40話 フォレストスネイク討伐1
鍛冶屋を後にした俺達は、王都グロースベルクにある冒険者ギルドへとやってきていた。王都の冒険者ギルドは、ネーベンベルクの街のものよりもずっと大きい。中に入ると、作り自体は似通っているものの、受付は十箇所も用意されていた。
最も込み合う朝の時間帯からは少し外れていたためか、利用者の数はまばらである。それでも、右手にあるテーブルで朝から酒を飲む冒険者の姿があるのは、どこの街でも変わらない光景かもしれない。
俺はクリスティーネを伴い、左手にある依頼掲示板へと向かった。依頼掲示板に張り出されている依頼の数は、ネーベンベルクの街よりも余程多い。その中から良さそうな依頼を吟味するのは、それだけでも一苦労だった。
いくつも並んだ依頼を、いつものように端から目を通していく。その中で、一つの依頼に目が留まった。王都南の森に出没するという巨大な蛇、フォレストスネイクの討伐依頼だ。
二階建ての家よりも大きいとされる蛇で、討伐するにはCランク相当の腕が必要だと言われている。一応、Dランク以上あれば挑戦できると言われているが、今の俺達になら倒せるだろうか。
俺が一つの依頼に注視していたためだろう、気になったらしいクリスティーネが貼り出された依頼を読み上げる。
「フォレストスネイクの討伐……ジーク、この依頼を受けるの?」
「あぁ、いや、この依頼は常設依頼と言って、受けることはできないんだ」
「常設依頼? 普通の依頼とどう違うの?」
「あぁ、それはな――」
そう言って、俺は普通の討伐依頼と常設依頼の違いを説明する。
普通の討伐依頼と言うのは、討伐対象の居場所がはっきりわかっているときや、森などを普通に歩けば遭遇出来る魔物が対象である。以前受けたゴブリンの巣の駆除や、オークなどの討伐依頼がこれに当たる。
それに対し、常設依頼と言うのは討伐対象の数が少なく、探しても出会えるかわからない魔物が対象となる。今回の討伐対象であるフォレストスネイクなどがその代表だ。
そういった魔物を探し出すのも冒険者の実力と言えばそうなのだが、見つけるだけで何日かかるかわからない依頼など、冒険者は受けたがらない。また、依頼を受けた冒険者とは別の冒険者が森に入った際、たまたま討伐対象の魔物を倒してしまうことも考えられる。
ゴブリンやオークなど、数のいる魔物であればそれでも問題はないが、フォレストスネイクのような数の少ない魔物だと、依頼を受けた冒険者と討伐した冒険者との間でトラブルになることが考えられる。
そのようなことがないよう、数の少ない魔物は常設依頼として掲示し、倒した冒険者が報酬を得られる仕組みとなっているのだ。ちなみに討伐の証明方法だが、対象の魔石を持ち帰ることである。
俺がそう説明すると、クリスティーネは納得したように頷いた。
「なるほど、つまり、依頼を受けなくても倒したら報酬がもらえるってことだね?」
「そういうことだ。森で出会ったら、ぜひ挑戦したいところだな」
以前であれば手も足も出なかっただろうが、今ならクリスティーネと二人で中級魔術を使えば、何とかなるのではないだろうか。フォレストスネイクを倒せれば、Cランク冒険者にもぐっと近付くことだろう。今後のためにも腕試しに丁度いいと思う。
「ねぇジーク、フォレストスネイクって、どんな魔物なの?」
クリスティーネの質問に、己の記憶を手繰り寄せる。俺自身は出会ったことがないため、教えられるのは本で読んだ知識になるな。以前読んだ本にはフォレストスネイクの生態について詳しく書いてあったように思うが、あまり覚えていない。
俺はひとまず、当たり障りのない内容を説明する。
「とにかくでかい蛇だという話だな。俺達くらいなら、丸呑みされるくらいの」
「そんなに大きいんだ。私達に倒せると思う?」
「魔術があれば何とかなるとは思うんだが、こればかりはやってみないとわからないな」
そもそも、そうそう会うこともない魔物である。あまり気にしすぎるのも考え物だろう。出会えれば幸運、くらいに考えておくべきだろう。尤もフォレストスネイクの強さ次第では、出会ったのが運の尽き、という可能性もあるのだが。
それから俺達は、依頼掲示板の隅の方に貼り出されていたオーク肉の納品依頼を受注して冒険者ギルドを後にした。オークならもう何度も狩っているし、稼ぐにはちょうどいい獲物である。
そうして王都から出た俺達は、南にある森へとやってきていた。俺が王都にいた頃、もう何度も足を運んだ森である。ネーベンベルクの南にある森と大した違いはない。
森の中は木々から漏れる光があたりを照らしていた。少し涼しく感じるのも、ネーベンベルクの南にある森と同じである。生息している魔物も、大体は同じはずだ。
風魔術を使用して音を拾い、オークを見つけ出すのもいつものことである。俺とクリスティーネの中級魔術で数を減らし、残りを剣で倒すのも慣れたものだ。そうして、依頼達成に必要なオーク肉を確保しながら森の中を奥へと進む。
風魔術が異音を拾ったのは、陽が真上を射す頃だった。ずるずると、何か巨大なものを引きずるような音が俺の耳に聞こえてきた。
俺は足を止め、後ろをついて来ていたクリスティーネの方を振り返る。
「クリス、フォレストスネイクを見つけたかもしれない」
「本当? えっと、倒すんだよね?」
「まずは様子見だな」
戦うかどうかは、相手を確認してからでもいいだろう。実際の姿を見て、これは勝てそうにないなと感じたら手を引くのが賢明だ。相手の力量を正確に測るのも、冒険者に必要な技術である。
俺はクリスティーネを伴い、静かに音の聞こえる方向へと近づいて行った。そうして歩くことしばらく、木々の間を縫ってそれが現れた。
濃い緑色の体色は、隙間なく鱗に覆われている。胴回りは想像以上に太く、俺が両手で輪を作ったところで、その太さには到底及ばない。もし巻きつかれたとしたら、全身の骨が砕けることは間違いないだろう。全長はいったいどれほどの長さになるのか、一度では視界に入り切らないほどだ。持ち上げた頭が、俺の遥か頭上にあった。
初めて目にするフォレストスネイクは、俺の持つ知識以上の強大さを誇っていた。




