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503話 元凶と軍勢

「ここだよ、ジーク! この先から、すっごく嫌な感じがするの!」


「あぁ、ここまで来れば俺にもわかった」


 扉の前、本棟の通路で俺はクリスティーネと言葉を交わし合う。半龍の少女の案内で辿り着いたのが、この扉の前だった。

 これと言って特徴のない扉だ。もちろん俺達が普段利用する宿屋なんかと比べれば豪奢ではあるのだが、これまでに目にしてきた城の扉と同じものである。


 ここに至るまでは俺も漠然とした雰囲気しか感じなかったのだが、ここまで来たらはっきりとわかる。この扉の奥から、何とも嫌な気配が漂ってくるのだ。まるで、扉の隙間から闇が漏れ出しているようである。

 この中に、元凶である禁忌の魔術具が存在する。そんな風に俺は直感した。


 俺は扉の取っ手に片手をかけ、同行した少女達の顔を見渡した。


「何が起こるかわからない。皆、気を付けてくれ」


 俺の注意に、少女達は揃って頷きを返した。それを確認し、俺は勢いよく扉をあけ放った。それと同時、俺の操る光球達を室内へと侵入させる。俺達の手元には、クリスティーネの操る光球を残す形だ。

 扉を開け放つと同時、濃い闇の気配が俺達を包む。全身を薄ら寒い気配が走り、思わず息を呑み込んだ。


 複数の光球が室内を照らし出し、中の様子が浮かび上がる。随分と広い部屋だ。俺が東棟で借り受けている部屋の数倍はあるだろう。

 その部屋の奥のテーブル、その上に、一つの箱が置かれていた。俺の両掌に乗るほどの大きさの、闇色をした箱だ。箱は開け放たれており、そこから黒い影のようなものが溢れ出ているのがわかる。


「ジーク、あれ、あの箱!」


 クリスティーネがテーブルの上に置かれた箱を指差す。どうやら彼女の目から見ても、間違いないようだ。


「あぁ、あれがそうみたいだな。禁忌の魔術具か……初めて見るな」


 思ったよりも小さなものだ。見た目では危険性がなさそうに見えるが、それを取り巻く気配から、ただの魔術具ではないことは明白だ。


「興味深いが、さっさと壊してしまおう」


 調べてみたい気持ちもあるが、時間をかければかけるほど、外での被害も広がることだろう。うかうかしていては、また影騎士が姿を見せる可能性もある。即刻破壊するのが最善だ。


「『光の槍(リヒト・ランツェ)』!」


 部屋に踏み込むと同時、俺は魔術具へと向けて軽く片手を振り魔術を放った。魔術具の破壊にはこの程度でも十分すぎる。

 光槍は一直線に空を切り裂き、魔術具を破壊すると思われた。


 だがその時、テーブルの下に広がった闇が蠢いた。その動きに、俺は思わず足を止める。

 水底から水泡が浮上するように、影が盛り上がる。それは容易くテーブルを割り砕き、その身に魔術具を呑み込んだ。一歩遅れ、影に光魔術が突き立つが、まるで泥に埋まるように魔術は呑み込まれ、その光は立ち消えた。


 水柱のように立ち上がった影が、徐々にその身を形作る。

 そうして姿を現したのは、またしても影の騎士とも言うべき人型だった。だが、先程まで見て来たものとは、また少し形が異なる。


 まず、背の高さが違う。今まで見てきた影兵士も影騎士も、俺とそう変わらない大きさだった。だが、目の前に現れた騎士は、俺が見上げなければならないほどの大きさだった。

 部屋がここまで広くなければ、満足に動くことも出来なかっただろう。


 そしてこの騎士は盾を持たず、両手に影の長剣を持っていた。体格に合わせて作られた剣は、俺の持つ剣よりもずっと長く大きなものだ。

 何よりも、存在感とでも言うのか、異様な迫力を感じた。先程の魔術具と同じ、濃厚な闇の気配だ。


 魔術具はこの影騎士の中にあるのだ。こいつを倒さないことには、魔術具の破壊は叶わないだろう。

 だが、ぐっと剣を持つ手に力を籠める俺達の周りで、影が蠢いた。そうして床に広がった影から、影の兵士が、影の騎士が、続々と現れる。


 瞬きを一つする間に、俺達は人型の影達に取り囲まれてしまった。

 魔術具を呑み込んだ影騎士以外は、俺達とそう変わらない大きさだ。最優先目標を見紛う可能性がないのが救いだろうか。


「ジーク、囲まれちゃった!」


 クリスティーネが焦ったような声を上げる。どうやら、俺達が先程まで通ってきた通路からも、次々と人型の影が増えてきているようだ。


「塞ぎます! 『大氷壁アイス・グロース・ヴァント』!」


 背後のシャルロットが氷壁を立ち上げ、部屋の出入り口を塞ぐ。退路を失うことになるが、どの道影騎士達に塞がれているのだ、閉ざしてしまった方が追加は来なくなる。

 これで、前方へと集中できる。そう思った時だ。


「そんなっ!」


 シャルロットの驚愕の声に目を向ければ、光球に照らされた半透明の氷壁が、影へと呑み込まれるところだった。黒に浸食された防壁は、まるで溶けるようにその姿を失っていく。

 どうやら単純な障壁は無意味らしい。それこそ光魔術の盾であれば有効かもしれないが、氷壁と違ってその場に止めておくには魔術を維持する必要がある。戦いながらでは難しいだろう。


 こうなった以上は、速やかに大型の影騎士を下し、魔術具を破壊するほかにない。


「クリス、シャル、後ろを頼む! フィナ、でかいのをやるぞ!」


「わかったの!」


 こうして俺達は、影の軍勢へと挑むこととなった。

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