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44話 いなくなった少女2

「結局、シャルちゃんには会えなかったね」


 夕食の席で、クリスティーネは溜息を吐きながらそう口にした。

 昼過ぎに教会を後にしてから、二人して少し王都を歩き回ってみたものの、シャルロットの姿を見つけることはなかった。あまり期待をしていなかったとはいえ、王都の広さというものを改めて目の当たりにした気分である。

 そうして、今は宿屋の食堂で夕食を取っている最中だ。目的のシャルロットに会えなかったために、クリスティーネは少し気落ちしている様子である。


「ねぇジーク。もう、このまま会えないのかな?」


「そう、だな……」


 結局のところ、教会で聞けたのは王都のどこかに住んでいる、シャルロットの親戚に引き取られていったという話だけである。どのあたりに住んでいるのかもわからないのでは、会いに行くこともできないだろう。


「でも、頼れる人がいるのなら、シャルちゃんにとってはよかったよね?」


「それは……そう、だが」


 どうしても、引っ掛かっていることがある。そのことが解決されない限り、俺は手放しで喜べないだろう。せめて、一目だけでもいいのでシャルロットの様子を見ることが出来れば良いのだが。

 そのことについて、クリスティーネはどう考えているのだろうか。俺は、思い切って自身の疑問をクリスティーネへと告げることにした。


「なぁクリス。クリスは昼間の話、どう思ってる?」


「どうって、何が?」


「シャルのことだ。王都に親戚がいるなんて話、クリスは聞いていたか?」


 俺がそう問えば、クリスティーネは悩むように指先を顎へと当てた。


「う~ん、私も聞いてなかったけど……」


「俺もだ。シャルはそんな話はしていなかった。王都に親戚がいるなら、孤児院に入るんじゃなくて、まずはそっちを頼るはずだろう?」


 これから自分はどうするべきだろうか、と問いかけてきたシャルロットの事を思い出す。両親を失い、見知らぬ王都で一人、行動の指針を尋ねた少女の事を。

 孤児院に入り、やりたいことを探せばいいと告げれば、その瞳に決意の色を見せた。俺達が会いに行くと言えば、柔らかい笑顔を見せてくれた。

 あの表情は、嘘ではなかった。間違いなく、シャルロットは孤児院で未来に向けて歩もうとしていたのだ。


「そうかもしれないけど……」


「それに、シャルロットが孤児院に入ってまだ三日目だぞ? シャルロットの親戚とやらは、どこでシャルロットが孤児院にいることを知ったんだ?」


「そう言えば、そうだよね?」


 俺達がシャルロットを連れて王都を歩いたのは実質、枷を外し服を買い、大衆浴場に行った後王都観光をした、たった一日の事である。そこでシャルロットを見かけたのならば、その場で俺達に声を掛けたはずである。

 その後、シャルロットを孤児院に預け、今朝引き取られるまではたった二日しかなかったのだ。いくら何でも見つけるのが早すぎるのではないだろうか。


「そもそも……シャルロットを引き取ったのは、本当にシャルロットの親戚なのか?」


 俺が一番気になっているのはそのことだ。王都に来るのは初めてだと言っていたシャルロットに、俺達に話してもいない王都に住む親戚が、本当にいたのだろうか。

 俺がそう問えば、クリスティーネは驚きを露わにする。


「それは……でも、ジークは嘘だと思ってるの?」


「その可能性は、あると思ってる」


「でも、そんな、何のために?」


 そう聞かれて、答えは一つだ。


「シャルを捕らえるため、と考えれば、どうだ?」


 そう考えれば、シャルロットの親戚を名乗り、孤児院からシャルロットを連れ出したことにも頷ける。

 そう告げれば、クリスティーネはわからないように首を傾げて見せた。


「でも、どうしてわざわざシャルちゃんを?」


「……そこなんだよなぁ」


 どうしてシャルロットが狙われたのか。わざわざシャルロットを捕らえるだけの理由が、俺にはわからなかった。

 孤児院の子供であれば誰でもよかったのだろうか。それにしては、孤児院に入ったばかりのシャルロットが狙われた理由がわからない。

 確かにシャルロットは見目が良く、将来が楽しみな少女ではあった。しかし、それだけのことで孤児院の関係者に嘘を吐き、少女を連れ去るだろうか。


 わからないことはまだある。もしも、シャルロットを迎えに来たのが親戚ではなく、見知らぬ男達だった場合、シャルロットが大人しくついて行くだろうか。確かに彼女は引っ込み思案なところはあるが、見知らぬ大人にのこのことついて行くほど愚かではないだろう。

 それに、元々シャルロットは人攫いに捕らえられていたのだ。その危険性は身を以て知っているはずで、親戚を名乗る男達について行く姿を想像できない。


「何か、俺達の知らない秘密でも、シャルにはあるのか?」


 それこそ、人攫いに狙われるだけの理由が、シャルロットにはあったのだろうか。普通の人族の少女にしか見えず、何も持っていなかったが、特別な生まれでもあったのだろうか。

 俺が頭を悩ませていると、クリスティーネがふと思い出したように口を開いた。


「シャルちゃんの秘密……そう言われてみれば、何か隠してたかも?」


「本当か?」


「う~ん……お風呂でね? 恥ずかしがってるだけなのかなって思ったけど、今にして思えば、何か隠していたような……」


「風呂か……」


 言われてみれば、大衆浴場へと赴く前日の夜、俺が風呂に入ることを提案した時、シャルロットは少し嫌がる素振りを見せていたように思う。その時は、確かタオルで体を隠すことで納得したように見えた。しかし、タオルで隠せるものなど、体の一部が精々である。


 これ以上考えたところで、いい考えは浮かばないだろう。それよりも、今後どうするかが問題だ。

 シャルロットを連れて行ったのが親戚ではないというのは、あくまでも俺の想像でしかない。それでも、この目でシャルロットの様子を確認するまでは、安心しきれないのは確かである。

 どうにかして、この広い王都からシャルロットの事を探し出す必要がある。そのためには、どうすればいいのだろうか。


 俺は自身の知った情報を、もう一度一つ一つ確認する。

 もしも、シャルロットが両親を殺され人攫いに攫われたことと、今回の件が関係としたら、どうだろうか。

 もしも、魔物の囮にしたはずのシャルロットが生きていることを、王都に逃れた人攫いが知ったとすれば、どうだろうか。

 もしも、人攫いに狙われるだけの理由を持ったシャルロットが、孤児院に預けられたことを人攫いが知ったとしたら、どうだろうか。


 想像に想像を重ねているようにも思うが、どうしても可能性が頭を離れない。

 しかし、俺の考える最悪の事態にシャルロットが巻き込まれているとしたら。

 その場合、動きがあるとすれば、おそらく今夜だ。


「クリス……少し、付き合ってくれるか」


 俺はそう言うと、夕食の最後の一切れを口へと運んだ。

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