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417話 氷龍との邂逅1

 あまりにも予想外の出来事に、俺の思考は停止した。

 レイはどこへ行ったのか。

 目の前の氷龍は、いつの間に現れたのか。


 逃げるべきか、それとも戦うべきか、咄嗟のことに判断が出来ない。

 俺はただ呆然と、眼前に佇む氷龍の様子を眺めていた。


「ジーク!」


 背後から呼ばれた名に、俺は我に返る。何にしろ、このままじっとしているわけにはいかない。とは言え、どう行動するのが正解なのか。

 氷龍から感じる迫力に、俺は思わず一歩下がった。そこへ、柔らかな感触が振れる。


「ジークさん……」


 か細い声に目を向ければ、怯えた様子のシャルロットと目が合った。初めて龍と相対したのだ、恐怖を抱くのも当然である。

 俺はと言うと、もちろん恐ろしいとは感じているのだが、帝都の外れで一度遭遇したために、あの時ほどの衝撃はない。氷龍の大きさが、以前よりも小さいというのも要因の一つだろう。


 俺は縋り付くシャルロットへと片手を回し、抱き留めた。

 しかし、考えようによっては好機かもしれない。探していた氷龍が、目の前に現れたのだ。

 ここで氷龍の鱗を手に入れることが出来れば、フィリーネを救うことが出来る。そう考えれば、自然と体に力が入った。


「シャル、離れていろよ。行くぞ、クリス!」


 当初の予定では気付かれないうちに魔術で奇襲をかける手はずだったが、こうして目の前に現れた以上は仕方がない。まずは魔術で牽制しながら様子見をして、隙を見て剣による攻撃を試みよう。


「ジーク、でも……」


 俺の声掛けに、戸惑った様子の声が返る。クリスティーネは未だ、目の前に現れた氷龍の存在に順応できていないのだろう。

 けれど、氷龍は俺達の準備を待ってはくれない。


 その場で大きく咆哮を上げると、俺達へと襲い掛かってきた。

 見た目の速度はそれほどでもないように見えるが、それは龍の巨体から受ける心象に過ぎない。

 彼我の距離は一瞬で縮まり、大きく振り上げた尖爪が空を切り裂き俺達へと迫る。


「シャル、すまん!」


「きゃっ!」


 俺は咄嗟に、シャルロットを後方へと投げ飛ばす。シャルロットを抱えていては、龍の攻撃を躱し続けるのは不可能だ。幸いにも足元には雪が積もっているので、衝撃もそこまでではないだろう。

 そうしてシャルロットを逃がしながら、自身は龍の左手側、振るわれた腕の方へと飛び退く。


 このまま何の手立ても打たなければ、龍の注意がシャルロットへと向いてしまう。そうなれば、小柄な少女などひとたまりもない。

 故に、俺は片手で剣を抜き放ちつつ、開いた手を振るって魔術を行使した。


 放つのは顔程の大きさになる炎の弾丸だ。

 なにせ相手は氷龍だ。書籍には書かれていなかったが、炎に弱いに違いない。

 俺の放った炎弾は一直線に氷龍の頭部へと飛翔し、その大きな口元に着弾した。


 衝突と同時、一瞬炎が大きく燃え上がる。それと同時、白い煙が立ち昇った。

 だが、一陣の風によって煙が晴れた後には、微塵の傷も残ってはいなかった。

 それでも、氷龍の注意は引けたようだ。大きな金色の瞳が、俺の姿を映し出す。


 その瞳に映った俺の姿が、急速に大きくなっていく。魔術を放つと同時に駆けだした俺は、身体強化を強めた身で地を蹴り、氷龍の首の高さまで跳躍を行ったのだ。

 そのまま大きく剣を振り被り、両腕へと魔力を集める。


「『紅蓮剣』!」


 掛け声と同時、鍔から溢れ出した灼炎が刀身を包み込み轟々と燃え上がる。術者である俺自身、熱を感じるほどの炎だ。

 夕焼け色の軌跡を描きながら、剣を上段より振り下ろす。

 対して、氷龍は首を僅かに動かした。


 俺の剣が、龍の目と鼻の中間あたりを激しく打ち付けた。

 身体強化を十全に乗せた膂力に、落下の勢いも載せた一撃だ。並の魔物が相手であれば、一刀の元に切り伏せていただろう。


 だが、受けた氷龍は僅かに首を落とすに止まった。剣は鱗に阻まれ肉すら断てず、撫でる炎は焦げ跡すらも残さない。

 そのまま氷龍が首を上へと跳ね上げれば、俺の体は軽々と中空へと弾き飛ばされた。


 剣を片手に、くるくると後方に回る俺は、中空で体勢を整え足から着地する。

 そこへ、氷龍が頭から飛び込んできた。口を開いていないところを見るに、俺を食おうというわけではないようだ。

 それでも、氷龍の巨体はただそれだけでも脅威だ。まともに受ければ、遥か後方まで吹き飛ばされてしまうだろう。


「くっ、『光のリヒト・シルト』!」


「ジーク! 『光のリヒト・シルト』!」


 俺とクリスティーネ、二枚の盾が中空へと生み出される。片腕ほどの大きさになる光の盾は、氷龍の巨体を斜めに受け止めた。

 氷龍の進行が僅かに逸れると同時、盾の一枚が砕け散る。

 それでも微細な隙を突き、俺は氷龍の巨体を潜り抜けた。


 擦れ違いざま、再び剣に炎を纏わせ横薙ぎに斬り払う。それも、やはり硬い鱗に阻まれ、傷を負わせることは叶わない。


「『連鎖する(ライヒェン=)強き氷の腕アイス・シュタルク・アルマ』!」


 鈴の鳴るような声と共に、四本の氷の腕が天を目掛けて起床する。氷龍を取り囲むように生み出されたそれらは、立ちどころに龍の四肢へと絡みついた。

 動きを止めた氷の龍へと、クリスティーネが飛来する。


「『光龍剣』!」


 銀の半龍は滑るように中空を駆け、氷の巨人の腕を避けて剣を振るう。

 剣から撃ち出された光の龍が氷龍の右腕へと激突し、閃光が迸る。


「――うぁっ!」


 ガツンと言う硬質な音と共に、弾かれたようにクリスティーネが龍から距離を取る。そのままくるりと身を捻り、俺の傍へと降り立った。

 半龍の少女は片手を剣から放すと、ぷらぷらと振って見せる。


「うぅ、かったいなぁ……」


「わかってはいたが……やはり厳しいか」


 俺達の目的は二つ。氷龍の鱗を入手することと、この氷龍をこの場から追い払うことだ。

 氷龍を仕留めるのは、まず不可能だろう。先程の一当てで、改めてわかった。なんとか手傷を負わせ、氷龍が諦めるのを待つ他にない。


 今もまた、氷龍は四肢を拘束している氷の腕を、砂糖菓子のようにいとも簡単に割り砕いている。あれは大型の魔物の動きを、完全に封じるくらいの力はあるのだが。


「仕方ない、もう少し踏み込むか」


 龍と言えど、全身隙間なく硬質な鱗に覆われているわけではない。腕の内側や腹などは、比較的柔らかい皮のはずだ。

 龍との距離を詰めれば、その分危険度は上がるが、それでもいたずらに攻撃を繰り返すよりはマシなはずだ。


「でもジーク、この龍って――」


 クリスティーネが何かを言い掛けるが、そこへ氷龍が追撃をかけて来る。俺はクリスティーネと二手に分かれ、低い体勢で巨椀を躱すと龍の内へと潜り込んだ。

 そのまま三度、剣へと焔を纏わせ掬い上げるように斜めに斬り上げる。


 緋色の線と共に、氷龍の腹が僅かに裂けた。血すら流れない、薄皮一枚と言った程度だ。それなりに高温のはずだが、切り口には焦げ跡すら残らない。

 返す刀で追撃へと踏み込む俺だが、それよりも先に龍が咆哮を上げる。


「『光のリヒト・シルト』!」


 嫌な気配を感じ、咄嗟に魔術を使いながら後方へと飛び退る。その俺を追うように、地面から無数の氷槍が飛び出した。

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