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460話 姫君への恩返し9

 フィリーネを氷像化から救い出してから、また幾らかの日数が経過した。幸いにもフィリーネは氷像化の後遺症などはなかったようで、既に以前の動きを取り戻している。この様子であれば、王国へと戻る旅に出ても問題はないだろう。

 そんなわけで、いよいよ拠点としていた洞窟を発つ日がやって来た。


「それでジーク、私達はここで待っていていいのね?」


 そう言って赤毛の少女、アメリアが小首を傾げて見せる。

 今は洞窟内の広間、その中心に置かれた石テーブルを囲むように、全員が腰掛けていた。時刻は昼前、いつもよりは短めの訓練と入浴を終え、紅茶を飲みながら休憩をしていたところだ。


 隣に座るクリスティーネが茶菓子を頬張る姿を視界の端に納めながら、俺は一つ頷きを返した。


「あぁ、帝都に向かうのは俺とクリス、それからフィナだけだ」


 王国へと向けて旅立つ前に、俺達にはやることがある。氷龍の息吹を浴びて氷像と化した帝国の姫、エリザヴェータを救わなければならないのだ。

 ただ、彼女を助けようとすれば、その他にも氷化した大勢の騎士達への対応を迫られる可能性が高い。


 そうなった時、帝都の守護を務める騎士達が俺達に対して、どういう対応を取るのかがわからない。さすがに争うようなことにはならないとは思うが、身柄を抑えられる恐れがあるのだ。

 向こうが穏便に話し合う気があるのであれば、俺達としても応じる用意がある。助け出したエリザヴェータから頼まれれば、無碍にもできない。条件次第では、氷龍の鱗を譲ってもいいだろう。


 だがそれも、相手の対応次第だ。もしも向こうが力尽くで取り上げようと言うのであれば、俺達が手を貸す謂れはない。そうなれば即座に逃走する用意がある。

 そのために、クリスティーネとフィリーネの二人を帯同するのだ。二人であれば、俺を抱えて空を飛んで逃げることが出来る。前回のように、障壁の魔術具に阻まれるようなこともないだろう。


 他の四人には、俺達が出向いている間はこの洞窟で待っていてもらうことになる。帝都に全員を連れていけば、それだけ身動きが取り辛くなるからな。

 何時でも出られるよう、荷物などを纏めておいてもらい、後は状況に応じて行動する予定だ。


「ジークさん、どのくらい待っていればいいでしょうか?」


 岩の椅子に行儀よく腰を下ろしたシャルロットが問いかける。俺達を待つことになる身からすれば、ある程度時間の目安が欲しいところだろう。

 とは言え、正確なところはわからない。


「そうだな……ある程度、時間は必要になるだろうな」


 ここから帝都までの往復にも時間を要するが、町に着いたからと言って、すぐに目的を達成できるわけではない。氷像化した者達を護る騎士との交渉が不可欠になるし、場合によっては城から人を呼ぶ必要もあるだろう。

 その場で交渉が決裂すれば、エリザヴェータには申し訳ないが、すぐに洞窟へ引き返すことになる。その場合は、シャルロット達を待たせるのも、それほどのことではないだろう。


 もし交渉が上手くいけば、その時は予定通りエリザヴェータを救うことが出来る。だが、首尾よくエリザヴェータを救うことが出来たとしても、それで終わりなわけではない。

 フィリーネを助けた時にわかったことだが、氷像化した者を助けた直後は、体が冷え切っているのだ。それを暖める準備まで俺達がする必要はないだろうが、事前に忠告は必要だろう。


 エリザヴェータを救うことが出来れば、目的は達成だ。後は速やかにその場を立ち去るというのが、俺達にとっては一番都合が良いだろう。

 ただ、間違いなく引き留められることになる。それに応じる義務はないものの、エリザヴェータだって俺達と話をしたいはずだ。俺としても、彼女とは別れる前に話くらいはしておきたい。


 そこでの会話の内容にもよるが、もしも向こうに歩み寄る気があるのであれば、俺達としても、多少譲歩はしてやっても良い。具体的には、解氷薬の製作方法や氷龍の鱗の譲渡だな。もちろん、相応の見返りは頂くが。

 それが結果的に第三皇子を救うことになるのは癪だが、氷龍の討伐隊が組まれた以上は、彼や騎士達が氷化から救われるのは時間の問題であろう。それならば、今のうちに恩を売っておくというのも、一つの手だ。


 そういった諸々を考えると、ここに戻ってくるのにはそれなりの時間を要すると思うのだ。もちろん、それ以外にもいろいろな可能性があるが。

 とは言え、クリスティーネとフィリーネを連れていく以上は、最悪の場合でも逃げ帰れないということはないはずだ。


「場合によっては昼を回るかもしれないが……それでも、夕方までには帰ってこられると思う。遅くなればここでもう一泊するかもしれないが、早ければ今日中にはここを出る予定だ。皆、そのつもりでいてくれ」


 俺の言葉に、皆は揃って頷きを見せる。どうなるのかはまだわからないが、とにかく帝都に行ってみるしかないだろう。後は、面倒なことにならないことを祈るのみだ。

 それから少しの間、細かい打ち合わせを済ませた俺は、クリスティーネとフィリーネの二人を伴って洞窟を後にするのだった。

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