504話 影の大騎士
問題の魔術具が目前である以上、最早魔力を温存する必要もない。俺は魔力を一気に剣へと流し込み、刀身から虹色の光を溢れ出した。全属性の剣技だ。
これがあれば、これまで以上に影騎士に対しては優位に事を進められるだろう。
そのまま真っ直ぐに大型の影騎士へと向かいたいところだが、その他の影騎士達が行く手を阻む。こいつらを蹴散らさなければ、あれに注力することは出来ないだろう。
「フィナ、まずは数を減らすぞ!」
「わかったの!」
俺はフィリーネと二人、前方に群れる影騎士達へと向かう。
手近な影へと袈裟懸けに虹色の剣を振り下ろせば、影騎士の構えた黒盾ごと易々と切り裂いた。やはり、全属性の剣ともなれば硬質な影の盾すら切り裂けるらしい。その中に光の属性も含まれることも関係しているのかもしれないな。
だが、影の体を切り裂かれた影は、それでもなお動き続け、俺へと剣を向ける。どうやら体を切り裂いただけでは致命傷にならないらしい。傷口から血も流れ出ないので、どれだけ効いているのもわからないな。
俺は振り下ろされた剣を躱し、影騎士の首を狙って横薙ぎに剣を振るう。虹色の剣は影騎士の構えた剣を貫き、その首を撥ね飛ばした。
首と胴を分かたれた影は、今までと同じように霧へと変わっていく。これまで通り、ここの影騎士達も首が弱点のようだ。
そんな風に冷静に考えながらも、俺は迫りくる剣尖を仰け反り躱した。たった一体を退けたところで、周囲を取り囲む影騎士達のほんの一部に過ぎないのだ。
それから背中を少女達へと預け、俺は影騎士達へと向き直る。全属性の剣で影達を切り裂ける分、今までよりも楽に仕留められるだろう。
「『光の槍』!」
剣技だけでなく、合間に魔術も交える。光球を操っている分、精度は落ちるものの周囲にはぎっしりと影騎士が控えているのだ、どれかには当たるだろう。
「『光龍鱗』! 行くぞ~!」
背後からは半龍の少女の元気な声が聞こえてくる。彼女も勝負所と見たのだろう、光龍鱗を使用したようだ。
あの魔術を使用したクリスティーネの膂力は俺を凌ぐほどだ、後方の影騎士達は気にしなくても大丈夫だろう。
右手方向ではフィリーネが、影騎士相手に双剣を手に立ち回っている。
これまでの道中で、彼女も影騎士相手の戦いは十分に経験済みだ。数が多すぎるのが難点だが、上手い事立ち回ってくれるだろう。
後方のシャルロットが心配ではあるが、あれであの娘も一人前の冒険者なのだ。クリスティーネと共に、後ろからの増援を抑えてくれるはずだ。
それに、シャルロットは聡い子でもある。もし危ないようなら、早めに俺のことを呼ぶだろう。
それから俺は二体、三体と影騎士を屠り、空いた隙間に踏み込み大型の影へと向かう。周囲の影騎士を全滅させずとも、こいつの中の魔術具を破壊すればすべては終わるはずだ。
身体強化を十全にかけ、大型の影騎士へと思い切り剣を叩き付ける。それに対し、影騎士は両の剣を交差させて俺の剣を受け止めた。
ガツンと硬質な音が鳴り、俺の剣が勢いを殺される。やはり他の影騎士とは一味違うらしい。これまでの影騎士が相手であれば、受け止めた影の長剣ごと叩き斬っているところだ。
影騎士の振るう両剣に押され、俺はたたらを踏む。単純な腕力も上回られているようだ。力押しと言うのは難しいらしい。
再度剣を叩きつければ、影騎士は片方の影剣で受け止めた。そうして、もう片方の剣を振り被る。
回避か迎撃か。
判断に迫られた俺の前へと、白い影が横切る。
「させないの!」
白翼で宙へと浮いたフィリーネだ。
少女は影騎士の振り被った剣へと、己の双剣の片方を叩き付ける。膂力に勝る相手でも、剣に速度が乗らない状態であれば対抗もし得るものである。
そのまま少女は、残った片手の剣で影騎士の腕を切り飛ばさんと振り被る。
その瞬間、影騎士の体が不自然な脈動を見せた。
「フィナ!」
危うい気配を感じ、俺は少女へと注意を飛ばす。
その瞬間だった。
影騎士の腕の付け根が蠢いた。
影の体が盛り上がり、一瞬で新たな腕を形作る。鏡で映しとったかのような、複製された双腕だ。ご丁寧にも、新たに生えた腕にも漆黒の長剣が握られている。
「あっ?!」
影騎士は新たな長剣を、白翼の少女が己の腕目掛けて振り下ろした剣へと合わせた。
甲高い音と共に、少女の剣が弾かれる。
剣を手から取り溢さなかっただけでも上出来だろう。
だが、剣を弾かれた少女は完全に無防備な体制となった。
そこへ、四本目の剣が袈裟懸けに振り下ろされた。
フィリーネは咄嗟に背の白翼を動かし、後方へと回避行動を取る。
僅かに少女と影騎士との距離が開いた。
それでも、影騎士の体躯は大きく、影の長剣は長すぎた。
影騎士は最後まで剣を振り抜き、その途上にあった少女の細身を切り裂いた。
光球が周囲をぼんやりと照らす中、少女の体から鮮血が溢れ出た。
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