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45話 いなくなった少女3

 すっかり陽が落ち暗くなった王都の街並みを、等間隔に設置された魔術具の街路灯がぼんやりと照らしている。昼間よりもずっと低くなった気温は、容赦なく俺達の体から熱を奪っていた。それでも、今が冬ではないことに俺は安堵している。

 俺とクリスティーネは、森へと出かけるときの格好で王都にある建物の一つに身を隠していた。あまり人が通らない区画のようで、今のところは誰にも見咎められてはいない。巡回の騎士が通りかかる以外は、時折遠くからの喧騒が聞こえてくるくらいで静かなものである。


「ジーク、こんな魔術も使えたんだね」


「まぁ、こんな機会がないと使えないけどな」


 俺達は目的の建物から目を離さず、小声でやり取りをする。

 クリスティーネが指摘したのは、俺が使用した初級魔術、『影隠蔽(フィンス・ヴェール)』のことである。『万能』のギフトを持つ俺は全属性に適性があるため、当然闇属性の魔術も使用できる。

 この『影隠蔽(フィンス・ヴェール)』という初級魔術は、対象の存在を覆い隠し、見つかりにくくする魔術である。やっかいな魔物から逃れるときなど、隠れたいときに使用するのが良いとされるが、あくまで見つかりにくくなるだけで、絶対に見つからないというわけではない。特に、今回のように暗闇なら十全にその効力を発揮するが、昼の森などで使用してもあまり意味のない魔術である。


 今回はその魔術を、俺とクリスティーネの二人に掛けている。出来るだけ目立たずに行動するためだ。この状態であれば、俺達がそこにいると事前にわかっていない限り、見つかることはないだろう。

 未だ、クリスティーネには俺の考えをはっきりと告げてはいないが、それでもクリスティーネは何も言わずについて来てくれている。クリスティーネ自身、シャルロットの身に何かあったのではないかという思いが拭えないのだろう。

 何も言わずについて来てくれているのは、俺への信頼故だろう。その信頼を裏切りたくはないが、出来れば俺の予想が当たっていてほしくもないものである。


 そうしてどれだけの間、物陰に身を潜めていただろうか。ぼんやりとした魔術具の光が、たった今建物から出てきた人物を照らし出した。その人物は周囲を気にしているのか左右を見渡すと、道の向こうへゆっくりと歩き出した。


「ジーク、あれって……」


「話は後だ、追いかけるぞ」


 クリスティーネが何かを言いかけたのを遮り、その人物の後を追う。

 その人物について未だ詳しくは知らないものの、王都に住んでいることは間違いないだろう。このまま、ただ自宅へと帰るのであれば問題はないが、そうでなかった場合はどこへ向かっているというのか。

 俺達の追うその人物は時折角を曲がり、人気のない方向へと進んでいく。周囲を気にしながら歩く様子に、俺の中の不安が大きくなっていく。魔術の効力だろう、後を追う俺達に気付いた様子はない。


 やがて、その人物は一つの建物へと扉を開けて入っていく。石造りの、四角い外観の建物だ。おおよそ倉庫のように見えるその建物は、まず自宅ではないだろう。

 俺は追いかけていた人物がたった今消えた扉へと駆け寄った。中の様子を探りたいが、さすがに扉を開けては気付かれるだろう。扉に耳を当ててみるものの、扉が分厚いのか中からは何の音も聞こえてこない。

 何とか中の様子を窺えないかと建物の周りをぐるりと回れば、二階の高さに窓があるのが目に入る。


「クリス、あそこから中の様子を見よう」


「えっと、私は飛べるけど、ジークはどうするの?」


「これくらいなら問題ないさ」


 そう返し、身体強化を掛けた体で壁を蹴り上げれば、俺の体は軽々と宙を舞う。そうして、狙い通りに窓の淵に足を掛けた。窓ははめ殺しになっているようで、開くことはできないようだ。中に明かりはないらしく、部屋の中は暗闇に包まれている。


「どう、ジーク?」


 銀の翼を背に宿したクリスティーネが、浮かび上がって俺へと並ぶ。


「何も見えないな。魔術で中を見てみるか」


 そう言って、俺は一つの魔術を行使する。光を生み出す魔術を使えば、中は見えるようになるが気付かれてしまうだろうし、何より目立つ。そのため、使用したのは光を発することなく闇を見通す光属性の魔術だ。これなら、周囲に気付かれることなく中の様子を探ることが出来る。


「ジーク、これって!」


 俺と同じように魔術を使ったのだろう、驚いた様子でクリスティーネが声を上げる。


「あぁ、嫌な予想が当たったようだ」


 俺は部屋の中の様子を目にし、そう呟いた。

 部屋の中には、何人もの子供達の姿があった。眠っているのか、床に横になった子供たちは、一様に同じような粗末な服を身に纏っている。その手足には例外なく、どこかで見たような無骨な枷が嵌められていた。


「人攫いに攫われた子供達だろうな」


「そんな、どうして!」


「王都のどこかに、こういう場所があることはわかっていたんだ。それがここだっただけの話さ」


 人攫い達が捕まえた子供達を売るために、王都に来ているのはわかっていたことである。それなら、捕らえられた子供達が王都の一か所に集められているのは、不思議なことではなかった。


「助けなきゃ!」


「待て、クリス!」


「ジーク、どうして止めるの?! まさか、放っておくつもり?!」


「助けるに決まってるさ。だが、その前にもう少し様子を探るべきだ」


 部屋の中へと入るには、窓を割って入るしかない。そうすると、間違いなく建物の中にいる者達に気付かれるだろう。戦闘になることは確実で、子供達を守りながらの戦いは厳しいものになるはずだ。

 見たところ、部屋には見張りのような人物はいない。建物の中には人攫いの仲間がいるのだろうが、子供達に見張りも付けていないのであれば、それほどの人数でもないだろう。一箇所に集まってくれていれば、制圧するのも難しくはないはずだ。


 俺達は建物の正面に戻ると、尾行していた人物が消えていった扉の前へとやって来た。そうして風属性の魔術を使って音を消すと、ゆっくりと扉を開いた。

 幸い、扉の前には誰もいなかったようだ。建物の中には長い廊下が続いており、奥の方から微かに話声のような音が聞こえていた。


 俺達は先程と同じように光の魔術で闇を見通し、さらに風の魔術で音を消して建物の奥へと進んでいく。突き当りを右へと曲がると、一筋の光が漏れている様子が見て取れた。

 どうやら、部屋の中から明かりが漏れているらしい。俺はそっと扉の傍へと近寄ると、隙間から中の様子を窺った。

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