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43話 いなくなった少女1

「ねぇジーク、シャルちゃんに会いに行こうよ!」


 フォレストスネイクを討伐した翌日の夕食の席で、クリスティーネがそう口にした。今日もオークを討伐し、それなりの稼ぎを得ることが出来た。前日のフォレストスネイクの売却額で懐には余裕があるし、一日休むくらいは何の問題もない。

 俺としても、シャルロットの様子は気にかかっているところだった。明日で、シャルロットを孤児院に預けて三日目である。あの少々引っ込み思案な少女は、少しは孤児院に慣れた頃だろうか。

 さすがに連日行くのはどうなのかと思っていたが、シャルロットはまだ預けたばかりであるし、一日開けた明日に様子を見に行くのはいいだろう。俺はそう判断し、クリスティーネへと首肯を返した。


「そうだな、様子も気になるし、会いに行ってみるか」


「うん!」


 そうして迎えた翌日、午前中を買い出しなどに費やした俺達は、昼食後に教会へと訪れていた。前回教えられた通り、教会の正面からではなく、孤児院へと続く教会裏へと回る。門を開けて中庭へと足を踏み入れれば、思い思いの遊びに興じる子供達の姿があった。

 俺はシャルロットの姿を探す。ほとんどの子供の髪色は黒か茶色なので、あの透明感のある水色の髪はさぞ目立つことだろう。すぐに見つかるだろうと思っていたのだが、俺の予想に反して子供達の中からシャルロットを見つけ出すことはできなかった。


 俺は首を捻りつつ、次の行動を考える。孤児院内を闇雲に探し回るよりは、居場所を知っていそうな人物に聞く方が早いだろう。俺は中庭の隅にあるベンチに座っているマルタの姿を認めると、そちらへと足を進めた。


「あら、お二人とも、こんにちは」


 近付く俺達に気付いたマルタが、おっとりとした笑顔を向けて挨拶をくれる。俺は軽く頭を下げながら答えた。


「あぁ、すまないが、シャルロットに会わせてもらえるか? 様子を見に来たんだ」


 俺がそう告げると、マルタは片手を頬へと当てて困ったような笑みを浮かべる。


「あらあら、そうでしたか……困りましたね」


「何かあったの?」


 マルタの反応に、隣のクリスティーネが小首を傾げる。俺としても、予想外の反応である。

 シャルロットを預けた時の反応から、簡単に会えないというわけではないだろう。だというのに、このマルタの反応では都合がつかないといった様子である。もしや、体調でも崩したのだろうか。

 俺がそうした疑問を思い浮かべていると、相変わらずの困り顔でマルタが言葉を続ける。


「いえ、それが、シャルロットさんはもう孤児院にはいないんですよ」


「いない?」


 一体どういう事だろうか。まだ、シャルロットを孤児院に預けてたったの三日目である。この短期間で、何があったというのか。

 俺が疑問を吐き出す前に、マルタはその答えを口にする。


「今朝方、シャルロットさんの親戚の方が孤児院にいらっしゃいまして。シャルロットさんを引き取って行かれたところです」


「シャルロットの……親戚?」


 告げられた言葉に、俺は首を捻るしかない。

 シャルロットから聞いたのは、人攫いに殺されたという両親の話だけで、他にも親戚がいるという話は聞いたことがない。シャルロットの性格からして、王都に親戚がいるのであれば俺達に話してくれているはずである。

 もちろん、俺達にすべてを話してくれなかった可能性も考えられるが、王都に親戚がいるのであれば孤児院に入ることを選択するだろうか。いや、まずはその親戚とやらを頼りにするのが道理だろう。


「シャルちゃん、そんなこと言ってなかったよね?」


「あぁ……」


 クリスティーネも疑問に思っているようで、俺達は小声で言葉を交わす。

 そんな俺達の様子には気づかないようで、マルタは話を続けている。


「孤児院で育てることもできますが、家族で過ごせるのであればそれが一番ですからね」


「それは、そうだろうが……すまない、もう少し詳しく話してもらえるか?」


 何か引っかかるものを感じる。それが具体的に何なのかはわからないが、このまま放っておいては大変なことになるのではないか。そんな予感を払拭するためにも、俺はマルタへと事の詳細を尋ねた。

 しかし、対するマルタは先程のように困ったような笑みを浮かべて見せる。


「すみません、実際に対応したのはフォルカー司教ですので……よろしければ、お取り次ぎ致しましょうか?」


「そう、だな……頼む」


 俺はマルタの提案に了承を返す。少なくとも、このまま手ぶらで帰るわけにはいかない。一目だけでも良いので、シャルロットの様子を確かめておく必要があるだろう。


 その後、俺達はマルタの案内でフォルカー司教の元を訪ねていた。二日前と同じように、テーブルを挟んだソファーにクリスティーネと共に腰掛け、フォルカー司教と向かい合っている。

 フォルカー司教は茶を手に取り一口飲むと、正面から俺達へと見据えた。


「それで、お話があるという事でしたが……」


「あぁ、シャルロットについて、教えてもらえるか?」


「そのことでしたか」


 俺が訪ねれば、フォルカー司教は何やら納得したような表情を浮かべる。


「マルタから話は聞きましたか?」


「あぁ、シャルロットの親戚が訪ねてきたと聞いたが……」


「えぇ、その通りです。午前中にシャルロットさんの親戚の方がいらっしゃいまして、引き取って行かれましたよ」


 そこまでは、マルタから聞いた話と変わりはない。少なくとも、ここまでは特におかしなことではないように思える。俺が聞きたいのは、もう少し詳しい話だ。

 俺はソファーから少し前のめりになる。


「その時の、詳しい話を聞かせてもらえるか?」


「詳しい話ですか? 例えば、どのようなことでしょうか?」


「そうだな……訪ねてきたのは、どんな人だった?」


「いらっしゃったのは、男性が二人ですね。二人とも、歳は若かったでしょうか」


「その時の、シャルロットの様子はどうだった?」


「さて、どうだったでしょうか……すみません、あまり覚えていませんね」


 それからもいくつかの質問を投げかけたが、あまり有力な情報は得られなかった。得られたのは、王都のどこかに住んでいるというシャルロットの親戚に、シャルロットが引き取られたということだけだ。

 そうして、俺は胸に何か引っかかるものを残して、教会を後にするのだった。

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