49話 氷精少女と冒険準備1
シャルロットを仲間に加えた俺達は、次の日教会を訪れていた。シャルロットが仲間になったからと言って、いきなり狩りと洒落込むわけにはいかない。諸々の準備が必要不可欠である。
昨日から連日で訪れた教会は、ばたばたと何やら騒がしい様子だった。それも無理のない話だろう。教会の司教ともあろう人物が、人身売買に係わっていたのだ。騎士団が事情聴取に来るだろうし、後任の選定だって必要だ。まぁ、そのあたりは教会の仕事なので、俺達が係わる必要もないだろう。
俺達は孤児院へと足を運ぶと、子供達の面倒を見ているマルタの元を訪ねた。マルタは焦った様子もなく、昨日と同じくおっとりとした様子だ。
「あら、お二人とも。それに、シャルロットさんも。おはようございます」
「あぁ、フォルカー司教の話は聞いたか?」
「えぇ、何か事件があったとか。それで、孤児院の管理者が変わるそうです」
マルタは深刻さなどかけらも感じさせない、おっとりとした口調で口にした。その様子から、どうやらマルタはフォルカー司教の事情を詳しくは知らない様子だ。特に言いふらすような内容でもないので、俺達も詳しくは語らない。
孤児院の管理者が変わるようだが、マルタは特に気にしていないようだ。管理者が変わったところで、自分のすることが変わらないとわかっているのだろう。
それから、シャルロットは俺達と行動を共にすることになったと告げ、俺達は孤児院を後にした。事前に少しでも話しておけば、もし俺達がシャルロット一人を残して命を落とすようなことがあったとしても、孤児院を頼ることが出来るだろう。あまり取るべきではない選択だが、シャルロットが野垂れ死ぬことになるよりは幾分マシである。
その後、俺達は教会の中を進み、一つの部屋へと辿り着いた。そこは、教会に用意された売店である。孤児院によったのは事のついでで、こちらが今日の本題だった。
購入するのは、もちろん『能力鑑定紙』である。これでシャルロットの素質を確認し、今後の指針とするためだ。
シャルロットの素質を確認するついでに、俺は自身の能力も確認する。購入した鑑定紙に魔力を流し込めば、たちまちのうちに文字が浮かび上がってきた。
俺のレベルは18に上がっていた。しかも今になって各種属性剣と無属性の中級剣技、それにいくつかの属性の中級魔術が使えるようになっている。おそらく、フォレストスネイク討伐の功績が大きかったのだろう。死にかけただけの甲斐はあったと言える。
「ジーク、レベルが18に上がったわ! それに、光剣技の中級と、風属性の中級魔術が使えるようになったの!」
「おれも各種属性剣に無属性の中級剣技と、いくつかの中級魔術が使えるようになったぞ。順調に強くなってるな」
俺はクリスティーネと共に笑いあう。こうして、目に見える形で強くなっていくのがわかると、冒険者としての活動にもやる気が出るというものだ。このままどんどんと強くなって、まずはフォレストスネイクを安定して狩れるようなCランク冒険者を目指したいものである。
そうして笑いあう俺達の隣で、鑑定紙に目を落としたシャルロットは困ったような表情で固まっていた。
「あの、ジークさん、文字が浮かんで来たんですが」
「あぁ、これで使用者の素質を図るんだ。っと、そうだ、シャルは文字は読めるか?」
「はい、読めますが、何が何だか……」
文字は読めるが、書いてある内容が理解できないのだろう。俺が見せるようにと促すと、シャルロットは素直に手に持つ紙を差し出してくれた。
そうして、俺は手に持った鑑定士にざっと目を通し、書かれている内容をシャルロットへと説明する。
「いいか、シャル。まずレベルというのは、そうだな……簡単に言えば、本人の強さを表したものだ。数値が高いほど、その人は強いということだな」
俺は出来るだけ噛み砕いて説明をしてやる。俺の説明に、シャルロットはほうほうと頷いている。それから、目に見えて眉尻を下げて見せた。
「えぇと、それなら、私のレベル3という数字は……その、弱い、ですよね?」
「まぁ、初めならそんなもんだろう。俺も、冒険者になった時はレベル5だったぞ?」
思い出すのは、冒険者になるために王都にやってきた二年前のことだ。その頃は、ゴブリン一匹を倒すのにも苦労していたほどである。
冒険者ではない一般人なら、レベル一桁というのは良くある話だ。レベルを上げるには、どうしても魔物を倒す必要があるためである。
確かにシャルロットのレベルは低いが、シャルロットはまだ若い。これから、いくらでも強くなれるだろう。
「レベルが上がると、具体的にどうなるんですか?」
「基礎的な能力が上がるらしい。力が強くなるとか、走るのが速くなるとか、疲れにくくなるとかだな。あとは、聞いた話によると防御力が上がるらしい。殴られても痛くないとか、刃物が刺さらなくなるとかだな」
「そんなことになるんですか」
俺の説明に、シャルロットが目を丸くする。確かに、基礎能力が上がるのはまだわかるが、防御力が上がるというのは不思議な現象だろう。刃物が刺さらなくなるなどわけがわからないが、高ランクの冒険者というのは話に聞く限りそうらしい。改めて、人外の存在だと思う。
「あとは、使用できる技能が増えていくな。シャルロットなら、ここに書いてある氷剣技や氷属性の魔術ってことになる」
「なるほど……」
説明と共に、もう一度シャルロットの鑑定紙へと目を落とす。シャルロットに説明した通り、そこには『氷剣技』の文字があった。クリスティーネの使用する『光剣技』の氷属性のものだろう。いつの間にか、俺も使えるようになっていた技能だ。
俺の持つ無属性の剣技とは、属性が付与されている以外に大きな違いはない。初級や中級といった階級があるのも同じだ。氷剣技の欄に初級とあることから、シャルロットは初級氷剣技が使えるということになる。てっきり、精霊族とは魔術にしか適性がないと思っていたため、少し意外な結果だ。
さらに魔術の欄を見てみれば、氷属性と水属性、それに風属性に適性があるようだ。氷属性に至っては、既に中級魔術が使用可能である。レベル3にも係わらず中級魔術が使えるとは、さすがは氷精族といったところだろうか。魔力の強大さは、噂以上の素質である。
「それからギフトは……『氷帝』?」
始めてみるギフトに、俺は思わず首を捻る。名前からは内容が想像できないギフトだ。氷剣技や魔術の適性から、おそらく戦闘系のギフトだろうとは見当がつくのだが、それ以上のことはわからない。
悩んでいると、シャルロットが俺の手元の鑑定紙へと目を向けた。
「ギフトというのは、確か持って生まれた才能の事、でしたよね?」
「そうだな、俺の『万能』のギフトは割と何でも出来るってものなんだが……シャルは、『氷帝』のギフトについて、何か知っているか?」
「えぇと……すみません、わかりません。えっと……悪いことでは、ないんですよね?」
「まぁ、素質はあるみたいだから、安心していいぞ」
能力鑑定紙の結果を見る限りは、十分に冒険者向きの能力だと言えるだろう。特に、氷剣技という近接戦闘能力があるとわかったのは大きな収穫だった。どちらかというと、やはり魔術の方に適性があるようだが、せめて剣でもゴブリン程度とは戦えるようになっておいたほうがいいだろう。
そうして素質の確認を終えた俺達は、教会を後にした。




