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399話 氷龍の情報を求めて3

 最初の本屋で古びた手記を受け取った俺達は、さらに複数の本屋を巡り、合計で三十冊ほどの本を購入した。

 買い揃えたのは龍を始めとした魔物に関する学術的な本の他、魔術や薬について書かれた本。それに、珍しい魔物に関する逸話や龍に関するおとぎ話など、非実用的な本だ。


 これ以上購入しても、今度は読む方が大変だろうと、ひとまず本屋巡りは打ち切りとした。そうして俺達は、その足で今度は冒険者ギルドへと足を運んだ。

 冒険者ギルドというのは、様々な魔物の情報が集まる場所だ。氷龍の手掛かりだって、きっと手に入ることだろう。


 そうして訪れた帝都の冒険者ギルドは、以前足を運んだ時よりも幾分か騒がしい様子だった。併設している酒場の方にも、何やら冒険者の数が多く見える。

 それらの喧騒を尻目に、俺はクリスティーネとシャルロットを伴い、空いている受付へと向かった。カウンターの向こうでは、近寄る俺達に気が付いた女性が姿勢を正す。


「こんにちは。ご用件をお伺いします」


「少し、聞きたいことがあってな……ところで、随分と賑わっているな」


 俺が酒場の方へと顔を向ければ、女性は「えぇ」と言葉を返した。


「帝都の外で、龍が目撃されたことは御存じですか?」


「あぁ、知ってる。それが関係しているのか?」


「そこは、やっぱり冒険者ですからね。龍と言えば、憧れのようなものもありますから」


「まぁ、確かにな」


 苦笑を浮かべた女性の言葉に、俺は顎を引く。わからない話でもない。俺だって、身内に被害が出ていなければ、興味本位で話を聞きたいと思っていただろう。

 龍というのは、冒険者にとってはいつかその手で倒してみたいと考える魔物の一つだ。そんな魔物が町の近くで姿を見せたと聞けば、情報を得ようと冒険者ギルドに集まる気持ちもわかる。


 もっとも、実際に龍を目撃した身からすれば、二度と遭遇したくないと思うものだが。


「それで、本日は如何しましたか?」


「実は俺達も、龍について聞きに来たんだ」


 俺の言葉に、女性はあからさまに眉根を寄せて見せた。


「我々としては、聞かれたことにはお答えしますが……龍を狩りに行くのは、お勧めしませんよ?」


「いや、そうじゃない」


 どうやら、俺達が龍を狩りに行くものだと勘違いされたらしい。おそらく、龍が近場で目撃されたということで、狩りに行こうと生息地を聞く冒険者が現れたのだろう。

 受付の女性からそう言われ、俺は慌てて片手を振った。


「町に入るときに聞いたんだが、何でも氷龍の息吹を浴びたとかで、騎士達が氷漬けにされてしまったんだろう? それを、助けられないかと思ってな」


 門にいた騎士に話を聞く限りでは、町の外に騎士達が出ていた理由については、あまり知られていないようだ。そのため、氷龍の被害に遭ったのは、騎士達だけだと思われているようである。

 ここで、被害に遭った中にフィリーネが含まれていることを言えば、不審に思われる可能性がある。そのことについては、伏せておいた方が得策だろう。


 あくまで、俺達は被害に遭った騎士を助けるために行動していると思わせた方が良い。

 俺の言葉を聞き、女性は意外そうに表情を変えた。


「あら、そのことですか。もしかして、お知り合いの方が?」


「あー、まぁ、そんなところだ」


「そうでしたか、素晴らしいお考えですね。ただ……」


 女性は一瞬、悲痛そうな表情を見せた。それから、カウンターの上で両手を組んで見せると、眉尻を下げた顔で俺の事を正面から見返した。


「残念ながら、氷龍の被害に遭った者を元に戻す方法は、現在見つかってはおりません」


「……そうか」


 女性の告げた内容に、俺は思わず溜息を吐いた。

 様々な魔物の情報が集まる冒険者ギルドであれば、何か手掛かりが得られないかと期待していたのだ。ここでも何もわからないとなれば、やはり本などを地道に調べる他にないだろう。


 冒険者ギルドにしてみても、氷龍の被害者を助ける方法は調べているはずだ。それでも見つかっていないということは、それだけ人が龍に遭遇した例が少ないということである。

 だが、俺が礼を言ってカウンターを離れようとしたところで、女性は「ただ」と言葉を続ける。


「何も手掛かりがないわけではないんです」


「本当か?!」


 俺は思わずカウンターへと身を乗り出した。

 少し勢いが付きすぎたのだろう、受付の女性が後ろへと体を引いて距離を取った。


「と、悪い」


 女性に詫び、俺は体を引き戻す。女性は「いえ」と軽く言葉を返した。

 俺は軽く咳ばらいをし、言葉を続ける。


「それで、どこまでわかってるんだ?」


「はい。どうやら龍の息吹を浴びた者を元に戻すには、特殊な薬品が必要なようです」


「薬か……」


 俺は思わず両腕を組んで唸る。龍の息吹に効くような薬となると、かなり貴重なものだろう。少なくとも、町の薬屋で気軽に買えるような代物ではない。薬屋の者だって、調合方法など知りはしないはずだ。

 俺が持っている薬関係の本にも、そんな薬は載っていなかったはずだ。龍の息吹に効く薬など載っていれば、記憶に残っているだろうからな。


「ジークさん、先程買った本の中に書いてあるでしょうか?」


「どうだろうな? なかなか難しいとは思うが、可能性はあるな」


 ここに来るまでに複数の本屋へと足を運び、薬に関する本だけでも複数冊を購入済みだ。あの中の一冊くらいには、龍の息吹に効く薬も書かれているかもしれない。

 さらに、女性は言葉を続けた。


「それから、その薬品を製造するためには、龍の素材が必要なようです」


「龍の素材だと?」


 俺は思わず聞き返していた。

 龍の素材、つまりは龍の体の一部だ。そんなものが軽々に手に入るはずがない。鱗の一枚ですら、金貨を山と積む必要があるだろう。

 特に気になるのは、その素材というのが何を指しているのかだ。


「具体的に、どの素材が必要なんだ?」


「それは、まだ……」


 女性が言いにくそうに口にした。どうやら、冒険者ギルドでもそれ以上の情報は掴んでいないらしい。


 牙や爪であれば、まだ良い方だろう。それならば、龍を仕留めることが叶わずとも、欠片くらいは手に入ることもある。龍の素材の中では、市場に出回りやすいはずだ。

 最悪なのは、龍の心臓だろうか。確実に龍を殺しきらなければ、手に入らないのだから。


「ねぇジーク、龍の素材なんて売ってるの?」


「少なくとも、俺は見たことがないな」


 龍など、早々討伐されることのない魔物である。そもそも遭遇することがまず難しいので、その素材が売りに出されることも極稀なのだ。

 牙や爪が市場に出回りやすいと言っても、それは他の素材に比べれば比較的にマシというだけの話しである。


 ただ、冒険者の中ではいくら金貨を積んでも素材を手に入れ、武具に使いたいという声は多い。そのため、龍の素材を巡るトラブルというのは少なくないのだ。

 以前、王都にいた際に龍の爪と言われる素材が売りに出され、多くの関心を集めたことがあった。その時は、際限なく値がつり上がっていったのを覚えている。


 結局、売りに出されていたのは龍ではなく別の魔物の素材で、売り手は詐欺として捕まっていたのだった。

 それ以来、龍の素材が売られているという話は、耳にしたことがない。


 その他、冒険者ギルドでは現在、Sランク冒険者を中心に氷龍を討伐するための人員を探しているようだ。皇族が被害に遭ったのだ、城の方でも躍起になって氷龍の素材を得る方法を探しているのだろう。


「なるほどな……一応、氷龍が生息するという場所を教えてくれるか?」


「それは……まぁ、お教えしますが……行かないほうがいいですよ? 忠告しましたからね?」


 女性は渋々といった様子で、カウンターの下から地図を取り出した。そうして、氷龍の生息地を手で示してくれた。

 方向は、以前城の書庫にあった本で読んだ通り、帝都の北西だ。龍にとっては短い距離だろうが、俺達からすると結構遠い。大体、歩いて七日程だろうか。


 俺は女性へと礼を言い、自前の地図へと書き記した。

 冒険者ギルドで得られる情報としては、こんなものだろう。改めて俺は女性へと礼を言い、クリスティーネとシャルロットと共に冒険者ギルドを後にした。

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