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368話 ルエルコリスの花9

 雪の上に土魔術で生み出した岩の上に腰を下ろし、俺は自らへと治癒術を行使する。左腕の痛みが徐々に引いて行き、満足に動かせるようになったところで、ほっと息を吐きだした。

 今はすべての魔物を打ち倒し、少し休みを挟んだところだ。周囲には未だ、倒した時と同じ状態で魔物達が倒れている。


「大丈夫ですか、ジークさん?」


 俺の斜め向かいに腰掛けたシャルロットが、心配気な表情で問いかけてくる。

 それに対し、俺は治ったばかりの左腕を、軽く振って応える。


「あぁ、大丈夫だ、この通りもう治ったよ。ありがとな、シャル。さっきは助かったよ」


「いえ、お役に立てたなら嬉しいです」


 俺の言葉に、シャルロットは控えめな笑みを浮かべて見せる。

 実際、シャルロットの助けがなければ、かなり危険だっただろう。俺一人では三匹の魔物を相手に立ち回るだけで精一杯だったが、相手が通常種だけであればまだ何とかなったかもしれない。


 だが、変異種が混じっていたのはかなり厄介だった。通常種を含めて三匹に攻められたタイミングで、もしも変異種の魔術を受けていれば、おそらく死んでいたに違いない。

 シャルロットの協力で、何とか通常種の二体を打ち倒したタイミングで魔術を受けたのは、最早仕方のないことだろう。


 反省点を考えてみるが、あの時は完全に魔術を使われることが、頭になかったからな。もう一度変異種を相手にするなら、今回以上に善戦は出来るだろうが、初見ではどうしようもなかったと思う。


 俺はどちらかというまでもなく、感覚派ではなく理論派だ。魔物を相手に戦う際は、事前に出来るだけの情報を得て、勝算がある場合にしか戦うつもりはない。

 今回のように、咄嗟の判断が迫られるような状況は、少し苦手とするところだった。この辺りは、今後の課題だな。


「悪かったわね、助けに行けなくて」


 そう口にしたのは、シャルロットとは反対の斜め向かい側に腰掛けたアメリアだ。申し訳なさそうな表情をしている赤毛の少女へ、俺は軽く手を横に振って見せる。


「仕方ないさ、アメリアはアメリアで戦っていたからな。二匹受け持ってくれただけ、助かってるよ。ほら、手を出してくれ」


 アメリアには二匹のホワイトバンキーを受け持ってもらったので、十分に仕事をしているのである。彼女の方も、俺が変異種を仕留めるのと時を同じくして、二匹の魔物を討伐したようだ。

 さすがに無傷とはいかなかったようで、アメリアは服を雪で汚し、軽傷を負っていた。それでも命に別状はないということで、治療は俺の後に回させてもらったのだ。


 そうしてアメリアの治療も完了し、一息ついたところで腰を上げる。魔物は倒したとはいえ、まだまだやることは山積みだからな。


「それでジーク、どうするの? まずは魔物の解体かしら?」


 岩から腰を上げ、尻を軽く叩いてアメリアが小さく首を傾げて見せる。

 彼女の言う通り、魔物の解体は必須である。折角倒したのだし、素材を回収して冒険者ギルドで売るべきだ。ホワイトバンキーの毛皮も魔石も、それなりの値段で売れるだろう。


 特に、今回は変異種の素材があるのだ。変異種は出会うこと自体がとても珍しく、その素材の希少価値は高い。きっと高値で売れることだろう。

 とは言え、売りに出すのは王都に帰ってからになるだろう。帝都で変異種の素材など売りだせばどうしたって目立つし、単純に王都で売った方が儲かるからな。

 だがそれよりも、今は優先したいものがある。


「いや、先にルエルコリスの花を採取しよう」


「そうですね、そのためにここまで来ましたから」


 そうして俺達は、魔物の死骸をその場に残し、シュトゥルムスネイクの亡骸の方へと歩いていく。その尾に近い方には、薄紅色の花が纏まって咲いていた。

 魔物同士の争いによってだろう、いくつかの花は散ってしまっている。それでも俺達が離れたところで戦闘したおかげで、まだそれなりに残っているようだ。


「どう、ジーク? これ、ルエルコリスの花で間違いなさそう?」


「ちょっと待ってくれ……よし、間違いなさそうだ」


 俺は背負い袋から取り出した植物図鑑と、目の前の花とをよく見比べ、頷きを見せた。間違いなく、これがルエルコリスの花だろう。冒険者ギルドで情報を集めた甲斐があったというものだ。

 俺は早速とばかりに花を採取していく。いくらか潰れているとはいえ、ルエルコリスの花は十分な数がある。そこにある全てを取らなくても、十分な数を手に入れることが出来た。


 これでよし、と俺は背負い袋の口を閉め、腰を上げる。トラブルはあったが、何とかここまで来た目的を達成することが出来た。後は安全に帰るだけである。

 それから、と俺は傍らに横たわるシュトゥルムスネイクを振り返った。


「ついでに、こいつの素材も回収して帰るか」


「これも、ですか? でも、いっぱい傷が付いちゃってますよ?」


「もちろん、肉は無理だけどな。それでも、他の素材は十分に売れるだろうさ」


 シャルロットの言う通り、大蛇の胴体はホワイトバンキー達に食い荒らされているため、散々な状態だ。少なくとも、肉も皮もこれでは売れはしないだろう。

 だが、シュトゥルムスネイクの一番の素材である大きな牙と魔石は、手付かずなままである。この二種類だけでも、かなりの金額になることだろう。


 それから俺達は、手分けして魔物達の解体を行った。苦労した甲斐もあり、これでまた懐は大分潤うことだろう。

 ほどなく魔物の解体を終え、死骸の処理を済ませた俺達は、意気揚々と帰路に就くのであった。

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