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426話 氷龍の少女と対龍訓練3

 レイと共に黒龍と戦うための訓練を始めて、五日が経過した。ここのところは、午前中を龍圧の訓練に、午後を実戦訓練に当てている。

 龍圧の訓練は、順調と言うほどではないが、少しコツを掴んできたところだ。魔力を集めて放つという感覚も、わかってきたような気がする。


 訓練の一環として、クリスティーネとシャルロットと共に、互いへ龍圧を放ってみたこともある。すると、初日は何も感じなかったが、最近は若干の圧力のようなものを感じることが分かった。

 もっとも、本物の龍圧とは重さがまるで異なるのだが。それでも、体感できることが分かったために、より訓練に身が入るようになった。


 だが、レイの放つ龍圧にはまだまだ抵抗が出来ていない。そもそも、俺達が龍圧を放つために魔力を練り上げるのが遅いのだ。

 レイの龍圧を浴びて動きが止まり、しばらくしてからようやく準備が出来るところである。それも、指先が僅かに動くくらいなものだ。満足に動けるようになるまでは、もう少し時間が必要だろう。


 龍圧の訓練と比較すれば、実戦訓練は順調だと言える。それもそのはず、この洞窟の前でレイと初めて戦った際も、龍圧を受けるまではそれなりに動けていたのだ。今はレイに龍圧を使わないように頼んでいるので、それなりの時間、戦うことが出来ていた。

 だがやはり、龍の鱗による防御力と言うのは厄介である。俺達がどのような攻撃を繰り出したところで、レイに対して有効打を浴びせることは出来ないのだった。


 だが、今日は初めてレイに一太刀を入れることに成功した。

 使用したのは、全属性の剣技だ。隙を見て魔力を練り上げ、虹色の光を宿した俺の剣は、レイの胴体の鱗を貫き、その肉体へとその刀身を届かせていた。


 全属性の剣技であれば通用するというのは、大きな収穫だ。魔力を練り上げるのに時間がかかるので、常に使用が可能とは言わないが、これがあれば黒龍にも傷をつけることが可能だろう。

 ちなみに、レイから剥がした鱗は本人に断り、丁重に回収させてもらっている。俺達は、これを手に入れるためにここまで来たのだからな。このまま訓練を続けていれば、その間に必要な量が集まりそうだ。


 そうして今日の訓練を終えた俺達は、まだ夕食までには時間があると、しばらくの休息を挟むのだった。今、クリスティーネとシャルロットの二人は、汗を流そうと風呂へと入っているところである。

 氷龍であるレイは寒さに強いため、入浴の必要はない。だが、レイはどうやら湯に浸かるということが大層気に入ったようで、いつも二人と一緒に風呂へと入っていた。ちなみに俺も一緒に入ろうと誘われたのだが、丁重にお断りしておいた。


 さて、そんなレイがなぜ二人と一緒に風呂へと入っていないのかと言うと、訓練で負った傷を治癒術で治すためである。どうやら氷龍の姿で受けた傷は、人へと姿を変えても残るらしく、その柔らかそうな脇腹には少々の切り傷が残されていた。

 傷の深さとしてはそれほど大したことはないのだが、レイは痛い痛いと主張するのだった。氷龍に点滴などいないので、あまり傷を負うようなことがないのだろう。


「ほら、治ったぞ」


 そう言って治癒術を止め、少女の脇腹を軽く撫でる。傷跡も残さず治った肌は、少女らしい瑞々しさである。何度見ても、これが魔術による変化とは思えない。

 余談だが、治療には普段よりも少々時間がかかっていた。いつもであればこの程度の傷なら一瞬で治るのだが、どうやら俺達の使う治癒術と言うのは、龍には少し利き辛いらしい。道理で、初めてレイと会った際の大怪我が、なかなか治らなかったわけである。


「うむ、ご苦労! これで湯に浸かれるというものじゃ!」


 レイは元気よく声を上げ、その場にすっくと立ちあがって見せる。これから風呂へと入るのだろう。


「それはいいが、服を消すのは風呂場に行ってからにしてくれよ?」


 俺は溜息を吐きながら言葉を漏らす。

 今のレイの服と言うのは、厳密に言えば服ではない。レイが人の姿を取る時に、魔術で生み出したものである。

 どうやらそれも、母親である氷龍から教わった技だそうだ。まぁ、服を着ていなければ、町中なんて歩けないからな。


 だが、だからと言って風呂に入るのに、服を着たままと言うのもどうかと思う。そこで、俺はレイに風呂に入るときは裸になるものだ、と教え込んだ。

 それが初日のことだったのだが、レイは「こうか?」と言うと同時、指を鳴らして見せた。するとレイの体が光ると同時、服が消え去り裸となったのだ。


 その時は、クリスティーネの手で瞬時に顔を覆われたものである。それでなくてもすぐに顔を逸らすつもりだったのだが、突然のことに少し反応が遅れてしまった。


「わかっておるわ。まったく、人と言うのは面倒なことを気にするのう」


 俺の言葉に、レイは呆れたように言葉を返した。この辺りの感覚の違いは、やはり氷龍だということだろうか。

 それから風呂場の方へと一歩踏み出したレイは、何かを思い出したようにふと足を止めた。それから、俺の方へと体ごと振り返る。


「しかし、ジークよ」


 近頃になって、レイは俺の事をジーク、クリスティーネの事をクリス、シャルロットの事をシャルと呼ぶようになった。それくらい、打ち解けたと言う事だろう。

 少女は言葉を続ける。


「この分じゃと、黒龍に挑む前に我の鱗が集まりそうじゃの」


 そう言って、手で傍にある台の上を指し示した。そこには、今日レイから切り離した氷龍の鱗が置かれている。

 これからも訓練を続けていけば、レイの鱗はどんどん集まっていくだろう。もちろんあればあるだけ良いのだが、黒龍を追い払う準備が整う頃には、両手いっぱいくらいにはなりそうだった、


「安心しろよ、レイ。必要な量が集まっても、ちゃんと協力してやるから」


 俺達の事情だけを考えるのであれば、必要な量の鱗が集まれば、わざわざ黒龍に挑む必要もない。フィリーネを助けるためにも、すぐに帰った方が良いだろう。

 だが、それではレイに対して不義理だ。ここまで協力してくれているレイに対して、そのような仕打ちは出来ないし、一人で黒龍に挑ませて死なせたくもない。


 そう言った俺の内心を、レイもわかってくれているのだろう。

 氷龍の少女は笑顔を浮かべ、俺に頷きを見せた。


「もちろんじゃ、信じておるとも……感謝するぞ」


 最後に小声で付け足すと、少女は今度こそ風呂場へと足を向けた。

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