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388話 魔術具の購入2

「というわけで、魔術具を買いに、今日は帝都に行こうと思う」


 朝食後の紅茶を飲みながら、俺は皆へとそう話した。

 今の広間は、暖かな空気に包まれている。これは、魔術で部屋を暖めているというわけではなく、寝室側の魔術具を広間へと持ってきているためだ。

 魔術でも同じことは可能だが、長時間魔術を使用続けるのは、結構疲れるからな。


 そんなわけで、魔術具の補充が急務なのである。

 この洞窟で過ごすのも、あと数日のことだ。暖気を生み出す魔術具が一つあれば、暮らすことも可能ではないだろう。

 だが、俺達はこれから王国へ戻るために、雪国を旅することになるのだ。


 魔術具の残りは、たった一つしかない。もしもそれが同じように壊れてしまったら、俺達は凍えてしまうことになるのだ。それが就寝時だったのなら、凍死の危険だってある。

 せめて予備として一つ、いや、万全を期すならば二つほど、魔術具を調達しておきたいところだ。


「それで、誰を連れていくかなんだが――」


 続きを口にしようとした俺は、思わず口を閉ざした。何故だろうか、ピリッとしたというか、空気が変わった感じがしたのだ。

 それと同時、少女達が素早く互いに目配せをしたのがわかる。まるで、互いを牽制しているかのように見えた。


 真っ先に動いたのは、両の掌を打ち鳴らしたエリーゼだ。


「それなら、アミーと行けばいいと思うわ! もう何度も行ってるんだし、帝都のことならジークさんと同じくらいに詳しいでしょう? ね、アミー?」


「そ、そうね! 帝都ならもう慣れたし……ジークがどうしてもって言うのなら、ついて行ってあげてもいいわ!」


 そういうアメリアは、チラチラと俺の様子を盗み見ている。言葉とは裏腹に、ついて来たそうに見えるのは気のせいだろうか。

 その言葉に反応したのはフィリーネだった。


「ちょっと待つの!」


 テーブルに両手をつき、勢いよく腰を上げる。ばさりと、背の白い大翼が広がりを見せた。


「ジーくんと帝都に行くのはフィーなの! 前にちゃんと約束したの!」


「そ、それなら私だって!」


 そう言って、今度はクリスティーネが立ち上がった。


「元気になったら帝都に連れて行ってくれるって、ジークは約束してくれたんだもん! ジークと一緒に帝都に行くのは私だよ!」


「フィーだって楽しみにしてたの! いくら相手がクーちゃんでも譲れないの!」


「や、約束はしてないけど、私だって行きたいわ!」


「アメリアちゃんはもう何度も行ってるでしょ!」


「一人だけずるいの!」


 何やら言い合いが始まってしまった。皆、そんなにも帝都に買い物に行きたいのだろうか。

 まぁ、最近はずっと洞窟内で過ごしているからな。気分転換に、町に行きたいという気持ちもわかる。


 クリスティーネとフィリーネは威嚇するように大きく背の翼を広げているし、アメリアも小さな尾をぴんと立てており、互いに譲らないと主張していた。

 シャルロットは少女達の口論に目を白黒とさせており、エリーゼとイルムガルトは何故か面白そうにやり取りを眺めている。


 ともかく、これは止めなければならないだろう。

 俺は注目を集めるように、両の掌を打ち鳴らした。途端、少女達が一斉にこちらへと目線を向ける。


「何か勘違いしてるみたいだが、連れていくのが一人だけとは言ってないぞ?」


 俺の言葉に、少女達はハッとしたように表情を変えた。


「あっ、そっか、一人じゃないんだ」


「……どうせなら、二人きりが良かったの」


 少し安堵した様子を見せたのがクリスティーネで、何故か残念そうに小さく言葉を漏らしたのがフィリーネだ。その呟きは聞こえなかったが、ここは喜ぶところではないだろうか。


「それで、誰を連れていくのかも決めてるんだ。前に約束した通り、クリスとフィナの二人を連れていく」


 俺の言葉に、クリスティーネとフィリーネはぱっと顔を明るくさせた。それから、互いの顔を見て頷き合い、ぐっと拳を握った。

 反対に、大きな耳をぺたりと伏せたのはアメリアだ。肩から力を抜いた姿は、どう見ても残念がっているように見える。


「悪いな、アメリア。あまり大人数では行きたくないんだ」


「べ、別に、いいわよ……」


 口調とは引き換えに、あまり元気のない様子だ。

 とは言え、仕方がない。あまり大人数になると、その分動きづらくなるのだ。まして、今回連れていくのは、捜索対象とされているクリスティーネとフィリーネなのである。


 二人だけであれば、万が一気が付かれたとしても、空を飛んで逃げることができる。俺は走って逃げるか、抱えて飛んでもらえば逃走は容易だろう。


「シャルも、今回は留守番していてくれ」


「えっと、わかりました。その、気を付けてくださいね?」


 シャルロットはあまり自己主張をしない子だ。聞き分けが良いのは助かるが、やはり少し残念そうに見える。王国に無事帰れたら、町に連れて行ってあげようと俺は心に決めた。

 それから、ずっと様子を眺めていた二人へと目を向ける。


「エリーゼとイルマは……どっちでも良さそうだな?」


「そこまで帝都に興味がないもの。必要なものは揃ってるし」


「お買い物には、ちょっと行ってみたいけどね? でも、何かあった時、足引っ張っちゃいそうだし」


 この二人は既に納得済みのようだ。逃亡中の身でなければ、一緒に町に行くという選択肢もあったのだろう。

 だが、一度は追いかけられた身なのだし、控えておくということだろう。


「それじゃ、ちょっと行ってくるよ」


 それから簡単に準備を済ませた俺は、クリスティーネとフィリーネを伴って洞窟を後にした。

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