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41話 フォレストスネイク討伐2

 初めて目にするフォレストスネイクの姿に、俺は思わず一歩後ろへと下がっていた。目の前の存在から感じる力は、オークなどとは比較にもならない。

 フォレストスネイクに挑むのは、少し早かったかもしれない。俺は深緑色の巨体を見上げてそう思った。死ぬ気で挑めば何とかなるかもしれないが、そこまでのリスクを冒すことはできない。

 俺が撤退を視野に入れていると、隣で同じように見上げていたクリスティーネが袖を軽く引いてきた。


「ジーク……これ、倒すの?」


「いや、これは避けた方が無難だな」


 小さく掛けられた声にそう返す。挑めばタダでは済みそうにない。ここは大人しく引き下がるべきだろう。

 そう思い、静かに後ろへと下がろうとしたその時だった。フォレストスネイクの大きな黄色の瞳が、俺達の姿を捉えた。

 その瞬間、俺の全身が総毛立った。本能的に、危険が迫っていることを感じる。


「きゃっ!」


 俺は隣に立つクリスティーネを、横方向へと思い切り突き飛ばした。さらに自分は反対側へと飛び退る。その行動が正しかったことを知るのは直後のことだ。

 一瞬前まで俺達がいた場所へと、フォレストスネイクの鎌首が一直線に突っ込んできた。フォレストスネイクはその勢いのままに直進を続け、進路上に生えていた太い木を幾本もなぎ倒していく。バキバキと音を立てて、巨木が根元から折れていった。

 俺はすぐに体勢を立て直す。見つかった以上、戦う他ないだろう。


「はぁっ!」


 フォレストスネイクへと駆け寄り、その無防備な体へと愛用の剣を叩き付けた。ガツンという硬い手応えと共に剣が弾かれる。鱗を多少傷つけたようだが、俺の一撃は肉体まで及んでいないことは明白だった。


「やぁっ!」


 一拍遅れて、反対側からクリスティーネが剣を振るうが、やはりその剣もフォレストスネイクの鱗に弾かれる。ただ剣を振るうだけでは、フォレストスネイクの体を傷つけることすらできそうにない。

 反転してきたフォレストスネイクが、その大口を開けて再び俺の方へと迫る。俺はそれを横っ飛びで躱しながら再度剣を真横に振るうが、先程と同じように弾かれてしまった。

 フォレストスネイクが、その鎌首を大きく持ち上げる。胴体の動きが止まった隙を狙い、俺は大上段から剣を振り下ろす。


「『重撃剣』!」


 ガツンと、先程よりも大きな感触が両腕に返る。俺の剣はフォレストスネイクの鱗を割り砕き、その身へと刀身を沈ませていた。


 しかし、それだけだ。


 俺の剣は確かにフォレストスネイクの肉体に達しているが、その深さは精々剣の刀身分の幅だけである。その身を断ち切るどころか、表層を少し傷つけた程度だろう。初級剣技を使用して、この体たらくである。

 俺は必至で頭を回転させる。最早、剣で太刀打ちできないのは明白だ。そうなると、魔術に頼るしかない。フォレストスネイクに見つかる前に、クリスティーネと共に魔術を叩き込めなかったのが悔やまれる。

 初級魔術が役に立たないのは試さなくてもわかる。何とか中級魔術で攻撃したいのだが、呑気に詠唱をする時間があるだろうか。


「ジーク!」


 クリスティーネの大声に、俺はハッとして顔を上げる。見上げれば、その背の翼で空に浮かんだクリスティーネが、鎌首をもたげたフォレストスネイクの頭を手に持つ剣で攻撃した。その頭も堅牢な鱗に覆われており、有効打にはなっていないようだ。


「私が気を引くから、今のうちに!」


 そう言って、フォレストスネイクの顔の前を俊敏に飛び回る。

 どうやら、囮を買って出てくれているらしい。本来ならそれは男である俺の役目のように思うが、フォレストスネイクを相手にするには立体的に動けるクリスティーネの方が適任だろう。

 それでも、あまり手をこまねいている暇はない。クリスティーネが時間を稼いでいるうちに、中級魔術で倒さなければ。


「『現界に属する光の眷属よ 我がジークハルトの名の元に 槍の如く我が敵を貫け』!」


 至近距離で左手を翳し、やや早口で詠唱する。


「『強き光の槍リヒト・シュタルク・ランツェ』!」


 光の槍が出現し、フォレストスネイクの体に突き立てる。光が消えた跡には、フォレストスネイクの側面に深い傷が残っていた。傷口からは、赤黒い液体が流れ出ている。

 さすがに痛みを感じたのだろう、フォレストスネイクが俺の方を振り返る。しかし、すぐにクリスティーネがその間に割り込み、フォレストスネイクの気を再び引いてくれた。


 初級剣技よりは余程深い傷をつけることには成功したが、致命傷には程遠い。太く長い胴体の一箇所を傷つけただけである。あと、いったいどれだけ中級魔術を放てば、この大きな蛇を倒すことが出来るのだろうか。間違いなく、俺の魔力が尽きるのが先だろう。

 この方法も駄目だ。別の方法を探るべきだと、俺は頭を回転させる。

 そうして、一つの考えが頭に浮かんだ。少し危ない橋を渡ることになるが、おそらくこの方法であればフォレストスネイクを倒すことが出来る。それにはクリスティーネの協力が必要だ。


「クリス!」


 俺は顔を上げて大きく呼びかける。クリスティーネがフォレストスネイクの噛みつきを躱しつつ、こちらを横目で見たのがわかった。


「フォレストスネイクを倒す秘策がある! 合図をしたら、俺の方に誘導してくれ!」


「わかったわ!」


 これで、後は準備をするだけだ。俺は再び、体内の魔力を練り上げる。

 まだまだ魔力には余裕がある。意識を向ければ、左手へとたちまちのうちに魔力が集中した。


「『現界に属する光の眷属よ 我がジークハルトの名の元に 槍の如く我が敵を貫け』!」


 詠唱の完成と同時に、俺は剣を真上へと振り上げる。合図に気付いたクリスティーネがこちらへと飛んできた。

 魔術はまだ放たない。溢れそうになる魔力を必死の思いで抑える。

 クリスティーネの後を追ったフォレストスネイクが俺の方へと這いずってくる。初めはクリスティーネに頭の高さを合わせていたが、俺に気付いた様子で鎌首を下ろして大口を開けた。

 そうして、フォレストスネイクの真っ赤な口が、俺の眼前へと迫った。


「『強き光の槍リヒト・シュタルク・ランツェ』!」


 俺はフォレストスネイクの口内に向け、荒れ狂う魔力を解き放つ。魔力で形成された光の槍は白い線を描きながらフォレストスネイクの上顎へと達し、その頭を刺し貫いた。役目を終えた白い槍は、鮮血を纏いながら中空へと溶けるように消えていく。

 俺はその光景を見て、心の中で拳を握る。鱗に覆われていない、柔らかい体内からの攻撃だ。今のは間違いなく、絶命へと至る一撃だった。


 しかし、フォレストスネイクの勢いは止まらない。俺は回避をすることもできず、両腕で衝撃を和らげることで精一杯だった。

 フォレストスネイクの下顎が、俺の体に衝突する。俺とフォレストスネイクの質量など比べることすら烏滸がましく、俺は成すすべもなく勢いよく後方へと射出された。

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