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443話 氷龍の少女と別れ4

 龍の素材を回収した翌日、俺達は再び氷龍の姿となったレイの背中に乗って、空を飛んでいた。なんと、これで三日連続である。

 そして、レイの背中に乗って空を飛ぶのは、今日が最後となるだろう。


「レイ、このあたりでいいぞ」


『そうか……もう着いてしまったか』


 俺の声に、レイが残念そうな声を響かせる。そうして氷龍は徐々に高度を下げ、雪の森へと降り立った。

 ここは帝都から北西に位置する地点だ。あくまで俺の予想だが、ここから歩けば、夕方頃には俺達が拠点としていた洞窟に辿り着くだろう。


 当初はレイの棲む洞窟でレイとは別れ、徒歩でここまで戻ってくる予定だった。けれど、レイが俺達を送ると言って聞かなかったのだ。

 氷龍であるレイの背中に乗れるのであれば、大幅な時間短縮になる。片道だけでも数日を要した道程を、レイのおかげで半日もかからず踏破してしまったのだ。かなり速度は出ていたが、三回目ともなれば景色を楽しむ余裕もあり、俺達としても大助かりだった。


『我としては、ジーク達の棲む洞窟とやらまで送ってもよかったのじゃが……』


「これ以上は、帝都に近すぎるからな。あまり龍の姿で人里に近づかないほうがいい……特に、今の時期はな」


 龍と言うのは人に広く知られた魔物ではあるが、実際に目にする者は稀だ。俺達なんかは、もう一生分の龍を見ただろう。

 もしも人の住む町の近くで、氷龍であるレイの姿が目撃されたならば、それだけで大騒ぎになるのだ。


 特に、今は皇族が氷龍の被害に遭ったことで、緊張感が増しているのだ。そろそろ、氷龍の討伐隊も編成が終わったころなのではないだろうか。

 そんな中にレイが姿を見せたなら、たちまちのうちに討伐対象となってしまうだろう。出来ることなら、レイには人と争わず、静かに暮らしてもらいたい。


『ジークがそう言うのであれば、従おう……さて……』


 頷きを見せたレイが風雪に包まれる。その輪郭が見る見るうちに小さくなり、雪のカーテンの向こうから少女の姿のレイが現れた。この姿の方が、目線の高さがあって話しやすいな。


「口惜しいが、ここでお別れじゃ」


 そう口にするレイの表情は、寂しさが隠しきれてはいなかった。

 氷龍の少女はこちらへと一歩近寄り、俺を上目で見返す。


「のう、ジークや……これから先、帝都に来てもジーク達には会えぬのじゃろう?」


「……そうだな。他の仲間と合流したら、ここから南の方にある別の国に移動することになる。また帝都に来る予定は、今のところないな」


 フィリーネを助けることが出来れば、最早この国に留まる理由はない。依然として俺達は追われる身に変わりはないし、第三皇子の氷像化が解除されるより前に、帝国から脱出したいところだ。

 だがそうなると、レイと言葉を交わせるのはこれが最後となるだろう。例え一緒に来ることを望んだとしても、氷龍であるレイには、王国の気候は合わないだろうからな。


 俺の言葉に、レイは「そうか」と肩を落とす。俺達との別れを惜しんでいることが、ありありとわかった。

 そこへ、クリスティーネが軽い足取りで近付く。そうして、躊躇なく氷龍の少女の体を抱きしめた。


「元気でね、レイちゃん! 私、レイちゃんと一緒に暮らせて楽しかったよ!」


 そう言って、クリスティーネはレイの体を軽い調子で持ち上げた。

 そのことに若干目を丸くしていたレイだったが、表情を緩めて半龍の少女を抱き締め返す。


「うむ、我も楽しかったぞ! もしも姉と言うのがいたら、こんな感じなのかと思ったのじゃ」


 訓練ばかりの俺達だったが、もちろんそれ以外に話をしなかったわけではない。休憩時間や就寝前などは、いろいろと話をしたものだ。レイは人の暮らしや物語などを、よく聞きたがっていたからな。

 その中でも、レイは特にクリスティーネと気が合うらしく、よく話をしていたものだ。二人の息が合うのも、龍の血が関係しているのだろうか。


 そうして満足したのか、クリスティーネがレイを下ろす。氷龍の少女は、今度はシャルロットへと向き直った。


「レイさん、たくさん教えてくれてありがとうございました。そのおかげで、少しは強くなれたと思います」


「うむ! シャルは人の身には過ぎた魔力を持っているからのう。研鑽を続ければ、何れ龍をも凍らせられるようになるじゃろうて」


 背丈も色合いも似通った少女達が、互いに抱き締め合う。

 俺達の中で、レイと一番魔術について話していたのがシャルロットだ。同じ氷属性の魔術を扱うということで、話が合うのだろう。


 レイに教えられたことで、シャルロットは何かを掴んだらしい。そのおかげで、黒龍にも通用するほどの魔術を扱えるようになったのだ。

 シャルロットはもともと、魔力の使い方の上手い子だ。ここからさらに訓練を続ければ、龍を単身止めることも不可能ではなくなるかもしれない。


 ひとしきり別れを惜しんでいた氷龍の少女は、最後に俺の方へと足を進めた。


「ジークには世話になったのう。おかげで、これからはのんびりと過ごせそうじゃ」


「それを言うなら、お互い様だろう」


 俺達の中で、レイに最も甘えられたのは俺だろう。クリスティーネにも懐いてはいたけが、距離感的には友人と言った間柄だった。

 対して俺は、保護者と言う感覚だったな。シャルロットと同じくらいの年齢と言うこともあり、俺としても庇護欲のようなものがあることは自覚している。


 抱き締めれば、すっぽりと腕に収まるくらいの小さな姿だ。これで、本当の姿は氷龍と言うのだから、世界と言うものは広いものである。

 俺は片手を少女の背に添え、もう片方の手で軽く氷色の髪を撫でつけた。


「レイ、人のいる町に行くことは止めないが、十分に気を付けるんだぞ?」


「わかっておる、上手くやるのじゃ。折角、ジーク達にお金も貰ったのじゃしな!」


 レイには氷龍の鱗をもらったお礼として、金を始めとしていくつか細々としたものを贈っている。正直、鱗を売りに出せば余裕で回収できるので、俺達としてはいくらでも差し上げたのだが、レイからはそこまでは不要と言われたのだ。

 そのため贈ったのは、レイが町に行ったときに食事を楽しめるようにといくらかの金と、人の姿の時に使えそうな、毛布などいくつかの品物だった。


 レイがやろうと思えば自らの鱗を売って、大金を得ることも不可能ではないのだ。

 もっとも、龍の鱗なんて売りに出せば、出所を探られるだろうから、それは非常時の手段になるのだろうが。売るならせめて、仕留めた魔物の素材にしてくれと、よく言い含めておいた。


「あとは、人を信じ過ぎないようにな? 例えレイが人の姿でいるときに出会ったとしても、軽々しく正体を明かしたりするんじゃないぞ?」


「わかっておるわ。まったく、子供扱いが過ぎるんじゃから……」


 そう言って、レイが小さく頬を膨らませて見せる。だが、俺が心配なのは魔物よりも人だった。

 レイは氷龍だ、大抵の魔物よりも強い。それこそ、他の龍種でもなければ脅威とは成り得ないだろう。


 だが、人は別だ。人の中には、龍をも狩れる者が存在するのだ。そう言った者達に、レイが襲われないのかが心配だった。

 特にレイは、今回俺達と接したことで、人に対する警戒心が薄まっていることだろう。もちろんレイに人と争って欲しくはないが、いざ戦うことになった時に、レイに人を害することが出来るのかが不安なのだ。


 俺としてはどこぞの知らない冒険者よりも、たとえ龍だとしてもレイの方が大切だからな。こればかりは、巡り合わないことを祈る他にないだろう。


 しっかりとレイを抱きしめてから、少女の体を解放する。それからレイは俺達から少し離れ、氷龍の姿へと戻った。

 そうして氷龍は、その場で大きく翼を広げる。


『ではな、ジーク、クリス、シャル』


「あぁ、元気でな」


「またね、レイちゃん!」


「きっと、また会えます」


『うむ……いつかまた会おうぞ!』


 氷龍の羽ばたきで、強い風が巻き起こる。ゆっくりと宙に浮かんだ氷龍は、少しの間俺達の姿を眺めた後、北の空へと飛んでいく。

 俺達は、その姿が見えなくなるまで、大きく手を振っていた。

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