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501話 氷龍の少女の戦い

 龍と言うのは好戦的で知られているとジークハルトに聞いたのじゃが、実際にはそんなことはない。それはそうじゃろう、龍と一括りに言ったところで、それぞれ別の生き物なのじゃ。人と人が個別の考え、感情を持っているように、龍にだって個体差がある。

 我は争いを好まぬ。当然じゃ、好き好んで痛い思いなどしたくはないからのう。あ、普段の狩り何かは別じゃよ。食わねば生きては行けぬからな。


 少し前、黒龍の奴めと戦ったのは例外じゃな。あれはあやつが我の縄張りに入ってきたのが悪いのじゃ。我は自分の身を守るための、あれじゃ、正当防衛と言うやつじゃな。

 我の領域に冒険者達がやって来た時も、我には争うつもりなどなかったのじゃ。ちょいと姿を見せてやれば、尻尾を巻いて逃げると思っていたのじゃ。


 じゃが、あろうことか奴等は我に対して武器を向け、魔術を放ってきたのじゃった。何れも命の危険を感じるほどではなかったものの、我の体を傷つけ得るものじゃったな。

 面倒に思った我は、奴等へと思いっきり龍圧を浴びせかけ、その場を立ち去ったのじゃ。人がこの地に定住するようなことはあるまい、放っておけばそのうちどこかに行くじゃろう。


 以前の我であれば、多少なりとも報復くらいはしたかも知れぬがな。じゃが、ジークハルト達と暮らし、彼らを好きになった以上は、彼らと同族である人と争うのは避けたいと思うのじゃ。

 とは言え、積極的に人と関わるつもりはなかった。人の暮らす町には興味が尽きないが、ジークハルト達のように特定の者と仲良くなるのは、氷龍である我には無理な話じゃ。後にも先にも、ジークハルト達が特別だったのじゃろう。


 そんな我が、人のために戦うことになるとはのう。

 我の前には、影の巨人とも言うべきものが立ちはだかっていた。我よりも大きなものを見るのは、龍以外では生まれて初めてのことじゃな。


 イヴァンと言う者曰く、大昔に人の作った魔術具と言うものが原因らしい。ジークハルト達は元凶となる魔術具を破壊するために、城の内部へと向かうことになった。

 その障害となるこの影の巨人を、我が引き受けることになったというわけじゃな。


 見て見ぬ振りをすることも出来たじゃろう。人の世界での出来事じゃ、龍である我には関係がない。ジークハルト達だって、我が手を貸さなかったところで責めることはないじゃろう。

 じゃが、ジークハルト達の仲間の一人であるアメリアが、影に呑み込まれてしまったという。アメリアもまた、我が氷龍だと知ってもジークハルト達のように、人と同じように接してくれた相手じゃ。我としても、出来ることならば助け出したい。


 それから、エリザヴェータにも世話になったからな。あの娘は突然現れた我を、ジークハルト達の知人と言う理由で城に置いてくれたのじゃ。

 食事も寝床の世話もしてもらったという恩があるし、あの娘と話をするのも楽しいものじゃ。ここで我が戦うことが、恩返しになるじゃろう。


 何より、この事態を放置すれば、町が壊滅してしまうかもしれぬ。そうなれば、我も町へと来られなくなってしまうではないか。

 まだまだ我は人について知りたいと思っている。その思いは、ジークハルト達と出会ったことで以前よりずっと強くなった。


 ここで我が人に助力するのは、我自信のためでもあるということじゃ。


『そんなわけじゃ、消えてもらおう!』


 右腕に魔力を籠め、思い切り影の巨人へと叩き付ける。

 ジークハルトに身体強化のやり方を教えてもらったおかげで、以前よりも格段と膂力が増している。例え龍が相手でも通用するほどの一撃が、影の巨人の胴体を深々と抉った。


 並の生物であれば、今の一撃で勝負が決まっていたであろう。じゃが、影の巨人は尚も動き続ける。

 巨人はその場に踏み止まり、しなる巨腕を我へと叩きつけてくる。人であれば軽々と潰されてしまうであろう一撃じゃ。


 それに対し、我は思い切り翼で空を叩きつけて回避した。


『しぶといのう。では、これならどうじゃ?』


 羽ばたきで距離を取り、影の巨人の周囲に人影や建物がないことを確認する。それを確かめてから、我は大きく息を吸い込んだ。

 体内の魔力を練り上げ、息と共に前方へ浴びせかける。

 氷龍の息吹だ。


 私の生み出した絶対零度の吐息は、影の巨人の上半身をたちまち凍てつかせた。影の化け物と言えど、頭が凍れば動けないのか、下半身もまた動きを止める。

 そこへ、我は落下の勢いを乗せた剛爪を叩きつけた。先程とは異なる、硬い感触が返る。いかに影の体と言えども、我の息吹を浴びてはその身を氷へと転じるらしい。


 破砕音と共に、巨人の体が粉々に崩れ落ちる。細かくなった影の巨人は、やがて中空へと溶けるように消えていった。さして美味そうには見えなかったが、消えてしまっては味見すらできない。

 その光景を見送り、我は小さく息を吐きだした。思いのほか、あっさりと片付いたのう。ジークハルト達との訓練のおかげで、我の力も増しているらしい。


 さて、どうするべきじゃろうか。出来れば、ジークハルトに助力したいところじゃな。

 じゃが、ジークハルト達はすでに城の本棟へと入ってしまった。今から追いかけたところで、追いつけるじゃろうか。


 我も本棟へと入るのであれば、人の姿に変わらねばならぬ。じゃが、あの姿は龍と比較すればか弱いものじゃ。氷龍鱗と身体強化があれば補えるじゃろうが、一人と言うのはさすがに心細い。

 それに、ジークハルトの話によれば、あの人型の影とも異なる影自体が襲ってくるらしく、対抗するには光の魔術が必要だそうじゃ。氷龍である我には、光の魔術は使えぬ。如何に我が龍と言えども、影のような形のないものが相手では分が悪いじゃろうな。


 まったく、魔術具を破壊するだけであれば、我が本棟ごと壊してしまえば早いのじゃがな。さすがに、城を崩壊させた龍とあっては討伐は免れぬじゃろう。もっとも、影に覆われた今の城に、物理的な攻撃が効くのかもわからぬのじゃがな。

 我が思いあぐねていると、ふと視界の端に騎士達の姿が映った。地上の騎士達は、城から現れた人型の影と争っている様子だ。影の数に対して騎士は少なく、少し苦戦している様子である。


『ふむ』


 僅かに逡巡した我は、己の片腕で影の兵士を纏めて叩き潰した。大した抵抗もなく、影達はぺしゃんこになる。この程度、龍である我には造作もないことじゃ。

 目の前に我の腕が現れた騎士達は大層驚いた様子で、中には腰を抜かしている者もおるようじゃ。雪山の時のように攻撃されるかと思うたが、騎士達は剣を向けながらも後退りし、別の影の兵士へと向かっていった。ジークハルトの説得のおかげじゃろうか。


 こんな風に騎士達に手を貸しておくかと思ったところ、本棟を覆う影が揺らめいた。目を向けてみれば、先程のように影の巨人が現れるところじゃった。

 しかもその数は三体、その上両手に剣と盾を持っているように見える。


『先程よりは、歯ごたえがありそうじゃな』


 こやつらも野放しにするわけにはいかぬ。

 我は再び、影の巨人たちへと向かっていった。

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