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444話 白翼の少女の救出1

「これでよし、と」


 背負い袋の口を閉じ、軽く持ち上げ部屋の隅へと移動させる。それから、最後の確認とばかりに周囲へと目を向けた。

 私達が拠点としている洞窟の中は、すっかりと片付いた様相だ。一時期は本や毛布が散らかっていたりしたものだが、それらはすべて背負い袋の中へと仕舞われている。


 これで出立の準備は万端だ。残すは最低限の物のみで、それらも明日の朝には片付ける手筈になっている。

 少し早いけれど、今日はもうお風呂に入って寝てしまおうか。そう考える私へと、赤毛の少女が近寄ってきた。


「ねぇエリー、もう一日だけ待てないかしら?」


「もう、まだ言ってるの、アミー?」


 赤毛の少女、アメリアの言葉に私は小さく溜息を吐く。もう何度目になるやり取りだろうか。

 私の言葉に、アメリアは小さく肩を落とす。


「だって……明日には、帰ってくるかもしれないじゃない……」


「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないでしょ? アミーがそう言うだろうからって、ジークさんも期限を決めてくれたんじゃない」


「それは、そうなんだけど……」


 いつもの元気のない様子に、私はもう一度小さく溜息を吐いた。それから、洞窟の隅に安置されている、人型の氷の塊へと目線を向けた。そちらに置かれているのは、氷像と化したフィリーネだ。

 彼女を助けるために、ジークハルト達が氷龍の鱗を求めて旅立ったのが、実に四十日以上も前のことだ。あの日以来、旅立った彼らの消息は分からない。


 首尾よく氷龍の鱗を手に入れて、戻ってきているところだろうか。それとも、依然として氷龍の姿を求めて、北の地を彷徨っている頃だろうか。

 それとも――


 それ以上は考えまいと、私は首を振った。

 とにかく、彼らがいつ帰ってくるのか、または帰って来られないのかはわからない。だが、いつ帰ってくるのかわからない彼らを、ここでずっと待ち続けることは出来ない。

 そのために、彼らとの間で一つ、約束をしていたのだ。


 それは、四十日以内に彼らが帰ってこなかった場合は、私達だけで王国を目指すということだ。いつまでも寒い洞窟で待たせるわけにはいかないと、ジークハルトが配慮してくれたのである。

 この場にフィリーネを残していくことに後ろ髪を引かれる思いはあるが、私達は事前に決めた通り、王国を目指して旅立つはずだった。


 だが、期限を過ぎても、私達はまだ洞窟に留まっていた。


「もう少しだけ、待てないかしら?」


 日に日に落ち込んだ様子を見せるアメリアの言葉に、私も否とは言えなかった。

 どちらにせよ、旅の準備も必要なのだ。私達は帝都に出向いて買い物をしたり、洞窟内を片付けたりしながら、数日を過ごした。


 彼らが置いて行ってくれた路銀には、今しばらくの猶予はある。なので、もう少し彼らを待つことも可能だ。

 だけど、今日になってもジークハルト達は帰ってこない。何れは資金も底を突いてしまうだろう。そうなる前に、旅に出るべきだという意見で私とイルムガルトが一致したのだった。


「……イルマだって、待つことには賛成してくれたでしょう?」


 この場に残る理由を探すように、アメリアがテーブルの方へと顔を向ける。そちらでは、クッションを乗せた岩の椅子に腰掛けたイルムガルトが、一人紅茶のカップを傾けている。

 イルムガルトはアメリアの呼びかけに、チラリとこちらに目線を向けた。それから持っていたカップをテーブルへと戻し、こくりと喉を鳴らす。


「私だって、ジークハルト達には戻ってきてほしいもの。旅に出るならその方が安全だし、フィナのことだってあるし……」


 そこでイルムガルトは言葉を切り、少女の氷像へと目線を振った。イルムガルトはあまり他者との距離を詰める人ではなく、私ですら仲良くなるのに長い時間が必要だったが、それでも彼女なりにフィリーネの現状を心配はしているようだ。

 少しの間、フィリーネの様子を眺めていたイルムガルトは、再びこちらへと顔を戻す。


「けど、いつまでも待つってわけにはいかないでしょう? もう余分に待ったんだし、私達が出た後にジークハルト達が帰ってきたとしても、怒られたりはしないわよ」


「別に、怒られることを心配してるわけじゃ……」


 イルムガルトの言葉に、アメリアが口籠る。彼女だって、ずっとここで彼らの帰りを待つことが、現実的でないということはわかっているのだろう。ただ、どうしても踏ん切りがつかないだけなのだ。


「ねぇアミー、火兎族の里でジークさん達を待とう? ジークさん達が無事に戻ってこれたら、きっと来てくれるから」


 この洞窟で、いつ帰るかもわからないジークハルト達を待つよりは、火兎族の里に戻った方が良いだろう。里なら私達も出来ることはいろいろとあるし、何より私にとっては数年振りの故郷だ。出来ることなら早く帰りたい。

 ジークハルト達の性格から言って、フィリーネを助けて王国へと戻ったら、まず間違いなく火兎族の里に足を運んでくれることだろう。再会するのは、その時でも良いのではないだろうか。


「アミーだって、里の様子が気になるでしょう? 帰って、おじさん達に顔を見せに行こう? ね?」


 私の言葉に、アメリアはそれでも渋るように顔を少し俯かせた。それでも仕方がないと納得してくれたのだろう、肩を落として頷きを見せる。


「……そうね。わかっ――」


 アメリアが不自然に言葉を切り、勢いよく顔を外へと繋がる通路へと向ける。その理由は、すぐに私にも知れた。

 洞窟の外から聞こえたのは、こちらへと近付く複数の足音だった。

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