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472話 姫君との交流2

 金髪の少女は「それもありますが」と言葉を続ける。


「単純に、皆様が町の外で長い間、どうやって暮らしていたのかにも興味があるのです。家もないのに、どのように過ごしていたのでしょうか? 大変でしたよね?」


「う~ん……そうでもなかったような?」


「洞窟暮らしも、意外と快適でしたよね?」


 私達の言葉に、エリザヴェータはくりくりとした瞳を丸くさせた。


「えっ、洞窟で暮らしていたのですか?」


「そうなの、ジーくんが魔術で穴を掘ってくれたの。フィー達はその中で暮らしていたの」


 元々、薬で眠っていた私と怪我をしたフィリーネを助けるために、止む無く始めた洞窟暮らしだ。雪の降る森の中、天幕の中で治療するのは難しいという理由からである。

 暗い洞窟の中だって、照明の魔術具があれば暮らすことは可能だ。四方が壁に覆われているので、暖房の魔術具の効きが良いのも嬉しい。ジークハルトが土魔術を扱えたおかげで、内部を整えるのは容易だった。


 用を足すところもお風呂もあったし、寝室や訓練用の部屋まで作った。外の景色が見えないことと、ちゃんとした寝具がないのが欠点だろうか。魔術具と毛布のおかげで暖かかったが、ふかふかのベッドが恋しかった。

 第三皇子が氷龍の息吹を浴びてからであれば、洞窟で隠れて暮らす必要はなかったのだろう。だが、私達はすぐに氷龍の鱗を求めて旅に出たし、アメリア達には氷化したフィリーネを守る役目もあった。


 結局、私達が洞窟を出て町の宿で休めるのは、フィリーネを助けてから今日までの数日間だけである。そうするべきかと一度話も出たのだが、もう洞窟暮らしにもすっかり慣れてしまったし、王国に向けて旅立つまでは、洞窟暮らしを続けようという話になったのだ。

 と、そんな話を掻い摘んで話してみれば、エリザヴェータは感心したように私達の話に聞き入った。そうして一通り聞いたところで、一つ息を吐き出した。


「皆様、とても逞しいのですね。私には耐えられそうにないです……」


「私達、冒険者だもん! 野宿には慣れてるんだ!」


「正直、最初の頃は辛い時もあったわ……それでも世話になっている身だから、文句を言おうとは思わなかったけど」


「私達、あの頃はそう言う不自由とかしてないもんね」


 溜息を吐くイルムガルトへ、エリーゼが苦笑を向ける。あの頃と言うのは、ダスターガラーの町でイリダールと言う男の奴隷だった時のことだろう。

 観賞物として扱われていたあの頃は、生きることだけを考えれば衣食住と揃っていた。あの生活に慣れていた二人にとっては、今回の洞窟暮らしは大変だったのかもしれない。


 私としては、天幕よりも広くて快適で過ごしやすかったのだけれど。訓練用の部屋もあり、広いお風呂に入れて、皆と一緒に眠れるのは、ちょっとした休暇気分だった。終わってしまったのが、少し寂しい。

 もっとも、この城に滞在することには賛成なのだが。何しろ、出てくるご飯がどれも美味しいし。


「その点、今日は久しぶりにベッドで寝られるわ。ありがとう、エルザ、感謝してるわ」


 イルムガルトの言葉には、随分と気持ちが籠っていた。余程、毛布に包まって眠るのが堪えたのだろう。


「いえ、そのくらいは当然です。どうぞ何日でもご滞在ください」


 私達はこれからしばらく、この東棟に滞在することとなる。氷龍の鱗の取引と言うのもあるが、エリザヴェータがお礼をしたいということだ。何をしてくれるのか、少し楽しみである。

 他にも何やらエリザヴェータの氷化が治った、快気祝いのようなパーティを予定しているらしいが、そちらは丁重に断っておいた。貴族ばかりが参加するそうなので、私達は場違いだろう。参加したところで、肩身の狭い思いをしそうだ。


 ただ、それとは別口で食事会のようなものもしてくれるらしい。そちらはエリザヴェータと私達だけだそうなので、断る理由もない。大層なご馳走が出るということで、今から楽しみだ。


「でも、皆さんと一緒に眠れないというのは、少し寂しいですね」


「そうだよね、ずっと一緒だったもんね」


 シャルロットの言葉に同意を返す。

 エリザヴェータは私達に対して、一人一部屋の客室を用意してくれるという。そのこと自体は嬉しいのだが、眠るときは当然、一人になるのだ。


 洞窟で暮らしていた時は、毛布に包まり皆で身を寄せ合って眠っていた。眠る前は、つらつらと他愛のない話に花を咲かせたものである。私はあの時間が好きだったがために、一人で眠るとなると寂しく感じる。


「フィー、ジーくんの部屋で一緒に寝ようかなぁ。一人用のベッド一つでも……んん、むしろその方がいいの」


「えっ」


 フィリーネが独り言のようにつぶやいた言葉は、到底聞き逃すことのできるようなものだった。

 私は片手をフィリーネの方へと伸ばし、その細い肩に乗せる。


「フィナちゃん、それはずる……駄目だと思うなっ! ふ、二人だけは、良くないと思うよ!」


 一瞬、本音を言いそうになり、慌てて取り繕う。

 私だって、出来ることならジークハルトと一緒に眠りたい。皆と一緒にいるのも好きだが、たまには彼と二人っきりになりたいのだ。


 フィリーネのことだって私は好きだが、フィリーネがジークハルトと二人で眠っている間に私が一人と言うのは、何と言うかもやもやするところがある。

 そんな私の内心に気付いているのかいないのか、フィリーネは私の言葉に軽く首を傾げて見せた。


「それなら、クーちゃんも一緒に寝る? ちょっと狭いかもだけど、フィー、別に三人でもいいの」


「えっ、それは……いいかも」


 フィリーネの言う光景を想像し、思わず言葉が漏れる。

 出来ればジークハルトと二人というのが理想だが、フィリーネが一緒と言うのも、それはそれで楽しいだろう。少なくとも、一人で寂しく眠るよりは余程良い。


「……いいなぁ」


「そうだよね、シャルちゃんも一緒がいいよね?」


 シャルロットが小さく呟いた言葉を拾い上げる。シャルロットだってジークハルトのことが好きなのだ、出来るなら一緒に眠りたいだろう。


「んん、さすがに四人は難しそうなの……」


 フィリーネが難しそうな顔を見せる。お城の客室なら、ベッドも大きいと思うのだが、さすがに四人が寝られるような大きさではないだろう。

 さて、どうしようかと腕を組む私の元へ、笑顔のエリーゼが近寄ってきた。


「そこは間を取って、ジークさんの元にはアミーを送り出すわ! いいわね、アミー?」


「何の間よ……別に、私は……」


「今はジークさんもいないんだし、ちょっとは素直になったら? アミーだって、ジークさんと二人で寝たいでしょう?」


「ジークと、二人で……」


 アメリアは小さく言葉を漏らし、お湯へと目線を落とす。それから何を考えたのか、見る見る顔を赤くさせた。

 水面へと顔を埋め、ぶくぶくと泡を立てる。


「無理よ、心臓が持たないわ……」


「アミーにはまだ早かったかぁ」


 アメリアの様子を見たエリーゼは、呆れたように溜息を吐いた。

 その様子を眺めていたフィリーネは、何やら難しそうに眉根を寄せた。


「でも、ジーくんと二人って言うのは、やっぱり魅力的なの……」


「二人かぁ……」


 確かに、フィリーネの言う通りだ。皆で眠るのは、それはそれで賑やかで楽しいものだが、折角ならジークハルトと二人きりと言うのが良い。

 ただ、皆もジークハルトの事は好きなのだ。私一人が独り占めするわけにはいかないだろう。

 そこで閃いた。


「そうだ! 順番にしたらいいんじゃないかな? それなら平等だし!」


「それがいいの!」


 フィリーネと手を取り合い喜ぶ。

 順番であれば、皆が納得できるだろう。ここに泊まるのは一晩ではないのだ、少なくとも全員が一度はジークハルトと二人で眠れるはずだ。


 自分の番でないときは、シャルロットやフィリーネと一緒に眠るのも、それはそれで楽しそうだ。


「順番なら、私はアミーと二人で行くのがいいかなぁ? さすがにジークさんと二人っきりは緊張しちゃうし、アミーも一人じゃ無理そうだし……イルマはどうする?」


「私はパス。たまには一人で静かに寝たいわ」


 アメリアとエリーゼは二人セットで、イルムガルトは不参加のようだ。ずっと皆と一緒だったのだし、折角の機会なので一人になりたいという気持ちも、わからなくはない。私は誰かと一緒の方が好きだけど。

 そこからは、どうやって順番を決めようかと言う話になった。


「と言うか、ジークハルトの意見は聞かなくていいのかしら」


 溜息交じりのイルムガルトの言葉は、私達の声にかき消された。

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