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47話 いなくなった少女5

「ジークさん! クリスさん!」


「シャル!」


「おっと、お前も動くなよ? このナイフが見えるだろう」


 そう言って、フォルカー司教はシャルロットに見せつけるように、首元に当てたナイフを少し動かして見せた。それを見て、息を呑んだシャルロットの動きが固まる。

 フォルカー司教は、ナイフをシャルロットの首元に当てたまま素早く視線を部屋の中へと送った。そうして床に転がされている男達の姿を認めると、忌々し気に眉を歪ませる。


「まったく、使えない奴らだ……お前達、どうやってここを嗅ぎ付けた?」


 俺達へと、フォルカー司教が探るような視線を向けてくる。

 フォルカー司教がシャルロットを人質に取っているため、迂闊には動けない。フォルカー司教がその気になれば、易々と手に持つナイフがシャルロットの首へと深々に突き刺さることだろう。

 ここは、隙を探すためにも会話でこの場を繋ぐ必要がある。そう結論付け、俺は口を開いた。


「あんたを追って来たんだよ、フォルカー司教」


「私を? ……私がこの件に関わっていると、どこで気付いた」


「消去法だよ」


 そうして、俺はフォルカー司教が怪しいと考えた理由を説明する。

 シャルロットの両親を殺し、シャルロットを攫った人攫い達が、今回も孤児院からシャルロットを連れ出したとしたならば。怪しいのはもちろん、教会の人間に決まっている。


「だが、王都で人身売買に関わっている人間は、シャルロットの顔は知らないはずだ」


 他の街で攫われたシャルロットは、王都へと運ばれる途中だった。それなら、シャルロットの顔を知っているのは、シャルロットを攫った実行犯達だけである。


「だがフォルカー司教、あんたは俺達からシャルロットの事情を聞いた」


 教会の人間で、シャルロットが人攫いに攫われたことを知っているのは、俺達から事情を聞いたフォルカー司教唯一人だ。

 おそらく、俺達から話を聞いたフォルカー司教は、人攫い達に確認を取ったはずだ。人攫い達の手から逃れた水色の髪の少女が、孤児院に来たシャルロットで間違いないのかを。それが、おそらくは昨日の事のはずである。

 そうして確認を取ったフォルカー司教は、今朝の内に孤児院からシャルロットを連れ出したのである。フォルカー司教であれば、人攫い達をシャルロットの親戚に仕立てて、シャルロットを孤児院から呼び出して捕らえることなど簡単なことだ。


「俺達にここを知られた以上、あんたはもう終わりだ。大人しく観念してくれないか?」


 俺がそう問いかけるが、フォルカー司教はシャルロットを捉える腕を緩めない。


「そうはいくか。この娘さえ売れれば、大金が手に入るんだ。そうすれば、たとえ他の街に行くことになったとしても、いくらでもやりようはある」


「……どうして、そこまでシャルに固執する?」


 唯一つ、わからないのがそのことだ。どうして、そこまでの手間を掛けてシャルロットを攫ったのだろうか。俺の目から見て、シャルロットは見目がいいだけの普通の人族である。シャルロットを売ったところで、他の子供達を売るのとではそれほどの違いはないだろう。

 そう問えば、フォルカー司教は口の端を持ち上げ笑みを作った。


「そうか、わからないか。いいだろう、教えてやる!」


「よせっ!」


 フォルカー司教がナイフを振り上げる。シャルロットの体に突き立てるのかと思い、静止の声を掛けたが、刃はシャルロットの服を切り裂くに止まった。

 シャルロットの服の胸あたりが切り裂かれ、その下の白い肌が露わになる。


 その胸の中心には、水色に輝く石が埋まっていた。


「なに? あれ……宝石……ううん、魔石?」


 その石を目にしたクリスティーネが呟くが、俺も似たような感想を抱いた。シャルロットの胸で美しく輝くその水色の石は、宝石のようにも、魔石のようにも見えた。


「クリス、風呂に入った時も、シャルにはあの石が?」


「……わからないわ。シャルちゃん、ずっと隠してたから」


 おそらく、シャルロットの胸にはずっとあの石があったのだろう。そして、どういうわけかシャルロットはそのことを知られたくなかったのだろう。大衆浴場に行くのを嫌がって見せたのも、そのためだ。


「この石が何なのかわからないか? これは、精霊石と呼ばれるものだ」


「精霊石……それじゃ、シャルは!」


「そうだ、この娘は人族ではない。精霊族、その中でも氷精族と呼ばれる種族だ」


 フォルカー司教の話に、俺は昔聞いた話を思い出す。精霊族という種族は、生まれた時から強大な魔力を持つと言われている。その種族の身体的な特徴として、精霊石と呼ばれる石が体のどこかに埋まっているそうだ。シャルロットの胸に埋まっている石がそうなのだろう。


「精霊族の子供は高く売れる。たとえ死んでいたとしても、精霊石の買い手には困らないのでな」


 フォルカー司教が下卑た笑みを浮かべる。フォルカー司教にとっては、シャルロットが死んでいたとしても構わないのだろう。このままでは、シャルロットがいつ殺されてもおかしくはない。

 これ以上の時間稼ぎは無理だろう。何とかして、フォルカー司教から武器を奪わなくてはならない。俺は自分の持てる手札を確認すると、一つの策を思いついたのだった。

 それを実行に移すため、まずはフォルカー司教へと話しかける。


「なるほどな、時間稼ぎに付き合ってくれてありがとよ。お陰で、俺達の仲間がここを包囲することが出来た」


 もちろん俺とクリスティーネに他の仲間などいないのだが、フォルカー司教はそんなことなど知る由もない。俺の言葉に、フォルカー司教は目に見えて焦りを浮かべた。


「何?! 他に仲間がいるのか?!」


「あぁ、みんな、今だ!」


 俺の声と同時に、フォルカー司教の背後でガタンと大きな音が鳴り響く。

 フォルカー司教は驚きと共に振り返り、背後の通路へと手に持つナイフを向けた。しかし、その先には暗闇が広がり、誰の姿も見えなかった。


「『石の槍(フェルズ・ランツェ)』!」


 その隙を見逃さず、俺は初級魔術を行使する。放たれた石の塊は、狙い違わずフォルカー司教の腕に当たり、その手のナイフを弾き飛ばした。

 さらに、シャルロットから手を放し腕を押さえるフォルカー司教へと駆け寄ると、身体強化した拳をその横顔へと叩き付けた。

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