459話 姫君への恩返し8
少女の一言と同時、ぶわりと冷気が溢れ出る。正面を避け、隣に立つ俺にすらわかるほどに濃厚な魔力だ。無防備な状態で受けることになった少女達は、皆一様に動きを止めた。
フィリーネ達は少し苦しげな表情で、呼吸すら忘れたようにその場から動かない。その様子を見てか、シャルロットが伺うようにこちらを見上げた。
俺は少しだけ待ってから、シャルロットへと頷きを返す。その合図でシャルロットが少女達へ向けていた腕を下ろすと同時、フィリーネ達が肩から力を抜き、大きく息を吐きだした。
そんな少女達の様子を見て、シャルロットは大層慌てたようだ。
「だ、大丈夫ですか?」
氷精の少女がフィリーネへと駆け寄り、労わるように体に触れる。それに対し、白翼の少女は胸に片手を当てた。
「平気、なの……ちょっと、驚いただけなの」
そう言って、呼吸を整え始める。その隣に立つアメリアも、体を解すように腕を回していた。
「今のが龍圧なのね……まったく動けなかったわ」
「これでも、本物の龍には及ばないんだけどな。初めてだと、なかなかキツイだろう?」
あくまで俺の体験と、クリスティーネとシャルロットとの話を合わせた結果だが、龍圧は慣れない初めのうちが一番大変なのだ。龍圧は受ければ受けるほど、徐々に負担が軽くなっていく。もっとも、それで動けるようになるわけではないのだが。
レイと共に龍圧の訓練を始めるようになった際、クリスティーネなどは立てなくなっていたのだ。これでも、相手がシャルロットなだけ訓練は楽な方である。
新たに訓練をすることになった四人のうち、フィリーネの魔力量はクリスティーネと同等、イルムガルトはそれよりも少し多いらしい。俺やシャルロットのように龍圧に対抗できるようになるかはわからないが、多少なりとも形にはなるだろう。
それからクリスティーネよりも魔力量が少ないのが、アメリアとエリーゼだ。二人が龍圧を使えるようになるのはなかなか難しいかもしれないが、使う機会も稀なのだ、嘆く必要はないだろう。
クリスティーネのように、龍鱗の魔術が使えれば話が早いのだが、あれはレイ曰く龍の魔術らしい。半龍族であるクリスティーネだからこそ出来たことで、きっと俺達には出来ないのだろう。
時間があれば、是非とも研究したいところではあるが、旅の間だと難しいかもしれないな。
「ん~、これは確かに、ジークさんの言う通り備えておかないと、いざって時に動けないかも?」
「そうね、どういうものなのかは、何となくわかったけど……それでジークハルト、訓練ってどうするの?」
「基本的には、今みたいに龍圧を浴びて慣れるのと、実際に龍圧を使えるように練習することだな。ただ……ある一定以上にならないと、出来ているかわからないのが難点だな」
まずは龍圧に慣れることだ。感触が掴めれば、動作や思考が止まってしまうこともなくなることだろう。
問題は、龍圧を使おうとした場合、それが目に見えないことにある。実際に圧力を感じるレベルまで行けば、成功していることがわかるのだが、そもそもやり方が掴めているかどうかがわからないのだ。
俺達の場合は、レイに魔力の流れが見えるようだったから、訓練も順調に進んでいったのだ。レイがおらず、魔力の流れが見えない俺達だけでは、以前のようにはいかないだろう。
本気で龍圧を習得しようと考えるのであれば、レイの元を訪れるのが一番ではある。俺達と同じように連日訓練に励めば、少なくとも龍圧の基礎くらいは身につくことだろう。
「……まぁ、そこまではいいか」
俺は小さく言葉を漏らした。
別に俺達全員でレイの元に赴いたところで、嫌がられないだろうし、むしろあの子は喜んでくれることだろう。そこで連日訓練に勤しむというのも、決して悪くはないと思う。
とは言え、距離もあるし、またそれだけの日数、ひとところに留まるというのもな。龍圧を習得するのは必須と言うわけでもないし、そろそろ本気で王国に帰りたい。訓練は毎日少しずつやっていけばいいだろう。
「とにかく、やってみましょうよ。ジーク達に出来るんなら、私達だって頑張れば出来るようになるはずでしょう?」
「フィーが一番に出来るようになって見せるの!」
フィリーネとアメリアの二人も、習得に意欲を燃やしているようだ。
「そうだな、まずは実践してみよう。最初は普通の魔術を使うように、魔力を集めるんだ。それも、一度に集められる最大の量だな。この魔力量が、龍圧の強力さに直結することになる。魔力を集めたら、次に大切なのはイメージで……」
そうして、俺はレイから教わったような漠然としたものではなく、俺自身の感覚による説明を懇々としていった。少女達は分かったようなわかっていないような顔で、ほぅほぅと俺の説明に頷きを返す。
それから実戦に移ってみたのだが、やはりというべきか、この日のうちには誰も形にはならなかった。こればかりは、長い目で見る他にないだろう。
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