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458話 姫君への恩返し7

 落ち込んだ様子を見せる二人を宥めて褒めて、なんとか持ち直すことに成功した。二人ともリベンジに燃えているようなので、しばらく訓練には身が入ることだろう。

 いつも通りならこれで訓練を終えるところなのだが、今日からはもう一つ、メニューを追加することにした。そうして呼び寄せた少女達の様子を、俺は一通り眺める。


「それじゃ皆、今日から龍圧の訓練をしていこうと思う」


 そんな俺の言葉に頷きを見せたのは、既にレイと共に訓練を行ってきたクリスティーネとシャルロットの二人だ。対して、不思議そうに首を捻ったのがアメリアである。


「龍圧って前にも言ってた、龍の使う威嚇の魔術よね? わざわざ訓練までする必要があるの?」


 アメリアの抱く疑問は尤もではあるだろう。龍圧と言うのは、龍の使用する威嚇への対抗手段でもあるのだ。

 龍と邂逅するような機会でもなければ使用することもないだろうし、そんな予定もない。訓練をしたところで、実際に必要となる機会はそうそうないだろう。


 それでも、俺はアメリアの問いに対して、首を縦に振って見せた。


「あぁ、龍が代表的だが、一部の強力な魔物なんかは、似たような威圧を見せることがあるようだからな。万が一にも備えておいた方がいい」


 魔物の領域の奥に潜む奴等は、龍に似た威圧を使用するという例が報告されているのだ。もちろん、その効力は龍に及ばず、精々体が動き辛くなる程度のもののようだが。

 おそらく、原理は龍圧と同じようなものだろう。それなら、龍圧で対抗が出来るはずだ。もしもに備えて、日頃から訓練をしておいた方が良い。


 とは言え、この場にいる全員が訓練を受ける必要があるとまでは思わない。


「まず、俺とシャルは既にある程度の龍圧が使える。今後も訓練を続けていくとして、クリスもやっておいた方がいいな」


「うん、私も二人と同じことが出来るようになりたいな」


 俺の言葉に、クリスティーネはぐっと両の拳を握って意欲を見せている。

 魔力量の関係で、龍に対抗できるほどの龍圧は使用できないクリスティーネだが、それでも基礎自体は出来ているのだ。訓練を続けていけば、技術も向上していくことだろう。


 それから、と俺は白翼の少女の方へと顔を向けた。


「フィナも、覚えておいた方がいいな」


「んん、追いつけるように頑張るの!」


 フィリーネはやる気十分と言った様子で、クリスティーネと同じように拳を握った。この娘は俺達と別れるつもりはないのだ、一緒にいる以上は、同じ訓練をしていた方が良い。

 それから俺は、残る三人の方へと向き直った。


「アメリアとエリーゼ、イルマはどうする? 別に、無理して覚える必要はないと思うが」


「どうしてそこに私も入ってるのかしら? これでも、それなりに戦える方だと思ってるんだけど?」


 俺の言葉が引っ掛かるのか、少しむっとした様子でアメリアが唇を尖らせた。

 それを受け、俺は「いや」と正直な思いを口にする。


「王国に帰ったら、真っ先に火兎族の里に寄るからな。そうなったら、アメリアはそこに残るんだろう?」


「それは……」


 アメリアが言葉を詰まらせる。

 アメリアと一緒に居られる時間も、そこまで多くはない。もちろん、龍圧のやり方を学びたいというのであれば一緒に訓練をするが、里までの旅の合間の訓練だけでは、習得は難しいだろう。

 もちろん、俺達と別れた後も訓練を続けるというのであれば、意味はあると思うが。


「エリーゼもそうだし、イルマにしたって魔物と正面から戦うことはないだろうしな。龍圧の訓練は、してもしなくてもいいと思うぞ?」


 俺の言葉に、エリーゼとイルムガルトが顔を見合わせた。

 基礎の訓練には二人にも参加してもらっているが、それは旅のための体力をつけるためだったり、最低限自身の身を守ってもらうためだ。二人とも、強くなることに拘ってはいないようだが、必要なことだからと弱音を吐かずに取り組んでいる。


 しかし、龍圧の訓練になると話は別だ。想定される状況が極めて特殊で、使う機会も早々ない。

 エリーゼとイルムガルトにとっては、不要な技術ということだ。わざわざ苦労してまで、習得する意味はないだろう。


「う~ん……折角だし、やるだけやってみようかな? イルマはどうする?」


「私もやってみようかしら? 他にすることもないし」


「わ、私もやるわ!」


 どうやら三人とも訓練に参加するようだ。結局、全員が参加するわけである。人数が増えたところで手間が増えるわけでもないし、構わないだろう。

 さて、それでは早速訓練に移りたいところだが、この中で龍圧を経験したことがあるのは、訓練を行っていない者の中ではフィリーネだけである。まずは実際に体験してみるのが良いだろう。


 そう考えた俺は、これまで大人しく様子を眺めていたシャルロットへと目を向けた。


「よし、それじゃシャル、まずは龍圧と言うのがどんなものなのか、皆に見せてやってくれるか?」


「えっ、わっ、私が、ですか?」


 俺の言葉に、氷精の少女は驚いた様子で宝石のような瞳を丸くした。

 それに対し、俺は一つ頷きを返す。


「あぁ、龍圧なら俺でも出来るし、クリスだって龍に対抗できないだけで使えるんだが、俺達の中ではシャルが一番上手いからな」


 氷龍であるレイと共に訓練をした俺達三人とも、程度の差こそあれ龍圧は使える。クリスティーネは龍の使用する龍圧には対抗できなかったが、俺達相手には多少なりとも圧力を感じさせることは出来るのだ。

 それから俺は弱い魔物の動きを止める程度には使えるのだが、保有魔力量の関係だろうか、それよりもシャルロットの方が一枚上手なのだった。見せるのであれば、シャルロットが一番適任だろう。


「わ、わかりました、頑張ります!」


 少し気後れした様子のシャルロットだったが、それでも頷き意気込みを見せた。それから片手を胸元へと当て、魔力を練る体勢に入る。

 その間に、俺とクリスティーネは龍圧を受けないよう、少女の左右へと立ち位置を変えた。シャルロットの正面には、フィリーネ達四人が残る形だ。


 そうしてシャルロットは前に立つ少女達へと、片手を伸ばす。


「『龍圧』」

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