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42話 フォレストスネイク討伐3

 フォレストスネイクに撥ね飛ばされた俺はそのまま中空を舞い、地面に叩き付けられその反動で数回跳ねる。俺は上下の判断がつかず、さらに勢いのままに地を転がった。そうしてようやく、自然と止まるのだった。

 俺は地面に仰向けに倒れながら、深く息を吐いた。フォレストスネイクにまともに衝突した両腕は折れているのか灼けているような熱さを感じるし、打ち付けた背中もじんじんと痛むが、それでも何とか生きている。その事実に、内心では心底安堵していた。


「ジーク!」


 空を飛んでいたクリスティーネが、勢いよく俺の傍へと着地する。その際に起こされた風が、俺の頬を撫でていった。その表情には、はっきりと焦りの色が見て取れる。


「だ、大丈夫?!」


「あぁ、大丈夫……じゃないな。腕は折れてるだろうし、体のあちこちが痛くてたまらん」


「待ってて、すぐに治すから!」


 そう言って、クリスティーネが治癒術を行使してくれる。クリスティーネの魔術は存分にその効力を発揮し、たちまち俺の体は元の調子を取り戻した。

 腕の痛みが引いた俺は、両腕で体を支えて上体を持ち上げる。そうして、隣に膝立ちになるクリスティーネへと向き直った。


「ありがとな、クリス。お陰で助かったよ」


「ジーク、あんまり無茶、しないでね」


 クリスティーネが眉尻を下げた顔でそう告げる。確かに、自分自身でも無茶をしたものだと思う。

 そもそも、フォレストスネイクに挑んだのが間違いだったのだ。もっと事前に情報を収集するなり、最低でも遠目で見た瞬間に討伐を諦めるべきだった。

 中級魔術が使えるようになったため、フォレストスネイクも倒せるかと思ったのだが、少し見通しが甘かったようだ。冒険者として活動する以上、もう少し慎重になるべきだな。


「悪かったよ、他にいい方法が思いつかなくてな」


「もう、心配したんだから……でも、倒せて良かったね」


 そう言って、クリスティーネが後ろを振り向く。その視線の先では、頭から血を流したフォレストスネイクが地面に横倒しになっていた。やはり、口内に打ち込んだ中級魔術が致命傷となったようだ。

 俺は立ち上がると、地に倒れ伏したフォレストスネイクへと近寄った。改めて見ても、その大きさに圧倒される魔物である。改めて至近で目にすると、良く倒せたものだと思う。一歩間違えれば、命を落としていてもおかしくはなかった状況だった。


 それから、俺とクリスティーネは二人掛かりでフォレストスネイクの解体を行った。解体には非常に時間を要し、持ち帰る分を剥ぎ取るだけでも、終わったのは夕暮れ前だった。

 フォレストスネイクの肉も皮もいい値段で売れるのだが、結局はその大半をこの場に残して帰ることになった。いくら俺達にマジックバックがあると言っても、量が尋常ではない。とてもではないが、すべては持ち帰れなかったのだ。

 魔石の剥ぎ取りにも苦労した。魔石が埋まっている正確な場所がわからなかったため、適当に当たりを付けて、鱗の隙間を縫って剣を突き立てるのだ。三度目の試行で当たりを引けたのは僥倖だったと言えるだろう。取り出した魔石は俺の拳よりも大きいという、今までに見たことないほどの大きさだった。


 必要な素材を手に、俺達は王都への帰路へと就く。残ったフォレストスネイクの死骸は、その場に放置だ。さすがに、すべてを埋めるには時間がかかりすぎる。後は森にすむ動物が処理してくれることだろう。

 王都に戻ってきたときには心身ともに疲れ果てていたが、俺達はその足で冒険者ギルドへと向かった。マジックバックが一杯なので、早めに素材の売却をする必要があったのだ。


「依頼の達成と、素材の買取を頼む」


 冒険者ギルドのカウンターに向かうと、俺は受付の女性へと、俺とクリスティーネの冒険者ライセンス、それにオーク肉の納品依頼票を差し出した。さらに、二人の背負い袋からオークの肉と魔石を取り出してカウンターに乗せる。


「はい、オークの肉と魔石ですね」


「それから、フォレストスネイクの肉と皮、それに魔石だ」


 俺は続けてフォレストスネイクの魔石と、肉と皮の一部を取り出す。フォレストスネイクの素材は多すぎて、すべてはカウンターに乗り切らない。


「はい、確認させていただきます……確かに、フォレストスネイクの魔石ですね。えぇと……お二人の冒険者ランクはDランクとEランクですか。良く倒せましたね」


 受付の女性が、驚いた様子で口にした。俺はそれに対して苦笑を返す。


「正直、運が良かったのもあるな。しばらくフォレストスネイクは見たくもない」


「ですが、フォレストスネイクを安定して狩れるようになれば、冒険者ランクをCランクに上げられますよ?」


「いいや、今回のことでまだ実力不足だってことが、よくわかったよ」


 なにせ、相打ち覚悟の中級魔術でやっと倒せたのだ。身体強化した身であれば最悪でも死にはしないだろうと計算していたものの、治癒魔術はが必要な重傷を負ったのは事実である。

 初級剣技では歯が立たず、中級魔術でも決定打にはならなかった。少なくとも、中級剣技を習得するまでは、再戦したくない魔物である。中級剣技であれば、あの巨体にも通用するはずだ。

 俺の言葉に、受付の女性は笑みを見せる。


「そうですか。自分の実力を客観視できる冒険者は大成しますよ。ひとまず、クリスティーネさんの冒険者ランクはDランクに上げますから」


「本当?! やった、ジークと一緒だ!」


 クリスティーネが無邪気に喜ぶ。ついにクリスティーネに追いつかれてしまったが、一緒に行動する以上は時間の問題だっただろう。クリスティーネは俺と一緒に安定してオークを狩れているため、Dランク相当の実力は間違いなくあるし、妥当な判断だろう。

 それから、俺達は少し時間を掛けながらも、今日の冒険で得たすべての素材を売却することが出来た。マジックバックに一杯のフォレストスネイクの肉と皮、それに魔石を売却したことで、かなりの金銭を得ることが出来た。


 労力に見合うだけの見返りはあったものの、リスクを考えるとフォレストスネイク狩りは当分見送った方が良いだろう。もし次があったら、腕の一本くらいは覚悟する必要がありそうだ。

 そうして、この日は大いに苦労したものの、結果だけを見れば大成功に終わったのだった。

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