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454話 姫君への恩返し3

「どうかしたか、シャル?」


 いつもとは少し様子の事なる少女の様子に、俺は疑問を返した。シャルロットは普段から控えめなところのある少女だが、それでもこんな風に言い難そうにする様子を見せるようなことは、あまり多くはない。

 俺の言葉に、シャルロットは「えっと……」と少し顔を俯かせ、視線を彷徨わせる。その視線が、部屋の隅に置かれているマジックバッグのところで固定された。


「あの、レイさんから貰った氷龍の鱗って、まだたくさんありますよね?」


「ん? そうだな、まだまだあるぞ?」


 黒龍と戦うために、氷龍であるレイと戦闘訓練を行った俺達だが、その過程でレイの鱗を何枚も剥がしている。また、黒龍と戦った際にも剥がれ落ちた鱗があるので、合わせてかなりの量を持ち帰っているのだった。

 そのうちの一枚は、フィリーネを氷化から救うための薬の素材に使用したが、まだまだ何十枚と残っているのだった。これの扱いも、考える必要があるな。


「それがあれば、氷龍の息吹で氷になった人を元に戻す薬も、たくさん作れますよね?」


「……そうだが、シャル」


 何となく、少女の言いたいことが分かった。


「シャルは、帝都の外で氷になっている騎士達を、救いたいのか?」


 俺の言葉に、シャルロットは躊躇いがちに頷きを見せた。

 それに対し、最初に反応を見せたのはイルムガルトだった。


「私は反対ね。そもそも、そこまでする義理がないと思うわ」


「私もイルマに賛成よ。城側だって何もしてないわけじゃないだろうし、放っておいてもいいんじゃない? そうでしょ、エリー?」


「う~ん、そうだねぇ……シャルちゃんには悪いけど、その中に知り合いがいるわけでもないしなぁ……ジークさんはどう思う?」


 どうやら三人は反対のようだ。シャルロットを責めているわけではないが、わざわざ俺達が手を出す必要性もない、という考えらしい。

 そして、その考えは俺も同じだ。


「俺も反対だな。正直、どうでもいいと思う。むしろ、助ける方が厄介だしな」


 あまりこの娘達に内心の黒い部分を見せたくはないが、特に第三皇子に関しては、いい気味だと思う。あの男が氷龍の被害に遭ったということで、溜飲が下がるというものだ。

 元に戻したところで俺達の追跡を諦めるかはわからず、何なら逆恨みされる可能性もあるので、凍っておいてもらった方が都合が良いのだ。


 巻き添えになった騎士達に関しては、気の毒だとは思うものの、それだけだ。特に親しいわけでもないし、そのうち帝都の誰かが助けてくれることだろう。

 そう考え、俺はシャルロットへと向き直った。


「そう言うわけでシャル、そっちは諦めてくれ」


 俺の言葉に、氷精の少女は尚も躊躇いがちに口を開いた。


「その、私達の状況を考えても、難しいことはわかってます。ただ、その……せめてエルザさんだけでも、助けられないかと……」


「あ~……そうか、エルザがいたか……」


 シャルロットの言葉に、俺は片手を顎先へと当てた。フィリーネのことがあってすっかりと忘れていたが、氷龍の息吹を浴びた者の中には、この国の姫であるエリザヴェータも含まれていたのだった。

 先程まではシャルロットの話に反対していた少女達も、少女の言葉に少し考え込むような表情を見せた。


「……いたわね、知り合い」


「確かに、今なら助けられるだろうけど……」


「でも、エルザちゃんを助けたら、他の人もってならないかなぁ?」


「そこなんだよな……」


 こっそりとエリザヴェータだけを助けられるのであれば、特に悩むこともなく首を縦に振っていただろう。だが、彼女が安置されているのは、おそらく他の氷化した騎士達と同じ場所だ。

 皇族だということで多少考慮はされているだろうが、護るうえでは一箇所の方が都合がよい。


 そうなると、まず近付くことが難しい。間違いなく、そこに立つ騎士に話を通す必要があるだろう。そうなった時、俺達の話に耳を貸すだろうか。

 首尾よくエリザヴェータだけを救い出せればよいが、そうなることはおそらくないだろう。薬の調合方法や、氷龍の鱗の入手経路について、詳しく話を聞かれるはずだ。


 その場合、氷龍の鱗が他にもあることが知られれば、間違いなく向こうは取り上げようとしてくるだろう。そうなれば、最早エリザヴェータだけを救うことは不可能だ。

 放っておいても、何れはエリザヴェータも救われることだろう。そう考えた時、腕の中の少女がもぞもぞと動きを見せた。


「んぅ……エーちゃん、助けてくれようとしたの……」


「……そうだな」


 エリザヴェータは、結界の魔術具に阻まれ第三皇子達に追い詰められた俺達を助けるために、城から駆け付けたのだった。そして、そこで氷龍の息吹に巻き込まれたのだ。

 考えてみれば、俺達が巻き込んだようなものだとも言えるだろう。あの場に来なければ、彼女が被害に遭うことはなかったのだから。


 他の者はともかくとして、エリザヴェータだけでも助けてやりたい気持ちはある。あとは、実際にどう行動するのかが問題だ。


「実際に被害に遭ったのも、氷龍の鱗を取りに行ったのもジーク達だし、どうするのか判断は任せるわ」


 俺が考えていると、アメリアがそう声を掛けてきた。それに同意するように、エリーゼとイルムガルトも頷きを見せる。


「そうだね、私達はいつでも出られるように準備しておけばいいかな?」


「後はジークハルトと……被害に遭ったフィナと、標的になってるクリスが決めればいいんじゃないかしら?」


「そうか……フィナはどう思う?」


 声を掛ければ、フィリーネは薄っすらと紅の瞳を開いた。


「フィーはジーくん達に助けてもらったから……ジーくん達が決めていいの」


 そう言ったきり、再び目を閉ざしてうとうととし始めた。あまり興味がなさそうな様子だ。

 それから俺は、シャルロットを抱き抱えたクリスティーネへと目を向けた。


「クリスはどうだ? 場合によっては、また狙われる可能性もあるが……」


 俺の言葉に、半龍の少女は笑みを見せた。


「私のことなら平気だよ! 追い掛けられたら、今度こそ逃げればいいもん!」


「そうか……わかった、せめてエルザだけでも助けられるよう、動いてみるか。それでいいか、シャル?」


 声を掛ければ、シャルロットは申し訳なさそうな表情で頷きを返す。


「はい……すみません、ジークさん。お手を煩わせて……」


「いや、構わないさ。俺としても、エルザだけは助けてやりたいからな。ただ、いつでも出られるように準備はしておきたい。まずは明日、帝都に行って様子を見よう」


 俺の言葉に、皆は揃って頷きを見せる。一緒に行く予定のクリスティーネとシャルロットは、嬉しそうな様子で明日の予定を話し始めた。

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