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482話 氷龍の少女と城での生活2

 初めに感じたのは柔らかな感触だった。暗闇の中、腕を軽く動かしてみれば、何か手元に暖かなものがあるのがわかる。

 どうやら朝が来たようだと、俺は瞼を持ち上げた。目を開けてみれば、窓から差し込む光に照らされ、室内の様子が伺える。


 そのまま目線を下へと落としてみれば、氷色の長い髪が目に入った。シャルロットの髪色よりも、さらに白に近いものだ。

 そうだった、昨日は町へ下りたところでレイと再会し、一緒に眠ることにしたのだった。軽く髪を指に絡めて見るが、少女に起きる様子はない。瞳を閉じたまま、小さく寝息を立てている。


 そこでふと、俺は違和感に気が付いた。

 レイは俺の腕の中で、両手で俺の服を摘まむようにしている。だが、それとは別に、俺の腰へと腕を回す感触があるのだ。さらに、背中側に何か柔らかいものが当たっている。俺の後ろに、誰かがいるのだ。


 寝起きで回らない頭のまま、俺は目線を動かした。すると、何か白いものが視界に移った。

 よくよく見て見れば、それは翼だった。白い羽毛に覆われた大きな翼が、俺の体を包むように乗っかっている。


 まさか、と思いながら後ろを振り返ってみれば、予想通りにフィリーネが、予想外の近さで眠っていた。鼻と鼻が触れ合うほどの近さに、俺は思わず顔を仰け反らせる。

 何故ここにフィリーネがいるのだろうかと、俺は一瞬思考を停止させる。俺は間違いなく、部屋の鍵を閉めたはずだ。一体どうやって室内へと侵入したのだろうか。


 気持ちよさそうに眠る様子に一瞬躊躇したものの、俺はフィリーネを起こすことに決めた。軽く体を揺さぶってみれば、ゆっくりと瞼が持ち上がり、紅の瞳が露わになる。


「んぅ……ジーク、おはよう」


「あぁ、おはよう……じゃなくて、フィナ、何でここにいる? どうやって入った?」


「んん、ジーク、それより、おはようのちゅー……」


「こら、誤魔化すな」


「んみゅ」


 顔を近づけてくるフィリーネの両頬を掴む。思いのほか柔らかな感触に、俺は思わずむにむにと頬を揉み込んだ。良い触り心地だ。

 フィリーネは特に抵抗することなく、俺のされるがままである。


「どうしてここにフィナがいるんだ? 扉に鍵は掛けていたはずだぞ?」


「んふふ……エーちゃんに頼んで、鍵を借りたの」


 そう言って、白翼の少女は己の後方を指差した。体を起こしてみてみれば、少女の言うようにテーブルの上に鍵があることがわかる。

 どうやら錠を壊したりはせず、エリザヴェータに部屋の鍵を借りてきたらしい。さすがに、無理矢理壊して侵入しない程度の分別はあったようだ。もっとも、俺の許可なく侵入したことに変わりはないが。


 部屋に入る音がすれば俺だって気が付いていただろうが、そうならなかったあたり、おそらく風の魔術で音を遮断していたのだろう。そうまでして部屋に入りたかったというのか。

 部屋へと入れば、後は布団に潜り込むだけだ。敵意でも向けられれば話は別だが、この少女は俺の近くで眠ることが多い。もう慣れてしまったので、触れられたところで目を覚まさなかったということなのだろう。


「一人で寝るなり、クリス達と寝るなりすればいいだろう?」


「フィーはジーくんと寝たかったの」


「まったく……」


 フィリーネの言葉に溜息を吐き出す。これが悪意でもあれば叱ることが出来るのだが、向けられているのが純粋な好意なので怒るに怒れない。

 せめて、忍び込んだのがレイと一緒の時でよかったと考えるべきだろう。部屋に二人きりと言うのは、さすがに外聞がな。


「ほらフィナ、起きろ。訓練に行くぞ?」


「んぅ……もう少しだけ……」


 そう言うと、白翼の少女は俺に腕を回し、その瞳を閉じてしまった。

 そうだった、普段から訓練場に赴くのは俺が一番最初で、次点がシャルロット。フィリーネは大体最後だった。この少女が起きるのは、いつもならもう少し後のことだ。


 そうは言っても、俺は二度寝をする気はない。

 俺は抱き着くフィリーネの腕を外そうと手を掛けるが、少女はますます腕の力を強めた。もちろん本気で振り解けば出来ないことはないだろうが、そこまでするのは気が引ける。


「こら、フィナ」


「ジーくん、一緒に寝るの……」


「なんじゃ、騒がしいのう……」


 少女と格闘する俺の背後から、小さく声がする。振り向けば、目を擦りながら上体を起こすレイの姿があった。その小さな肩から、毛布がずり落ちる。


「悪い、起こしたか? まだ寝ててもいいぞ」


「むぅ……ジーク達はどうするのじゃ?」


「俺達は早朝訓練だ。別に、レイは参加する必要もないからな」


 少女に声を掛けながら、軽く髪を撫でつける。

 朝の訓練は俺達の日課だが、別にレイが参加する必要はない。もちろん、氷龍を相手に訓練が出来るのであれば頼みたいところだが、城の敷地内でそんなことが出来るはずもないしな。


 レイが来ても見ているだけなので、退屈してしまうのではないだろうか。

 そう思ったのだが、氷龍の少女は俺の服の袖を掴み、こちらを上目で見上げてきた。


「ジーク達が行くのなら、我も行くのじゃ」


「そうか? それは別に構わないが……それなら三人で行くか。ほら、フィナ、起きろって」


「んぅ、やー」


 それからしばらくの間、俺は寝台にしがみつくフィリーネと格闘する羽目となった。

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