50話 氷精少女と冒険準備2
教会の次に向かったのは冒険者ギルドだ。シャルロットが冒険者として活動するなら、冒険者ライセンスが必要になる。俺やクリスティーネがいれば素材の売却などはできるだろうが、今後のためにも早めに作っておいた方がいいだろう。
俺達は冒険者ギルドに足を踏み入れると、依頼掲示板には寄らずに真っ直ぐ受付へと向かう。受付では職員の女性が笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「この子の冒険者ライセンスを作りに来たんだ」
俺はそう言って傍らのシャルロットを手招きし、俺の前へと誘導するとその両肩に手を置いた。受付の正面に立ったシャルロットは、少し背伸びをしてカウンターに両手を乗せる。
「あ、あの! 冒険者ライセンスをください!」
「この子のですか? えっと、大丈夫ですか?」
受付の女性は、戸惑ったようにそう返した。
シャルロットくらいの年齢の子供が冒険者になるのは、珍しいことである。薬草採取といった依頼は達成できるだろうが、一人ではまず魔物に殺されてしまうからだ。そのため、そのような子供が来た場合は事情を聞き、冒険者ライセンスを発行するしないかを職員が判断することになっている。
「大丈夫だ、この子は俺達とパーティを組んで行動する」
「そうですか……わかりました。冒険者は最初の頃に命を落とすことが多いので、気を付けてあげてくださいね」
「あぁ、わかってるよ」
女性は少しだけ心配そうな表情をしていたが、手続きを済ませてシャルロットの冒険者ライセンスを発行してくれた。それからシャルロットへと冒険者ライセンスの説明をしてくれる。シャルロットの冒険者ランクは、もちろん最下級のFランクである。
無事にシャルロットの冒険者ライセンスを手に入れた俺達は冒険者ギルドを後にし、その足で鍛冶屋を訪れていた。三日前にクリスティーネの鎧を注文した鍛冶屋だ。
扉を開けて中へと入れば、左右にずらりと武器や防具が展示されている。正面にはカウンターが設置されているが、そこに店主の親父の姿はなかった。以前と同じように店の奥から金槌の音が聞こえるため、おそらく金属加工中なのだろう。
俺は店の奥に続く通路の前へと立つと、奥へと声を掛けた。
「親父、いるか?」
「おう、ちょっと待ってろ!」
奥から親父の声が返る。その声に従い、しばらく店内の装備品を眺めていると、店の奥から鍛冶屋の親父が、タオルで手を拭いながら出てきた。
「おう、お前らか。それに、この間の嬢ちゃんも一緒じゃないか」
「あ、あの! この間は、ありがとうございました!」
そう言って、シャルロットが勢いよく頭を下げる。勢いに引かれた透明感のある長い水色の髪が、ばさりと翻った。対して、鍛冶屋の親父は軽く右手を上げて応える。
「あぁ、いいってことよ。少しは元気になったみたいだな?」
「おかげさまでな。いろいろあって、シャルロットは俺達と一緒に冒険者をやることになったんだ」
俺の言葉に、鍛冶屋の親父は見るからに訝し気な表情を浮かべた。
「冒険者ぁ?! お前、そっちの半龍族の嬢ちゃんはともかく、この嬢ちゃんはには早すぎるだろう! 大丈夫なのか?」
親父が驚くのも無理はない。クリスティーネは半龍族、シャルロットは氷精族という種族なのだが、翼と尾を隠し、精霊石の見えない二人はただの人族の少女にしか見えないのだ。
クリスティーネの鎧を注文した際に、クリスティーネが半龍族であることは明かしたものの、シャルロットの種族まで明かす必要はないだろう。俺はそのことについては明言を避けつつ、話を続ける。
「大丈夫だ。これで二人とも、結構素質はあるんだよ」
「本当かよ? おい嬢ちゃん、この兄ちゃんに騙されてるんじゃないか?」
「えっと……ちゃんと、自分で決めたことですから」
鍛冶屋の親父がシャルロットを覗き込みながら質問すれば、シャルロットは若干戸惑いつつもはっきりと口にした。
「まぁ、俺が口出しすることでもないか。本人が納得しているんならいいだろう」
そう言って鍛冶屋の親父は腕を組む。それ以上を追及するつもりはないようだ。
「それで、今日は何の用だ? 以前注文した鎧なら、まだ出来てないぞ」
どうやら、クリスティーネ用に注文した鎧はまだ出来上がっていないらしい。だが、今回ここに来たのは、それとは別の用事だ。
「いや、今日はシャルロットの剣を注文しようと思ってな」
そう言って、シャルロットの肩へと手を乗せる。
それを見た親父は、観察するように顎に手を当てて見せた。
「剣ねぇ。そりゃ、冒険者には剣の一本くらいは必要なもんだが、嬢ちゃんの細腕で扱えるのか?」
「身体強化があれば問題ないだろ」
身体強化というのは読んで字のごとく、使用者の体を強化する術の事である。魔力を消費することで、使用者の腕力や脚力といった力を飛躍的に向上させることが出来る。それこそ、高ランクの冒険者であれば、身体強化をした拳で岩をも割り砕くという。
身体強化は程度の差こそあれ、誰にでも使える術である。聞いた話では、レベルが上がると身体強化に必要となる魔力も減るということだ。
シャルロットの細腕では、当然剣など持つのもやっとであろうが、身体強化があればある程度は扱えることだろう。ただし、元々の筋力や体格の小ささを考えると、いきなり長剣を扱わせるわけにはいかない。重心が安定せず、剣に振り回されることになる様子が容易に想像できる。
「シャルロットに持たせられるような、細身の剣を作ってくれないか?」
「剣ならいっぱい並んでいるだろう。好きな奴を選んでくれ」
「出来れば、いい物を持たせてやりたいだろう?」
あまり前に立たせるつもりはないとはいえ、剣を使う場面は出てくるだろう。そんなときのためにも、出来れば上等なものを用意しておきたいところだ。
素材として何を使用しているものがいいだろうか。青魔鉄、いや、ここは思い切って白魔鉄にするべきか。柄のあたりに、氷属性と相性のいい氷結晶を嵌め込むのもいいかもしれない。
俺がそんな風にシャルロットに与える剣について考えていると、親父が何やら呆れたような顔を向けてきた。
「この嬢ちゃんは、冒険者になりたてなんだろう? それなら、そこらの普通の剣で十分だ。あまり、最初から身の丈に合わない武器を持つべきじゃない」
「む……確かにそうだな」
親父の言うことも、もっともではある。いきなり腕に合わない武器を持つのは、シャルロットのためにもならないだろう。良い武器を与えるのは、シャルロットが剣に慣れ、上手く扱えるようになってからでもいいかもしれない。
「ジ、ジークさん、私は普通の剣で十分ですから……」
シャルロットがそう言って振り返り、俺の事を見上げてくる。シャルロット本人は、そこまで剣に拘りがないのだろう。というよりも、剣の良し悪しがわからないといったところか。本人も納得しているようだし、今回は出来合いの剣で済ませよう。
「わかった。それなら、剣を選ぶか」
そうして、いくつかの剣を手に取り、最終的に黒魔鉄で出来た細身の剣と、ついでに防具として皮の胸当ても購入した。金属鎧は、シャルロットにはまだ早いだろう。その分、俺達で守ればいい。
そうしてシャルロットの装備を購入した俺達は鍛冶屋を後にし、シャルロットの分の背負い袋やポーションなど、必要な雑貨を購入しに王都を巡るのだった。
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