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469話 説明と交渉3

 ヴィクトルの言葉に、俺は一度紅茶で喉を湿らせた。

 それから改めて男へと目を向ける。


「まず、俺達も氷龍の被害に遭ったことは、知っているか?」


「えぇ、状況的にはそうなるかと。ただ、騎士達が見つけた時には、そこに他の者の姿はなかったと聞いています」


「あぁ、その場には俺とクリス、それからフィナの三人がいたんだが、俺とクリスの二人は無事だったんだ」


 そうして、俺は当時のことについて説明を始めた。

 帝都で騎士達に声を掛けられ、逃亡したこと。帝都の外まで出たところで、結界の魔術具に行く手を阻まれたこと。そこへ、第三皇子が騎士を連れてやってきたこと。


 さらにそこへエリザヴェータがやってきて、第三皇子と口論になった。第三皇子はエリザヴェータの言葉に耳を貸さず、俺達を捕らえようとする。

 そこへ、魔物の群れが殺到したのだった。幸いにも魔物の群れは結界の魔術具に阻まれ、その手がこちらへ届くことはなかった。思えば、あの時の魔物の様子も、どこかおかしかったように思える。


「そちらについてはある程度、見当がついています」


「やはり、何か原因があるのか?」


「えぇ、帝都の近くに氷龍が現れたことにも関係があるようです。ただ、そちらに関してはお教えすることは出来ません」


「んん、何か秘密があるの?」


 首を傾げるフィリーネの言葉に、男は一つ頷きを見せる。


「そのようなものです」


「気にはなるが……まぁ、いいだろう」


 元々、そこまで興味があったわけではない。言葉を濁すということは、原因があるとしても城側の話なのだろう。直接俺達に関係があるわけではないし、この先同じような事態に遭遇することもあるまい。

 魔物達はそのすぐ後にその場を去り、代わりのように氷龍が舞い降りたのだった。騎士達の幾らかは応戦しようと氷龍へ向かったのだが、龍圧を受け動けなくなり、次いで息吹を浴びたのだ。


「もちろん、その場にいた俺達も息吹を浴びたんだけどな。運が良かったのか、俺とクリスは無事だったんだ」


「ジークが守ってくれたんだよ!」


「それに、フィナもな」


「フィー、あんまり覚えてないの」


 フィリーネが不思議そうな顔を見せる。氷龍の息吹を受けた影響か、この少女はその瞬間のことを覚えていないようなのだ。

 俺とクリスティーネを守ろうと、白翼を広げてその身を盾にしたのだが。その甲斐もあってか俺も、腕の中に庇ったクリスティーネも凍結せずに済んだのだ。


「あの時はすっごく寒かったね?」


「寒いで済んだのは奇跡だな」


 俺もクリスティーネも、体の表層を氷に覆われたものの、割り砕くことで事なきを得た。その時は体の芯まで凍えたものだが、魔術で対処をしたのだった。

 本当に、様々な魔術を使えてよかったとしみじみ思う。そうでなければ、凍傷程度は負っていたことだろう。


「その後は、フィナを残していくわけにもいかなかったからな。氷像となったフィナを抱えて、皆のところに帰ったんだ」


「そうでしたか……あれ? そう言えばジークハルトさん達は、どうしてまだ帝都の近くに居たんですか? てっきり、クリスさんを連れてとっくに逃げたものと思っていたのですが……」


「ちょっと、いろいろとあってな」


 納得したように頷きを見せたエリザヴェータだったが、ふと首を捻って見せた。どうやら彼女は、当の昔に俺達が帝都を離れていると思っていたらしい。

 確かに、俺達も当初の予定ではクリスティーネを助け出したら、すぐに王国へと向けて旅立つ予定だった。しかし、フィリーネが怪我を負ったり、クリスティーネの記憶を取り戻したりと、なかなか旅立てなかったのだ。


 ようやく旅立つ準備が整い、帝都に最後の買い出しへと出かけた際に、氷龍と出会ったというわけだ。


「それで、フィナを助ける方法を探してな、なんとか薬の製造方法はわかったんだ。たぶん、そっちで見つけたのと同じだと思う」


 そう言いながら、俺は背負い袋から一冊の古びた本を取り出した。帝都の本屋で譲り受けた、解氷薬の作り方が載った手記である。

 俺が本を差し出せば、ヴィクトルはそれを手に取った。


「なるほど……こちら、お借りしても?」


「あぁ、構わない」


 ヴィクトルとしても、一応確認をしておきたいのだろう。

 手記の中身は、一通り目を通している。例え譲ってしまったとしても、問題はないはずだ。

 手記の表紙を眺めていたヴィクトルは、ふと顔を上げた。そうして、訝しむような表情を向けてくる。


「薬が同じと言うことは、氷龍の鱗が必要だったのでは? そちらはどのようにして?」


「あぁ、市場には出回らないと思ってな。自分達で獲ってきた」


「自分達で?!」


 エリザヴェータとヴィクトルは、揃って驚愕に目を見開いた。

 それから、エリザヴェータはおずおずといった様子で、テーブルの上で両手を組んで見せる。


「あの、ジークハルトさん。それって氷龍を倒したってことですか?」


「いや、流石にそれは無理だからな。戦って、鱗を取って来ただけだよ」


「それでもすごいです!」


 感激したように、エリザヴェータが瞳をキラキラとさせて見つめてくる。この少女の中では、俺達が氷龍との死闘の末に、鱗を剥ぎ取ってきたと思っているのだろう。

 実際には氷龍であるレイから鱗を譲り受けたような形なのだが、それを説明するわけにはいかない。万が一にも、レイを危険に晒すようなことは出来ないからな。


 実際、黒龍とは刃を交えたのだから、本質的にはあまり変わってはいないだろう。


「まさか、たったこれだけの人数で、氷龍の鱗を手に入れるとは……」


「鱗を取りに行ったのは、俺とクリス、それにシャルの三人だけどな」


「なんと……皆様がそれほどの冒険者とは、存じませんでした」


「運が良かっただけだよ」


 感心した様子のヴィクトルへと言葉を返す。何しろ、あそこでレイと出会えたのは、幸運以外の何物でもないからな。

 レイに出会えたおかげで、多くの氷龍の鱗を持ち帰ることが出来た。黒龍と戦う羽目にはなったものの、レイとの訓練で力もついたし、俺達だけで龍と戦うよりは余程勝算があった。


 あの場でレイと出会えていなければ、無事に帰れた保証はない。その場合は、今ここでこうしていることもなかっただろう。

 そんな風に俺が回想していると、ヴィクトルが瞳をキラリと光らせた。


「それならばもしや、氷龍の鱗はまだあるのではないですか?」

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