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452話 姫君への恩返し1

 フィリーネを無事に救い出した翌日、俺は拠点である洞窟の広間で、毛布の上に腰を下ろしていた。

 フィリーネが無事元に戻ったとは言え、病み上がり……と言うのも少し違う気がするが、しばらく様子を見た方が良い。皆とそう話し合った結果、もう少しの間、この洞窟に滞在することにしたのだ。


 今日は旅から帰還したばかりと言うことで、日課としている訓練も休みとすることにした。そのため、今日は一日ただのんびりと過ごす予定だ。


「ん……むぅ……」


 俺が背中を岸壁に預けて体の力を抜いていると、フィリーネが小さく声を漏らし、もぞもぞと身動ぎをして見せた。


「どうかしたか、フィナ?」


「んん……ちょっと、落ち着かないの……」


 白翼の少女はそう言って、恥じらうような素振りを見せた。普段の少女を見ている身からすると、少し意外な反応だ。


「もしかして、こういうのは嫌だったか?」


「そんなことないの! 嬉しい、けど……ジーくんからこんな風にされるのは、初めてだから……」


「そうだったか?」


 もぞもぞと動くフィリーネの感触が、直に俺の腕へと伝わってくる。

 それもそのはず、白翼の少女は今、俺の腕の中にすっぽりと収まっているのだった。しかも、後ろから抱き締めるのに翼は邪魔になるからと、わざわざ人の姿に変わった状態だ。


 確かに、考えてみれば俺の方からフィリーネへ、こんな風に接するのは初めてのことかもしれない。多少触れることはあるものの、基本的にはフィリーネの方から抱き着いてくることばかりだったからな。

 俺の方から積極的に行動するのは、普段はシャルロットに対してくらいなものである。氷漬けになっていたこの少女からしてみれば、一晩で急に俺から距離を詰められているのだ。困惑もするだろう。


 ではなぜ今日はこんな風にフィリーネに対して接しているのかと言うと、単にそういう気分だったからである。もちろん、そんな風に感じた原因と言うのもわかっている。

 なにせ、フィリーネはつい昨日まで、氷龍の息吹の影響で全身を氷に変えられていたのだ。数十日振りにこの娘と接することが出来たとなれば、交流したくなるのは自然なことだろう。


 そんなわけでフィリーネを手招きし、俺の前に座らせたわけだが……これは良いな。少女の温かさと柔らかさで、この娘が生きているということが実感できる。

 氷像となった少女を眺めた時の、嫌な気分も忘れられそうだ。暖も取れるし、一石二鳥と言うわけである。

 ただ、どういうわけだかフィリーネ本人は、何やら恥ずかしがっているように見える。自分からはあれだけ積極的だというのに、こういうことをされる方は苦手なのだろうか。


 解放してやるべきかとも思うが、別に嫌がっているわけではないらしい。こうしていると何とも落ち着くし、出来るだけ甘やかしてやろう。

 そう思い、片手をフィリーネの頭へと乗せれば、少女の体がぴくりと揺れる。それには構わず、俺は少女の白髪を己の指へと絡めた。


「フィナの髪はふわふわだな。柔らかいし、綿みたいだ」


「ジーくんは、フィーの髪、好き?」


「あぁ、綺麗だし、触り心地もいいな」


「んふふ、くすぐったいの」


 笑みを見せるフィリーネの様子を眺めながら、しばらく少女の白髪を弄ぶ。そうしていると、ふと視線を感じた。

 その方向を追ってみれば、こちらに目を向けている赤毛の少女達の姿があった。そのうちの一人、アメリアの赤い瞳と目が合う。その途端、赤毛の少女は慌てたように目を逸らした。


 何か言いたいことでもあるのだろうか。アメリアは顔を逸らしたまま、ちらちらとこちらを横目で窺っている。

 俺は片手でフィリーネの頭を撫でながら、首を傾げた。


「どうかしたのか、アメリア?」


「べ、別に、何でもないわ!」


 俺の言葉に、赤毛の少女は焦った様子で首をぶんぶんと横に振って見せた。何故だろう、言葉とは裏腹にどこか含むものがあるように見えた。その証拠に、今もこちらを気にするように、しきりに視線を向けている。

 しかし、この様子では聞いたところで応えてはくれないだろう。仕方なく、俺はその隣に座るもう一人の赤毛の少女、エリーゼへと視線を向けた。


 俺の視線を受け、エリーゼは呆れたように溜息を見せる。


「もう、ジークさんは鈍感だなぁ……」


「いきなりどうした?」


 突然、そんなことを言われても、心当たりなどないのだが。

 エリーゼはやれやれといった面持ちで苦笑を見せ、言葉を続ける。


「そりゃあ、フィナちゃんに構いたくなる気持ちもわかるけど……私達だって、ジークさん達に会うのは久しぶりなんだけど?」


「……それはまぁ、そうなんだが」


 確かにエリーゼの言う通り、俺達が顔を合わせたのは数十日振りのことではある。期間だけを考えてみれば、フィリーネが氷漬けになっていた日数と、実はそれほど変わりがないのだった。

 とは言え、氷と化していたフィリーネと、そうではないアメリア達とでは、どうしたって心象が異なるのだった。アメリア達は、俺達が旅をしている間も自由に動けていたのだからな。


「フィナちゃんに構うのもいいけど、ちょっとはアミーにも構ってあげてもいいんじゃないかな~?」


「ちょっ、エリー、私はそんなこと……」


「もう、またそんなこと言って」


 慌てた様子のアメリアの言葉に、エリーゼが溜息を吐いて見せる。

 だが確かに、俺達が旅に出ている間、アメリア達がどう過ごしていたのかと言う話も聞いてみたいところではある。とは言え、俺の気分的には、今はフィリーネを思う存分撫で回したいところだ。


 どうしたものかな、と考えていると、俺がフィリーネの腹側へと回した片手が抱き抱えられた。


「んふふ、今日ばかりはジーくんはフィーのものなの。誰にも渡さないの」


 どうやら恥ずかしさも薄れてきたようで、腕の中の少女は上機嫌な様子だ。笑みを見せながら、小さく鼻歌を口遊み始めた。


「どうやらそういうことらしい。今日のところは勘弁してくれ」


「仕方ないなぁ……けど、次はちゃんとアミーにも――」


「エリー?」


「はいはい、私も一緒ならいいでしょ? と言うことでジークさん、次は私達にも構ってね?」


「あ~、善処するよ」


 そんな言葉を交わしながら、俺は心行くまでフィリーネの綿のような白髪を弄ぶのだった。

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