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433話 氷龍の少女と黒龍戦2

 空の旅と言うのも、存外悪くないものである。そんな風に考えたのは、レイの背に乗って空を飛んでしばらくのことだった。

 氷龍の首元に跨っての飛行は、想像以上に安定していた。難点と言えば、少々尻が痛くなることくらいだろう。


 もちろん、俺達が氷龍の背に乗れているのは、レイが配慮してくれているというのが多分にあるのだろう。

 龍の飛行は、翼の一振りで山を越えるという。もしもレイが本気を出せば、俺達はあっという間に振り落とされてしまう。


 もちろん飛行速度は速く、俺が地上を全力で走るよりもずっと上だ。けれど、風の魔術を併用してくれているおかげで、俺達は精々微風を感じながら、悠然と眼下を見下ろせるのだった。

 地上からの高さはかなりのもので、時折姿を見せる魔物も豆粒のように見える。慣れれば景色を楽しむ余裕も出るが、シャルロットなどは俺の腕の中で、すっかりと体を固めてしまっていた。


『そろそろじゃ!』


 頭の中にレイの声が響く。どうやら目的地に近づいたようだ。

 俺が少し身を乗り出せば、背後のクリスティーネ少し体をずらし、顔を覗かせた。

 地上の森は途切れ、今は岩肌ばかりが覗いている。そんな中、遠くの方に黒い点が見えた。その黒い点が、どんどんと大きくなっていく。


 そうしてある程度の距離まで近づいたところで、その姿が確認できた。

 黒い龍だ。

 本で見た通りの、黒龍の姿がそこにはあった。


 黒龍はどうやら食事をしていたようで、龍の前には白い大蛇、シュトゥルムスネイクの姿があった。本来であれば雪に融け込んでいたであろう大蛇の姿は、全身を赤く染めておりはっきりと視認が出来た。

 レイが少しずつ速度を緩めながら、徐々に高度を下げていく。


 このまま体当たりを敢行しようものなら、レイに乗っている俺達の身が危険だ。黒龍を発見できたのなら、そこから少し離れた場所へ降り立つ手筈である。

 大蛇の腹に鼻先を埋めていた黒龍が、不意に動きを止める。そうして鎌首を持ち上げ、はっきりとこちらに顔を向けた。どうやら近付く俺達に気が付いたらしい。


 俺達は未だレイの上、地上まではもう少し距離がある。この状態で飛び掛かられると、逃げ場がない。俺は思わず、シャルロットを抱きしめる手に力を込めた。

 だが、幸いにも黒龍はそれ以上の動きを見せなかった。黒龍は警戒しているのか、それともただ様子を見ているだけなのか、金の瞳をこちらへと注いでいる。


 そうして軽い振動と共に、レイが雪原へと降り立つ。すぐさま俺はシャルロットを抱え、レイから飛び降りた。いつ黒龍が気を変え、襲い掛かってくるかわからない。

 軽い浮遊感と共にシャルロットを抱き抱えたまま、身体強化した体で地面へと着地する。この程度の高さであれば、何と言う事はない。そうしてシャルロットを下ろす俺の隣へ、翼をはためかせてクリスティーネが立ち並んだ。


 すぐさま剣を抜き放ち、黒龍へと向かい合う。そうして、改めてその姿を視界に収めた。

 想像以上の存在感だ。体躯はレイよりも二回りほど大きいだろうか。

 全身を隙間なく黒い鱗に覆われたその姿は、白い雪原の中で大いに目立つ。少なくとも、雪に姿を紛らせ動きを見誤るような心配はないだろう。


「うわぁ、大きいね、ジーク?」


「とっても強そうです……」


「そうだな……レイ、本当に行けるんだな?」


 俺は正面の黒龍に顔を向けたまま、目線だけを傍らの氷龍へと向けた。

 今回の作戦の要は、何と言ってもレイだ。レイが黒龍をどれだけ抑えられるかによって、俺達が出来ることも大きく変わってくる。


 もしもレイが大きく押されるようなことがあれば、早々に撤退の判断を下すべきだろう。レイが倒されるようなことになれば、全滅は必至なのだ。

 俺達が魔術で目くらましや煙幕を使用すれば、逃走くらいは何とかなるはずだ。


 目の前の黒龍はまだ子龍のレイと違い、間違いなく成龍なのだろう。以前にレイが単独で挑んで敗北したように、一対一で戦えばレイが敗北する可能性が高い。


『任せるのじゃ! お前さん達との訓練で、我も力をつけたからな!』


 戦闘訓練を積んだのは、何も俺達だけではない。俺達の相手をしたレイもまた、力を付けているのだ。

 野生の魔物が、常日頃から訓練をしているわけがない。もちろん、独り立ちするまでに狩りの仕方なんかは親から教わることだろうが、純粋な戦闘訓練なんかはやらないはずだ。


 それを思えば、レイが俺達と模擬戦闘を行ったのは、レイ自身にもよい経験になったことだろう。惜しむらくは対龍ではなく対人であったことだが、体の効率的な動かし方なんかは試せたはずだ。

 それを思えば、前回よりは食い下がることが出来るだろう。


「とにかく、一当てしてみるか。クリス、シャル、気を付けろよ」


「うん、大丈夫!」


「頑張ります!」


 二人とも、黒龍を前にしても気後れしていないようだ。氷龍を相手に何日も訓練を繰り返した成果だろう。以前の俺だったら、龍に立ち向かうなど考えもしなかっただろうからな。

 剣を手に、出方を窺う俺達の方へと、黒龍が体ごと向き直る。どうやら俺達を、というかレイを獲物と見定めたらしい。たった今大蛇を食らったところだし、腹は満たされているはずだ。純粋な外敵だと受け取ったのだろう。


 そうして黒龍は体勢を低くしたかと思えば、大きく咆哮を上げる。龍圧を伴っていないあたり、ただの威嚇のようだ。

 その怒号が途切れると同時、黒龍は風雪を舞い上げながら俺達の方へと駆け出した。

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