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437話 氷龍の少女と黒龍戦6

 目の前の光景に、嫌でも思い出される。

 帝都の外れで、氷龍と初めて対峙した時だ。

 今の黒龍の動作が、あの時の姿と重なる。


『息吹じゃ! 備えよ!』


 頭の中にレイの声が響く。

 やはりあれは、龍の息吹の予備動作らしい。

 黒龍の息吹は、破壊の奔流だ。万が一にも、浴びるわけにはいかない。


 俺は咄嗟に地を蹴り、黒龍の後方へと回り込んだ。後ろ側であれば息吹は届かないし、黒龍が首を回したとしても、反対側へと逃れられる。

 俺は視線を仲間の方へと振った。レイは黒龍の息吹であっても耐えられると言っていたので、問題はないだろう。その後方へ、シャルロットが隠れるのが見えた。あれなら、氷精の少女に黒龍の息吹が当たることはない。


 問題はクリスティーネだ。

 依然として様子のおかしい半龍の少女は、レイの声が届いているのか、それとも本能的にか、黒龍から少し距離を取り、銀の翼で宙へと浮かぶ。

 そのまま長剣を振るえば、普段よりも大きな光の龍が、黒龍へと向かっていった。


 光龍をその身に受けた黒龍の顔が、レイからクリスティーネへと向かう。どうやら半龍の少女が注意を引いてしまったらしい。


「クリス!」


 空へと向かって声を上げるが、半龍の少女は避ける素振りを見せない。

 そこへ、黒龍の口から闇色の息吹が放たれた。

 それは一直線に半龍の少女へと向かう。


「『大氷拳アイス・グロース・ファウスト』!」


 それと同時、鈴の鳴るような叫びが上がる。

 その声に応えるように、氷の大拳が雪の中より生み出された。

 黒龍の頭の下より生み出されたそれは、龍の大顎を天へと跳ね上げる。

 その衝撃で、黒龍の息吹も空へと向かい、上空の雲を引き裂いた。


 けれど、それで半龍の少女が黒龍の息吹から逃れられたわけではなかった。

 空へと薙ぎ払うように振られた黒龍の息吹は、その途上にあった半龍の少女を呑み込んだのだ。

 一瞬、クリスティーネの姿が闇の中へと消えた。


「クリス!」


 俺はすぐさま少女へ向けて駆けだした。

 中空のクリスティーネは、剣を手放し地上へと向けて落下を始めている。

 先程まで光に包まれていたその体からは、既に輝きが失われていた。

 その代わりとでも言うのか、全身の各所から赤いものが垣間見えた。


 一瞬とは言え、黒龍の息吹を浴びたのだ。無傷で済むはずがない。

 場合によっては――

 背筋を冷たいものが走る。


 滑るように大地を駆けた俺は、あわやクリスティーネが地上に激突する寸前で、半龍の少女の元へと辿り着いた。

 勢いのままに地を蹴り、少女の体へと両腕を伸ばす。

 軽い衝撃と共に両腕にかかる重さに、抗うように力を籠める。


 そうして少女の体を僅かに持ち上げたまま、俺は雪を巻き上げた。

 滑走が止まったところで、俺は即座に身を起こし、クリスティーネの状態を確かめる。

 幸いにも、クリスティーネはしっかりと息をしていた。

 激しく息を乱してはいるが、生きているという事実に、俺は胸を撫で下ろす。


 しかし、外傷は全身に及んでいた。

 その身はずたずたに引き裂かれ、流れる血は止まるところを知らない。

 早急な治療が必要だ。


「レイ! しばらく戻れない!」


『大丈夫じゃ! クリスを助けよ!』


 氷龍へと言葉を投げかければ、力強い声が返った。

 どのみち、今は黒龍をレイとシャルロットに任せる外にない。

 俺は再び、傷だらけのクリスティーネへと向き直る。


「『土壁エルド・ヴァント』!」


 それから治療を始める前にと、俺は黒龍との間に魔術で壁を築き上げた。魔術で作ったとはいえ、単なる岩の壁だ。このくらいなら、黒龍であれば腕の一振りで吹き飛ばせるだろう。

 それでも、無いよりはマシだ。少なくとも、黒龍の視線を遮ることが出来れば、俺達に黒龍の注意が向く可能性は低くなるだろう。


「ジー、ク……私……」


 クリスティーネが掠れた声を上げる。どうやら意識もあるようだ。

 僅かに開かれた金の瞳は、痛みのためか揺れている。

 力なく伸ばされた片手を、俺は壊れものを扱うように取った。


「喋るなよ。すぐに治してやる」


 それから俺は魔力を練り上げ、クリスティーネに治癒術を施した。

 幸いにも、今は強魔水の効力が現れている。普段よりも強い治癒術を使うことで、クリスティーネの傷は瞬く間に癒えていった。これでひとまず、失血死するようなことはないだろう。


 傷が治ったとはいえ、それで戦線復帰が出来るわけではない。治癒術では、失った血も体力も、戻るわけではないのだ。

 クリスティーネの命の危機は去ったが、予断を許さない状況である。戦いに巻き込まれては今度こそ助からないため、安全な場所まで動かした方が良い。ここでは、いくら何でも黒龍に近すぎる。


 クリスティーネを抱え上げ、岩壁から顔を出して黒龍の様子を窺う。先程までに与えた傷が効いているのだろう、シャルロットの援護を受けたレイは若干、黒龍を押しているように見えた。移動するならば今のうちだ。

 俺は黒龍に背を向け、クリスティーネを抱えたまま戦場から遠ざかる。途中、落としていた荷物を回収し、周囲の安全を確認すると、物陰に半龍の少女を下ろした。


 出来るだけ早く戦場に戻りたいところだが、今のクリスティーネを雪の降りしきる寒さの中、身一つで放り出すことは出来ない。

 俺は土の魔術で長椅子のような岩を生み出し、その上に毛布を厚く敷いた。そうして毛布に血が付くのも厭わずに、クリスティーネの体を毛布でぐるぐる巻きにする。そうした上で、岩の上に敷いた毛布の上に、半龍の少女の体を横たえた。


 出来れば周囲を暖かくしたいのだが、焚火をするには時間が掛かり過ぎる。暖房の魔術具があればよかったのだが、あれはレイの洞窟に置いてきたのだ。こんなことになるなら、持ってくるべきだった。

 せめて風雪からは護れるよう、空気の通り道を除いてクリスティーネの周囲を魔術の岩で取り囲む。これなら、何もないよりは少しは暖かいだろう。魔物に襲われても安心だ。


「クリス、すぐに終わらせて戻ってくる。それまで待っていてくれ」


 岩壁にあけた穴から中へと声を掛ければ、表情を青褪めさせたクリスティーネが、弱々しい笑みを浮かべた。


「うん……ごめんね、ジーク」


「謝らなくていい、クリスはよくやってくれた。また後でな」


 そうして俺はクリスティーネ一人をその場に残し、戦場へと戻っていった。

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