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477話 予期せぬ再会1

 氷化した第三皇子や騎士達を救い出してから、数日が経過した。

 あの場で第三皇子を助け出した俺達は、その足で城の東棟へと戻ったのだった。その場にいても、俺達に出来ることはないからな。手伝おうにも他の騎士達が動いているので、むしろ邪魔になっただろう。


 あの日から今まで、第三皇子からクリスティーネに合わせろといった類の話は窺っていない。俺達を捕らえるのは禁止されたとはいえ、クリスティーネを諦めるとは思わなかったのだが。

 もしかすると、俺の掛けた言葉に効果があったのかもしれない。第三皇子がツェツィーリヤの方を向いてくれる分には、俺達としても有り難いことだ。


 そうして今日、俺達は町へと降りていた。

 エリザヴェータを始めとした城側から俺達への礼には、もうしばらく時間が必要らしい。そんなわけで、俺達は城の東棟にもうしばらくの間、滞在することになっているのだ。


 とは言え、城の敷地内で出来ることにも限りがある。別に城での生活に不満があるわけではないが、普段通り訓練を終えた俺達は、たまには町へ出掛けようと思ったのだった。

 今回同行したのはクリスティーネ、シャルロット、フィリーネ、それからアメリアの四人である。エリーゼとイルムガルトは遠慮するそうだ。出掛ける際に向けられた、イタズラっぽい笑みが気になる。


「それでジーク、どこから見て回るつもり?」


「特に決めて来たわけじゃないからな……どこか行きたいところとかあるか?」


「私、食べ物屋さんが見たい!」


 そう言って、勢いよく手を上げたのはクリスティーネだ。実に彼女らしい希望である。

 半龍の少女の答えに、俺はふむ、と腕を組む。


「悪くはないが……少し早いんじゃないか?」


 時刻は朝から昼へと変わる時間帯。今日は城ではなく、町で昼食を取ることは言って出てきたものの、食事にはまだ早い時間だろう。

 そう言ってみれば、半龍の少女はふるふると首を横に振って見せた。長い銀髪が陽光をキラキラと反射する。


「そうじゃなくって、市場を見て回りたいの! ほら、珍しい食材とかあるかもしれないし!」


「んん、面白そうなの。掘り出し物があるかもしれないの」


「そうだな……市場なら本とかもあるかもしれないし、行ってみるか」


 少女達の意見に賛同し、俺達は町の中心地へと向かい始めた。


 そうして辿り着いた帝都の市場は、以前と変わらぬ賑わいを見せていた。ここは通常の商店とは異なり、主に個人間による売買が取り交わされる市場だ。

 道の両脇には所狭しと個人商店が立ち並び、多種多様な商品が売りに出されている。需要の多い店の前には多くの人が集まるが、その反対に閑古鳥が鳴いている店もあった。


 確かこういう店と言うのは、町に使用料、つまりは場所代を払うことで、誰でも物を売ることが出来る仕組みになっていたと記憶している。こういうところは、国が違ってもあまり変わらないものだろう。

 もっとも、俺は店を出したことがないので、詳しいところは知らないのだが。買い手としては、そこそこ利用するんだけどな。


 そんな市場の中を、俺達は左右に目を振りながらゆっくりと進んでいく。立ち並ぶ店の商品として多いのは、やはり食料品だろうか。籠に入れられた野菜や果物の他、干し肉や干し魚なんかが売られている。

 今のところ、目に入るのはどこにでもあるような食材ばかりだ。旅の間の食料は、前回帝都に赴いた際に買い込んでいるので、新たに買い足す必要もない。


 クリスティーネが欲しがるようなものはないかな、と思っていたところで、半龍の少女が目を光らせた。


「あっ、ドライフルーツだ!」


 そう言って、道の脇へと小走りで駆け寄る。後を追ってみれば、どうやらそこは旅人向けの携帯食を売っているらしい。干し肉の他、クリスティーネの言うようにドライフルーツと、ナッツを始めとした木の実が並んでいた。


「探してたんだよね!」


 そう言って、半龍の少女は膝を曲げて腰を落とし、商品を物色し始めた。

 旅の途中、食事の時間以外にも小腹が空くことはよくあることだ。そんな時は、こういったドライフルーツや干し肉などで、空腹を紛らわせるのだった。特に、クリスティーネは道中でよく口にしている。


 普段であれば十分な量を備蓄しているのだが、氷龍の鱗を求めて旅に行った際に、その大半を消費してしまっていたのだった。

 さらに、王国へと戻る旅の買い出しに出た際には、うっかり買うのを忘れていたのだ。ここで見つけられたのは、僥倖だっただろう。


「おや、可愛らしいお嬢ちゃんだねぇ。お嬢ちゃんみたいな子は、ドライフルーツなんかより焼き菓子とかの方が好きなんじゃないかい?」


「私、こう見えても冒険者なんだ! 焼き菓子も好きだけど、ドライフルーツも好きだよ!」


 店主である初老の女性の言葉に、クリスティーネが笑顔で応える。

 今日の俺達の装いは、普段のいかにも冒険者と言った装いとは異なる。少女達は折角町に出るのだからと、普段あまり着ることのない、非戦闘用の服を身に付けていた。あまり目にする機会もないので、俺としても眼福である。


 クリスティーネの言葉に、女性は意外そうな表情を見せた。


「あら、そうなのかい? 人は見かけによらないものだねぇ。冒険者なら、こういったものも必要だろう? うちのはどれも美味しいし、日持ちもするよ? どうだい、買っていかないかい?」


「うん、そうする! でも、どのくらい買っていこうかなぁ……」


 そう言って、クリスティーネは首を傾げて見せる。

 基本的にこういった食料などは、必要な量を皆で決めて買っている。個人で好きな買い物が出来るように十分なお金は渡しているが、必需品に関しては俺の管理している共通費から出す決め事をしているのだ。


 そんなわけで、購入するのであれば量を考える必要があるのだが、それは以前の話である。


「クリスが決めていいぞ」


「え、いいの、ジーク?」


「あぁ、好きなだけ買ってくれ」


 何しろ今の俺達には、氷龍の鱗を売って得た資金が山とあるのだ。ここで売られている携帯食くらいであれば、買うのを躊躇するような値段ではない。

 そんな俺の言葉に、クリスティーネは喜色に顔を輝かせた。


「本当?! じゃあ、ドライフルーツとナッツ、全部買ってもいい?」


「全部か? ……まぁ、いいか」


 頷いて見せれば、女性は驚いたように目を見開いた。


「ちょっと、本気かい? あたしは嬉しいけど、結構な量があるよ? 食べきれるのかい?」


「大丈夫! みんなで食べるし、マジックバッグもあるし!」


「そうかい? それならいいんだけど……」


「食べるのは、主にクリスだけどね」


「ですが、私も干し肉よりはドライフルーツの方が好きです」


「フィーはナッツの方が好きなの」


 携帯食を食べるのはクリスティーネが一番多いが、俺達だって普通に食べるのだ。主に干し肉は俺、ドライフルーツやナッツ類はシャルロット達だな。ちなみにクリスティーネは気分次第で何でも食べる。

 俺達には中に入れた物の時の流れを遅くする、マジックバッグがある。たとえ買いすぎたところで、無駄になることはないだろう。


 こうして携帯食を購入した俺達は、その後も市場を見て回った。残念ながらその他に目ぼしい物はなかったが、ただ見て回るだけでも結構楽しかった。


「さて、そろそろ飯屋でも探すか」


 昼食を取るには、丁度良い時間だろう。

 店を探そうと、一歩踏み出した時だった。


「ジーク!」


 俺の名を呼ぶ声と共に、軽い衝撃が背中へと伝わった。どうやら、誰かが俺へと背後から飛びついたらしい。まったく敵意を感じなかったために反応も遅れ、俺は驚きに振り返る。

 その声に聞き覚えがあることを思い出すより先に、その姿が目に入る。そこで、俺は驚愕に目を見開くこととなった。


「……レイ?!」


 そこにいたのは、氷色の龍の翼と尾を持つ小さな少女だった。

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