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462話 姫君への恩返し11

 俺の言葉に、騎士は何を言おうかと迷っている様子で、数度口を開け閉めする。それからもう一度背後を振り返り、再びこちらへと向き直った。


「……あー、わかった。仲間を救ってくれたことには、なんだ、その、感謝する……だが、何と言うか、物事には優先順位と言うものがあってだな……」


 騎士は非常に言い難そうな様子で、そう言葉を口にした。ひとまず、氷化した騎士の一人が救われた光景に、俺達へと向ける怒気は削がれたらしい。

 騎士の一人が救われたこと自体は喜ばしいことだが、氷化した中には皇族も含まれているのだ。この騎士からすれば、貴重な薬は皇族に使用するべきだという考えがあるのだろう。その考え自体は、正しいものだと俺も思う。


 そこへ、俺は騎士を安心させるように軽く背負い袋を叩いて見せる。


「安心してくれ、薬ならまだある。そもそも、俺達だってエリザヴェータ姫を救うために来てるんだからな」


「そうか、それならば良いのだが……」


 俺の言葉に、騎士は安堵したように肩の力を抜いた。

 この様子であれば、次の話も円滑に進むだろうか。


「それで、姫様に氷化を解除する薬を使わせてほしいんだが」


「それは……」


 騎士はすぐには頷かず、難しそうな顔で両腕を組んで見せた。そのまましばし悩んだ様子で顔をやや俯かせていたが、やがて小さく首を横に振った。


「我々の一存では、何とも言えないな。薬が本物だということはわかったが、事が事だ。そう簡単に、姫様に薬を使用するわけにはいかない」


「まぁ、そうだよな」


 騎士の言葉に、俺は小さく息を吐きだした。

 ここにいるのは、一般の騎士でしかないのだ。そう易々と皇族に対して薬を使うことは出来ないだろう。いや、例え騎士団の隊長であったとしても、そのような権限を持ち合わせているはずがない。

 そうなれば、次にやることは決まっている。


「それなら、城から人を呼んでくれるか? 出来れば、その時一緒に姫様の側仕えをしている、イヴァンさんを呼んでくれるとありがたいんだが……」


 城の者であれば、エリザヴェータへと薬を使用する権限もあることだろう。まずは城から誰かを呼んできてもらうのが、一番早い。上手く都合が付けばよいのだが。

 ただ、対象となるのがエリザヴェータなのだ、それなりに動きは早いだろう。


 エリザヴェータの側仕えをしているイヴァンとは、城の東棟で世話になった際に面識がある。薬を使用する権限はないかもしれないが、この場に呼んでもらえれば、使用人とは言え多少は俺達と話もしやすくなるだろう。

 それに、エリザヴェータを助け出した際に、彼女のことを良く知る者が一緒にいた方が良い。門を護る騎士達だけでは、対応に困るだろうからな。


 俺の言葉に、騎士は一つ強く頷きを見せた。


「そうだな、どの道城への報告は必要なのだ。その時、合わせて伝えることにしよう」


「頼む。あぁ、それから――」


 付け加えるように言いながら、俺は騎士の後ろを指差した。騎士は俺の指し示す先を追うように、背後を振り返る。


「元に戻ったばかりの人は、体が冷え切っているんだ。出来れば毛布なり、風呂に入れるなりしてやるのがいい……そうだな、姫様付きの侍女も呼んだ方がいいかもな」


 フィリーネを助け出した時のことを思い返せば、事前に用意をしておいた方がいいだろう。

 フィリーネだって、助け出した直後は少し衰弱していた様子なのだ。エリザヴェータを世話する人は、少なくとも必要になる。


「わかった、それも考慮しよう。俺は向こうで少し話して、対応を決めてくる。お前達はこの場で待っていてくれ。くれぐれも、勝手な行動はしないようにな」


 そう言い残し、騎士は先程元に戻った騎士の元へと走っていった。どうやらクリスティーネが先んじて動いたことについては、あまり良く思われていないようだ。まぁ、当然のことではある。


「待っててだって!」


「ジーくんの予想通りなの」


「一番無難な形ではあるな」


 今のところ、事前に予想した展開の中では、もっとも有り得そうだと思っていた展開だ。

 いきなり護衛の騎士達へ話しかけたところで、即座に捕らえられるようなことはないとわかっていた。隙を突けば、氷像と化した騎士の一人に、クリスティーネが薬を使用することも可能だろうと踏んでいた。


 そこで実際に騎士が元へと戻るところを見れば、護衛の騎士も俺達の話に耳を貸すだろう。

 とは言え、その場ですぐにエリザヴェータへと薬を使用する許可が出る可能性は、低いと思っていた。ただの騎士が判断できる問題を越えているのだ。


 後は、城から人が来るのを待つ他にない。これで俺達に対して高圧的な者が来るようであれば、またひと悶着ありそうなものなのだが。城から来た者によっては、まだ逃走する可能性も残っているのである。

 出来れば、イヴァンがやってきてはくれないものか。彼であれば、親しいとは言わないまでも話したことがあるのだ。俺達のことも知っているし、エリザヴェータのために動いてくれるはずだ。


「さて、ひとまず待ちだが……ただ立って待つのもあれだな」


 この国の姫君が関わることなのだし、すぐに動いてはくれるだろうが、それでも多少時間は要することだろう。その間、ずっと立ちっぱなしで待つというのも考え物だ。

 せめて座って待てるようにしようと、俺は体内の魔力を練り上げた。そうして、土魔術で岩のベンチを作り上げる。その上に、俺はクリスティーネとフィリーネと共に腰を下ろした。


「……ねぇ、ジーくん」


「どうした?」


 俺が一つ息を吐いていると、隣からフィリーネが声を掛けてきた。顔を向ければ、白翼の少女は氷像と化した騎士達のいる壁の中へと目を向けている。


「フィーも、あんな感じだったの?」


「あんな感じと言うと……あぁ、氷化のことか」


 言葉を返しながら、俺も壁の方へと目を向けた。壁に設けられた通路からは、中にいる騎士の姿が垣間見えた。その姿は、以前のフィリーネの姿と重なって見える。

 そう言えば、フィリーネは氷化した人を見るのはこれが初めてになるのだ。


 俺とクリスティーネは氷龍が現れた際にも見たし、シャルロット達も氷化したフィリーネの姿を見ている。氷化している間の記憶が無いフィリーネにとっては、初めて目にする光景である。


「そうだな、あんな感じだったよ」


 そう声を掛けながら、軽くフィリーネの頭へと片手を乗せる。綿のようなふわふわな髪の感触は、氷の硬さだったことが嘘のようである。


「……そっか」


 小さく声を漏らし、白翼の少女が俺の方へと身を寄せる。この娘自身、氷化していたことには思うことがあるのだろう。

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