の討伐で不在だという事だった。

 まさかそれを狙って今回の事件が起こったとは思わないが、城側にとっては俺達がいたことは僥倖だっただろう。巻き込まれた俺達としては、いい迷惑ではあるのだが。それでもこうして全員無事なのだし、今更小言を言うつもりはない。


 だが、未だにわからないこともある。何故城の本棟に、禁忌の魔術具があったのだろうか。

 怪しいとすれば、箱の傍で死んでいた女だろう。あの女は、意図的に禁忌の魔術具を解き放ったのだろうか。当の本人が死んでいるので聞くことは出来ないが、真相はわかるのだろうか。


 魔術具を破壊したことに関しても報告は必要だろうし、面倒だが城の者と話し合う必要があるだろう。せめて、その前に少しでも休めると良いのだが。

 そう考える俺の視界の端に、こちらへと駆け寄る姿があった。顔を向けてみれば、エリザヴェータの執事を務める老紳士、イヴァンだ。


 彼は俺の傍で足を止めると、息を乱した様子もなく綺麗な礼を見せた。


「皆様、御無事で何よりでございます」


「あぁ、イヴァンさんもな。それで、被害状況はどうなってるんだ?」


「多少犠牲者は出ておりますな。それよりも、皆様はあの氷龍についてご存じなのですよね?」


「……あぁ、そっちもあったか」


 アメリアのことで頭がいっぱいになっていたが、まだレイの問題も残っているのだった。

 あの氷龍の少女は、氷龍の姿へと戻って大型の影を抑えてくれていたのだ。あれを抑えてくれていたことを労ってやりたいし、怪我をしているのであれば治療も必要だ。


 いや、それ以前の話として、レイのことをどう説明するかを考えなくてはならない。

 突然、城に氷龍が姿を見せた上に、巨大な人型の影と戦闘を始めたのだ。城の者達からすると理解不能だろう。


 彼女をこの場から逃がすのか、それとも全てを正直に話すのか、決める必要がある。


「とにかく、氷龍の元に案内してくれるか?」


 まずはレイと話をするのが先だ。その後どうするのかは、あの子と話してから決めても良いだろう。

 俺の言葉にイヴァンはすぐさま頷きを返し、俺達を先導し始めた。

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