384話 ガールズトーク9
私が思い悩む間にも、エリーゼの話は続いている。
「それで、実はアミーもジークさんの事が好きなんだけど」
「ちょっ、エリー?!」
エリーゼの言葉に、アメリアが勢いよく腰を上げる。その拍子に紅茶を入れたカップが揺れ、赤毛の少女は慌てた様子でそれを支えた。幸い、何とか零れずに済んだようだ。
アメリアはほっとした様子で息を吐きだし、続いて睨むように鋭い瞳をエリーゼへと向ける。
「何で言うのよ?!」
「だって、アミーを放っておいたら進展なんかしないじゃない。幼馴染としては、アミーの恋を応援しなきゃね」
「いらないわよ! それに、私がジークを好……そう言うんじゃないから!」
「これだもんなぁ」
みるみる顔を赤くさせるアメリアの隣で、エリーゼは呆れたように溜息を吐いた。
今まで全く気が付かなかったが、今のアメリアの様子を見れば、その気持ちは丸わかりである。アメリアと出会った頃のことを思い返せば、随分とジークハルトに対して好意的になったものだ。
その思いが親愛を越えてしまったところには、少し複雑なところがあるが。
さらにエリーゼは「第一」と言葉を続ける。
「こんなにわかりやすいんだもん。クリスちゃん達だって、気付いてたでしょ?」
そんな風に言われ、私は思わずシャルロットと顔を見合わせた。
「シャルちゃん、気付いてた?」
「いえ、まったく」
そう言って、シャルロットはふるふると首を横に振って見せた。
「フィーはわかってたの!」
少し得意げな様子で、フィリーネがそう口にした。フィリーネはこれで、意外とよく人を見ている子だ。私やシャルロットがそうだったように、アメリアの想いにも気が付いていたのだろう。
そんな私達の様子を見てか、エリーゼはますます呆れた様子で、軽く頬を掻いて見せる。
「皆、結構鈍感だなぁ……まぁ、ジークさんほどじゃないけど」
それに関しては、エリーゼの言う通りだと思う。
つい最近まで自覚のなかった私や普段から少し控えめなシャルロット、少なくともそんな態度を見せないようにしているらしいアメリアに関しては、百歩譲って良しとしよう。
だが、フィリーネは以前から、あれだけあからさまに好意を明らかにしているのだ。にもかかわらず、当のジークハルトはというと、冗談だと思っているのかまともに取り合った試しがない。
そこでジークハルトが真剣に受け取った時のことを思うと複雑に感じるが、正直フィリーネが少し可哀相だとも思う。よくもめげないものである。
「そ、そういうエリーゼはどうなのよ?」
「えっ、私?」
「えぇ、エリーゼはジークの事を、どう思ってるの?」
話題を自身から逸らそうというのだろう、アメリアの狙いが透けて見える。だが、その話には私も興味がそそられた。
何せ、私達のうち四人もが、ジークハルトに想いを寄せていることが明らかになったのだ。残りの二人が、彼の事をどう思っているのか、聞いておきたい。
アメリアの問いに、エリーゼは「ん-」と考え込むような声を上げる。それから、顎先に指を一本当てた。
「別に、普通だよ?」
「普通って、もっとこう、他に何かあるでしょう? その、す、好きだったりはしない?」
はぐらかすようなエリーゼの言葉に、アメリアがさらに踏み込む。
対して、問われたエリーゼは苦笑を漏らした。
「そりゃあ、好きか嫌いかで言えば好きだよ? 格好いいし、頼りになるし。それに、私をあそこから連れ出してくれたからね。嫌いになんて、なりようがないし?」
「エリーゼさん、それって、その……」
エリーゼの言葉に、シャルロットが言いにくそうに言葉を濁す。彼女の言いたいことは、私にもわかった。それはジークハルトの事を好きだと言っているのと、同じことではないだろうか。
私と同じことを考えたのだろう、アメリアが眉根を寄せる。
「それ、私とどう違うのよ?」
「んー、私は別に、ジークさんに恋してるわけじゃないから。まぁ、今とは違う出会い方をして、ジークさんが冒険者じゃなくて、火兎族の里に留まってくれるって言うなら、ちょっとは考えたかもしれないけど」
そう口にするエリーゼは、嘘を言っているようには見えなかった。少なくとも、ジークハルトに対して恋心を抱いていないというのは、本当のことらしい。
どうやらエリーゼは、冒険者を恋人にすることは考えていないようだ。確かに、冒険者ではないエリーゼにとって、恋人が冒険者というのはあまり好ましくはないだろう。会えない時間が長くなるし、心配だってたくさんすることになるのだ。
その点、私は自身が冒険者なので、特に気にすることはない。むしろ一緒に居られる分、そういう相手は冒険者の方が良いだろう。
それからエリーゼは、アメリアへとにんまりと笑って見せる。
「それに何より、ジークさんはアミーの想い人だし? 幼馴染と取り合う気にはなれないかなぁ」
「……そんなんじゃないって言ってるでしょう」
「本当、素直じゃないんだから」
深く溜息を吐いたエリーゼは、「ま、そんなところも可愛いんだけど」と小さく付け加える。確かに、どう見ても丸わかりなのに頑なに否定するアメリアは、ちょっと可愛いと思う。
そんな風に思っていると、ふとこの場に居ながらも先程から言葉を発していない女性、イルムガルトが目に入った。
イルムガルトは先程から一人、紅茶を飲みながら私達の様子を眺めている。とは言え、つまらなそうな様子というわけではなく、その藍の瞳は興味深そうな色合いをしていた。
先程エリーゼと話していた通り、恋の話にまったく興味がないというわけではないのだろう。
ただ、私達の話を黙って聞いているだけというのは、ちょっと癪である。その話題に私が多分に含まれているとなれば尚更だ。
イルムガルト以外の皆は、それなりに内心を暴露されているのだ。ここは公平に、イルムガルトのことも聞くべきだろう。
「ねぇ、イルマさんはどうなの?」
私は少しテーブルへと身を乗り出し、青髪の女性へとそう切り出した。
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