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408話 行き倒れの半龍少女4

 声に振り向けば、天幕の布を捲ったシャルロットの姿が目に入る。その表情には安堵の色が見えた。

 少女の言葉からするに、先程雪原で拾い上げた、半龍族と思しき少女が起きたのだろう。ひとまず目を覚ましたのであれば、命の危機は去ったと見てもいいだろうか。


 氷精の少女は布を捲ったままの体勢で、ぱちぱちと瞬きをして見せた。


「えっ、と……もしかして、お邪魔、でしたか……?」


 その言葉に、俺はクリスティーネの方へと顔を向けた。

 見れば、半龍の少女は何故か少しだけ不服そうな瞳で、頬を小さく膨らませている。


「別にそんなことはないぞ。単に鳥を捌いてただけだからな。な、クリス?」


 そう声を掛けてみれば、クリスティーネはぱっと表情を変えた。


「う、うん! 何でもないの!」


 そう言って、慌てたように両手を振って見せる。無論、その手には肉の刺さった鉄串を持ったままだ。


 ひとまず、あの少女が目を覚ましたのであれば、様子を見ておいた方が良いだろう。俺がそうクリスティーネに声を掛ければ、少女は頷き手元の肉を口元に含む。

 それから作業を中断した俺は、俺とクリスティーネの手を魔術で生み出した水で洗い流す。渇いた布で拭けば、準備は完了だ。


 そのままシャルロットの後に続き、履き物を脱いで天幕の中へと入る。天幕の中は、暖房の魔術具のおかげで暖かく快適だ。シャルロットが整えてくれたようで、床には布が敷かれており冷たさも感じない。

 そうして、天幕の奥へと寝かせていた少女の元へと歩み寄る。龍の翼と尾を持つ少女は、近寄る俺達に気が付き、横になったままこちらへと顔を向けてきた。


 その瞳は白に近い水色で、髪色と合わせてシャルロットに似ているところがある。

 俺は少女の傍へと腰を下ろした。

 少女は特に怯えた様子を見せず、透き通った瞳で俺の事を見返している。


「気分はどうだ?」


 怯えさせないようにと優しく声を掛ければ、少女は俺とクリスティーネ、それからシャルロットの姿を氷の瞳へ順番に映した。


「……お前さん達は?」


 シャルロットよりも少し低く、それでも少女らしい高さの声が返った。


「俺はジークハルト、冒険者だ。それからこっちがクリスティーネで、こっちがシャルロット。よろしくな」


 笑顔を作って話しかけるが、少女は徐に瞬きを繰り返すばかりで言葉を返さない。

 それから少女は俺から反対側、天幕の外側へと顔を向ける。続いて、天井を見上げた。少女は何事かを考える様子を見せ、それから再び俺の事を正面から見返した。


「……ここは?」


「私達の持ってる天幕の中だよ!」


「君が怪我をして倒れているところを見つけてな。勝手に運ばせてもらったよ」


「怪我……」


 俺とクリスティーネの言葉を受け、少女は横になったまま、天井へと片手を伸ばした。

 毛布の下から現れた片腕は、服が破れているものの、その肌に傷は一つとしてない。それを見て、少女が不思議そうに表情を変えた。


「あぁ、怪我の方は魔術で治療済みだ。俺とクリスで治しておいた」


「……そうか。死んだものと思ったが、我の運もまだ尽きてはいなかったという事か」


 少女は独り言のような言葉を溢し、ゆっくりと伸ばした片腕を下ろした。それにしても、見た目に合わない口調だな。

 それから少女は両手を支えに上体を起こし、再びこちらへと顔を向ける。


「どうやら世話になったようじゃな。礼を言う」


「別に、大したことじゃない」


 少女を抱えて移動したのであればそれなりの労力を要しただろうが、実際には吹雪で足止めを食らっていたのだ。

 元々天幕は用意するつもりだったのだし、少女のためにしたことと言えば、天幕の中まで運んだことと、治癒術で治療を施したくらいである。その程度であれば、大した手間でもない。


「悪いが、我から返せるものは何もない。早々に出て――」


 言いながら立ち上がろうとした少女の体が、ふらりと揺れる。

 俺は咄嗟に手を伸ばし、少女の体を抱き留めた。見た目通りの軽さが、抱えた腕へとかかる。


「無理するなよ。怪我が治ったとはいえ、失った血や体力が戻るわけじゃないんだ」


「じゃが……」


「第一、外は吹雪だぞ? どこに行くつもりだ? ここから出たところで、すぐに遭難するに決まってる」


「その程度、問題ない」


「あるに決まってるだろ!」


 少し乱暴に少女の頭へと片手を乗せれば、少女は驚いたように瞳を見開いた。

 そんな少女の前で、俺は膝を曲げて目線の高さを合わせる。


「別に恩に着せるつもりはないが、助けたばかりの、しかもお前のような子供をみすみす見殺しにするわけないだろ! 子供は大人しく寝てろ!」


 この少女を助けたのは、見返りを求めてのことではない。単に、生きているのであれば助けるべきだと、俺が思ったからだ。

 だというのに、こんなところで外に放り出してたまるものか。どんな事情でこんなところにいるのかは知らないが、拾ってしまった以上は、安全なところに送り届けるまでは面倒を見る覚悟である。


 少女を叱りつけ、毛布の上へと投げ出す。少女は空気を押し出す音と共に、毛布の上へと寝転んだ。

 その表情は驚いたように目を丸くし、口はぽかんと開いている。その様子に、俺は思わず眉根を寄せた。


「……どうした?」


「いや……こんな風に、子供扱いされたのは初めてのことじゃ」


 そんな風に、俯きがちに口にした。その言葉に、俺は思わず首を捻る。

 この年齢で、子供扱いされたことがないということはないだろう。あるとすれば、極端に他人と関わらないような人生を送ってきたなどだろうか。

 見つけた場所と言い、謎が深まるばかりである。


 俺は腰を落とし、毛布の上に寝転んだ少女の頭へと軽く片手を添えた。

 少女はこれといった抵抗をすることなく、不思議そうな瞳で俺の事を見返している。


「とにかく、明日になったら連れて行ってやるから、今日のところは大人しく寝ていろ」


「……わかった」


 少女が小さく顎を引いたところで、俺は手を放した。納得してくれたようだし、この様子であれば一人で出ていくということはないだろう。

 ひとまず安静にさせておこうと、俺は少女達と共に天幕を出ようとしたところで、ふと気になり足を止めた。そうして、再び少女の方へと振り返る。


「そう言えば、名前はなんていうんだ?」


「名前……」


 俺の問いに、少女は小さく言葉を溢し、俯きがちに瞳を閉ざした。

 それも少しの間で、再び氷の瞳を俺へと向ける。


「レイ、と、そう呼んでくれ」


「レイだな、わかった。よろしくな」


 名を呼べば、レイは小さく頷きを返した。

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