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441話 氷龍の少女と別れ2

 黒龍を撃退した翌日、俺は若干の重さを感じて目を覚ました。ゆっくりと瞼を持ち上げてみれば、光量を抑えた魔術具によって、洞窟の天井がぼんやりと見える。

 上体を起こそうと思ったが、何かが俺の腹あたりに乗っかっているようだ。何だろうかと首だけを動かしてみれば、視界の端、氷色の髪が見えた。


「あぁ、今日もか」


 その光景を見て、俺は小さく言葉を漏らす。目の前の状況は、ここ数日で何度も目にしたものだ。

 俺の体に覆い被さるように、少女の姿となったレイが寝息を立てていた。どうやらレイの寝相はなかなかに悪いようで、隣で眠ると高確率で俺に覆い被さっているのだった。


 普段通りなら、夜明けを迎えた頃だろう。目を覚ました以上は活動を始めようかと、俺は体を起こす。

 その途中、起こさないようにとレイの体を軽く動かす。だが氷龍の少女は俺が触れたことに気が付いたのか、小さく身じろぎを見せた。


「ん……」


 ころりと毛布の上に転がったレイが、うっすらと氷色の瞳を開く。まだ半覚醒と言った感じで、瞳の焦点は合っていない。


「悪い、起こしたか?」


「んぅ……ジークか……」


「もう少し寝てていいぞ」


「うむ……」


 くしゃりと髪を軽く撫でれば、レイはむにゃむにゃと口元を歪める。それから甘えるようにこちらへと両手を伸ばし、俺へと小さな力で抱き着いてきた。

 よしよしと軽く背中を叩けば、満足したのかレイは俺の体を解放する。自由になった俺は、ようやくその場に身を起こした。


 未だもぞもぞと動きを見せていたレイは、ぬくもりを求めるように毛布の上を膝立ちで進む。そうして、反対側で眠っていたクリスティーネへと身を寄せた。

 シャルロットと身を寄せ合って眠っていたクリスティーネは、気が付いた様子もなくすやすやと寝息を立てている。彼女達が目を覚ますのは、もう少し後のことだろう。


 洞窟の外へと出て、周囲の様子を眺める。キンと冷えた空気の中、降り積もった雪を朝焼けが照らしている。夜の間に雪は降らなかったようで、高さの変わらない雪原の上、雲一つない青空が覗いていた。

 その後、起きてきたクリスティーネ達と共に朝食を取った俺は、食後の茶を飲みながら少女達へと向き直る。


「クリス、シャル、調子はどうだ?」


 気になるのは、二人の体調だ。昨日は二人とも、就寝前まで強魔水の副作用に悩まされていたようだが、一晩置いた今はどうなのだろうか。

 俺の言葉に、二人は揃って顔を見合わせた。


「ん~、まだ少し体が重いかも……シャルちゃんは?」


「昨日よりは良くなりましたが、私も似たような感じです」


 二人とも、やはり薬の影響が抜けきらないようだ。それでも薬を希釈していたおかげで、動くこともままならない、というほどではなさそうだ。

 黒龍を追い払った以上は魔物と争う予定もないし、今日ばかりは訓練を休んでも良いだろう。


「俺も同じだな……クリス、魔力の方はどうだ?」


 続いて、俺は半龍の少女へと問いかける。クリスティーネは俺の言葉に、軽く小首を傾げて見せた。


「そっちは大丈夫そうだけど……あっ、そっか、レイちゃんを治してあげないと!」


 思いついたように表情を変えるクリスティーネへ、俺は頷きを返す。

 昨日の戦闘では、俺は多少のかすり傷を負ったくらいで、放っておいても支障はなかった。シャルロットは魔力の使い過ぎで疲弊こそしたものの、離れたところにいたために無傷である。


 クリスティーネは黒龍の息吹を受けて大怪我を負ったものの、強魔水が効いているうちにその場で治療をしたので、怪我自体は完治している。

 その代わり、黒龍の攻撃を一身に受けていたレイは、体のあちこちに傷を負っていたのだった。持ち前の生命力で命にかかわることはなかったが、傷自体は数十、いや数百箇所にも及んでいたのである。


 出来ればすぐにでも治してやりたかったが、氷龍の傷には俺達の治癒術は効きが悪い。これだけの傷となるとクリスティーネと協力が必要だが、俺もクリスティーネも、昨日のうちはそれだけの魔力を練るのが困難だった。

 そんなわけで、氷龍に効き目があるのか些か疑問だったが、手持ちの薬を処方したのだった。今の様子を見るに、多少は薬が効いているようだが、可能なら治癒術で治してしまう方が良いだろう。


 そういうわけで、レイの治療を行うこととした。幸い、魔力は普段通りに扱えるようになっている。

 白い光に包まれて、気持ちよさそうに目を閉じていたレイは、治ったことを確認するように巻いた包帯を解き始めた。


「……うむ、塞がっておるな! 治癒術と言うのは、まことに便利なものよ!」


 氷龍と言うのは強大な力を持っているが、治癒術を扱うことは出来ない。レイは俺達の治癒術を見て、純粋に羨ましがっているようだ。龍の中には治癒術の使える種族もいると聞くが、別種の龍においそれと頼むことなど出来ないだろうからな。

 レイの治療を終えた俺達は、再び椅子へと腰を下ろす。


「それでジーク、今日はどうするの?」


「これと言って決めてはないな。昼頃に調子が良ければ、黒龍の素材を回収しに行きたいところだが……あとは、のんびりと過ごせばいいだろう」


「訓練はお休みですか?」


「体も重いしな。ここのところ訓練続きだったし、今日くらい休みでもいいだろう」


 黒龍に挑むために、二十日以上も休みなく訓練を続けてきたのだ。たまには体を休める日があっても良いだろう。

 クリスティーネもシャルロットも、訓練自体は嫌いではないようだが、俺の言葉に頷きを見せる。これで町が近ければ、買い物なんかも楽しめたのだが。生憎と、この雪山では手持ちの荷物くらいしかない。


 そうして俺達は、久しぶりに訓練のない時間を、ただのんびりと過ごすのだった。

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