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436話 氷龍の少女と黒龍戦5

 龍圧の影響を斬り払い、俺は黒龍へと向け駆ける。

 黒龍の放つ龍圧は、氷龍であるレイのそれ以上に圧力を感じさせるものであった。だが、龍圧に対する訓練を続けた成果だろう。俺の体は確かに重圧を感じていながら、ほとんど普段と変わらずに動かすことが出来た。


 前を行くレイが、再び黒龍と組み合う。レイの膂力では、やはり成龍には及ばないようで、じりじりと押されるのが見てわかる。それでも、黒龍の足はその場で止まった。

 足さえ止まれば、例え龍と言えどもいい的だ。むしろ、体が大きいだけにどのように剣を振ったところで簡単に斬りつけることが出来る。


 俺は黒龍の後ろ脚、先程鱗を剥がした箇所へと猛進する。さすがに龍の足を切り落とすのは無理だろうが、あそこを重点的に攻撃すれば、少なくとも走り回ることは出来なくなるだろう。


「――おぉっ!」


 突進の勢いを乗せ、大振りに剣を振るう。俺の剣は狙い違わず、黒龍の肉へと突き立った。

 だが、硬い。

 確かに刃先は龍の肉体へと至っているが、鱗だけでなく肉すら硬いのか、思ったほどには斬れなかった。

 そこで僅かに体勢を変える黒龍に、俺は距離を取った。


 そうして視界の端、俺と同じように龍の足を狙っていたクリスティーネが、腰へと手を伸ばすのが見えた。あそこには、希釈した強魔水を吊るしてあったはずだ。

 俺も、半龍の少女と同じように腰へと手を伸ばす。俺の腰にも、少女と同様の薬が吊り下げられていた。


 これを飲むとしたら、今だろうか。事前に強魔水を服用すると、戦闘中に動けなくなる恐れがあったので、控えていた。だが、少なくとも攻撃が通ることが分かった今、より迅速に黒龍を追い払うためには、薬を飲んだ方が良いだろう。

 原液のまま服用すれば、絶大な効果が得られる代わりに、効力が切れると何もできなくなる。その点、希釈したこれは効果が落ちるものの、少なくとも揃ってぶっ倒れるようなことはないはずだ。


 筒の蓋を外し、一息に薬を飲み干す。そうして筒を投げ捨てるころには、既に体の内から魔力が湧き上がっていた。

 俺は魔力を練り上げる傍から、剣へと注ぎ込む。虹色に輝く剣は、今までで最高の輝きを見せていた。今なら何だって切れそうだ。


 剣を構え、再び黒龍へ向かおうと一歩踏み出した俺の耳に――


「あぁぁぁぁぁっ!」


 ――半龍の少女の悲鳴が聞こえた。


 躓きかけた体勢を立て直し、俺はすぐにクリスティーネへと目線を振った。今の悲鳴は只事ではない。

 黒龍の攻撃を浴びたのかと思ったが、クリスティーネは龍から少し離れた場所、そこから動いてはいなかった。少なくとも、黒龍の動きは依然としてレイが抑えてくれている。

 では、どうしたというのか。


「……クリス?」


 クリスティーネの姿は、全身がほんのりと光って見えた。訓練中にも何度か目にした、『光龍鱗』を使用した際の姿だ。だが、依然見かけた姿と、今の姿は少し異なって見える。

 訓練の際に見たのは、両手足と体の一部に、光の鱗を纏った姿だ。だが今は、顔も含めた頭の先から尻尾に至るまで全身を、光の鱗にびっしりと覆われている。複層に覆われたその姿は、普段よりも若干膨らんで見えた。


 そんな姿で、クリスティーネは苦しむように両の腕で己の体を抱いている。もしや、強魔水が体に合わなかったのだろうか。

 一瞬、判断に迷った俺は、クリスティーネの元に駆け付けることにした。幸いにも、黒龍の注意はクリスティーネに向いていないようだが、何時矛先がそちらに向くとも限らない。


 そうなる前に、今のクリスティーネの状態を把握しておいた方がいい。場合によっては、戦場から遠ざける必要があるだろう。

 ただ、クリスティーネの位置は、俺から黒龍を挟んで反対側だ。回り込んでいくには時間がかかるが、かと言って黒龍の眼前を横切るのは危険だ。


「レイ、背中借りるぞ!」


『よかろう!』


 走りながら声を掛ければ、短く答えが返った。レイの方も、あまり余裕はなさそうだ。

 大きく跳躍し、一度氷龍の背に降り立つ。そこからもう一度跳び、クリスティーネの傍へと降り立った。


「クリス――」


 声を掛けながら走り寄る俺だが、その体に触れるより先に、半龍の少女が動きを見せた。


「がぁぁぁぁぁっ!」


 クリスティーネが龍のような咆哮を上げる。それと同時、俺を取り巻く大気がびりびりと震えた。その圧力に、思わず俺の足が止まる。


「これは、龍圧?!」


 今のは、紛れもなく龍圧だった。クリスティーネにここまでの龍圧は使えなかったはずだが。

 どういうことだ、と思考を整理するより先に、クリスティーネが次なる動きを見せる。

 半龍の少女は身を屈めると、矢のような速度で黒龍へと向かって駆け出した。その金色の瞳は、俺の姿を映していない。


 銀の軌跡を描いた少女は、その速度を微塵も緩めることなく黒龍に向けて跳び上がる。

 中空で翼を動かし速度を上乗せした少女は、上段に構えた長剣を大きく振り下ろした。

 衝突と同時、轟音が鳴り響く。


 一体どれほどの衝撃なのか、黒龍の巨体が大きく揺らいだ。

 その隙を突き、レイの爪が振るわれる。

 揺らいだところを狙われた黒龍は、体を戻せず横倒しに倒れ、雪を巻き上げた。


 倒れた黒龍へと、半龍の少女が躍りかかる。

 少女が剣を振るう度、黒龍の闇色の鱗が、汚泥のような鮮血が、周囲へと飛び散る。

 欠片の容赦もないその姿は、まさしく小さな龍だった。


 今のクリスティーネは、どう見ても普通ではない。

 どう考えても止めるべきなのだが、かと言って今のクリスティーネには、容易に近づけそうにもない。不用意に近づけば、他ならぬ彼女の手で傷を負う恐れがあるのだ。


 それに、これは好機でもある。

 今のクリスティーネの膂力は、俺を凌いでかなりのものだ。彼女がレイと協力すれば、黒龍に有効打を加えることも可能だろう。

 クリスティーネが正気を保っているのかかなり怪しいものの、今を逃す手はない。黒龍を早めに追い払ってから、改めてクリスティーネの状態を確認することとしよう。


 立ち上がった黒龍に対し、クリスティーネがレイと共に対峙する。

 二人だけに任せるわけにはいかない。

 再び剣を構えた俺は、黒龍へと疾駆する。


 両腕を振り上げた黒龍が、クリスティーネとレイ目掛けて同時に腕を振り下ろす。

 レイがその片腕を受け止め、クリスティーネは剣の一振りでもう片方を弾き返した。

 黒龍の胴体が空いたところへレイが爪を振るえば、龍は先程の繰り返しのように横向きに地へと倒れ伏した。


 好機とばかりに、俺は黒龍の後ろ脚へと追撃を加える。

 後方から飛来した氷弾はシャルロットのものだ。

 重量のある氷の塊が、剥き出しとなった黒龍の腹を強打する。


 そこから先の戦闘を、俺達は優勢に進めていった。

 黒龍の攻撃をレイが受け止め、クリスティーネが体勢を崩す。そこに俺とシャルロットが追撃をかけることで、着実に黒龍の体に傷が増えていった。


 このままいけば、追い払うだけでなく仕留めることもできるのではないだろうか。

 そんな思いが頭を掠めた時だった。


 レイから少し距離を取った黒龍が、大きく息を吸い込んだ。

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