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361話 ルエルコリスの花2

「この店も駄目ね、ジーク。全然見つからないわ」


「あぁ。これは、他の店を回っても同じだろうな」


 何軒目かの薬屋を後にしたところで、アメリアが溜息交じりに言葉を溢した。俺は頷きを返しながら、周囲の様子へと目を向ける。

 大通りに面した薬屋の周りは、町を行き交う人々の姿が多くある。アメリアは帝都ほどに人の多い街は初めてのはずで、少々気疲れしている様子だ。


 あれから帝都にある薬屋を十軒ほど回ってみたのだが、依然としてルエルコリスの花は見つかっていない。やはり、あまり取り扱ってはいないのだろう。

 薬屋でダメならばと花屋を回ったりもしたのだが、そちらでも見つかることはなかった。図鑑の挿絵を見る限り、花束に向くほどの大きさでもないようなので、花屋に置いてないのも無理はないだろう。


「よし、アメリア。ルエルコリスの花を、帝都で買い求めるのは諦めよう。予定通り冒険者ギルドに行って、そっちで聞いた方が良さそうだ」


「そうね、これだけ店を回って見つからないなら、売ってないんでしょう。大人しく採取に行く方が早そうだわ」


 それから俺達は、二人して冒険者ギルドへと赴いた。数日前までは冒険者ギルドの場所もわからなかったが、薬屋を回る際にその場所は既に確認している。

 帝都の冒険者ギルドも、他の町のものとそう変わらない外観だ。ただ、建物の大きさ自体は随分と大きく、他の町の二倍から三倍ほどにもなる。


 建物内へと足を踏み入れてみれば、冒険者ギルドはなかなかの賑わいだった。併設されている酒場の方では、昼から酒を飲む冒険者の姿がそこそこある。

 今日も雪がちらついており、なかなかの寒さだ。酒を飲むには悪くない環境だろう。


 そちらを一瞥してから、俺は正面の受付の方を視界に入れる。冒険者ギルドの受付は八箇所もあり、その半分が今は空いているようだ。

 俺はアメリアと共に、手近な受付へと歩いていった。カウンターの向こう、受付の女性が近寄る俺達に気付き、顔を上げた。


「こんにちは、冒険者の方ですね。依頼の受領ですか、それとも素材の買取ですか?」


「いや、少し聞きたいことがあってな」


 そう言って、俺は薬屋に赴いた時と同じように、背負い袋から植物図鑑を取り出した。そうしてルエルコリスの花のページを開くと、女性の方へと広げて見せる。


「この花を探しているんだ。ルエルコリスという桃色の花で、薬の材料になる。今の時期の寒冷地に咲くらしいんだが、場所はわからないか?」


「ルエルコリスの花、ですか……?」


 そう言って、受付の女性は少し身を乗り出して、本に書かれた花の挿絵を凝視する。それから、大きく首を捻って見せた。


「あの、少々お時間を頂いてもよろしいですか?」


「あぁ、構わない」


 女性は俺に断りを入れると、脇に積まれた書類の束を手にした。おそらく、そちらには冒険者ギルドでまとめた素材などの情報が記載されているのだろう。

 いくら冒険者ギルドの受付が優秀と言っても、すべての素材の在り処を記憶しているわけがない。滅多に利用されることのないルエルコリスの花の在り処を調べるのは、当然のことである。


「ねぇジーク? もしルエルコリスの花が近くになかったら、どうするの? 全員で移動して、近くでまた拠点でも作る? それとも、少人数で取りに行く?」


「悩みどころだな……」


 受付の女性が調べ物をしている間、俺はアメリアと会話をして時間を潰す。


 もしもルエルコリスの花が、日帰りで行けるような距離にあるのであれば、何の問題もない。ぱっと行ってぱっと採取してぱっと帰って来ればいいだけだ。

 だが、それなりに離れているとなれば、少し考える必要があるだろう。


「二、三日くらいの距離なら、俺と……そうだな、アメリアだけで一緒に探しに行くのは手だな」


「そうね、私達だけなら身軽だし、時間もかからないでしょう。問題は、距離が離れていた場合ね」


「あんまり離れているようなら、長いこと拠点を空けたくはないな。その場合なら、フィナの回復を待ってから、クリスを背負って移動した方が早いかもな」


 近くにあるのなら、俺とアメリアで取りに行くのが最も早いだろう。出来れば、空の飛べるフィリーネが一緒の方が良いのだが、彼女の受けた魔毒の影響が、いつ抜けるのかわからない。

 もう数日中には抜けると思うのだが、それを待つよりも、早くクリスティーネを治療してやりたいと思うのだ。


 だが、ルエルコリスの花がある場所まで、片道五日とか掛かるのであれば、全員で移動した方が良いだろう。今の状態のクリスティーネを拠点に置いた状況で、あまり離れたくはない。

 その場合は、フィリーネの魔毒が抜けきり、治癒術で治療をしてからになるだろう。今の状態のクリスティーネが旅を出来るとは思えないので、背負って移動することになる。さすがに、怪我人のフィリーネまでは手が回らないのだ。


 そうこうしているうちに、受付の女性が書類から顔を上げた。


「お待たせしました。ルエルコリスの花なら、帝都の近隣にもあるようです。こちらをご覧ください」


 そう言って、女性は受付カウンターに一枚の大きな紙を広げて見せた。俺はアメリアと共に、身を乗り出すようにしてその紙を見下ろした。

 その紙は、帝都を中心にした地図らしい。帝都の周辺に絞った地図のようで、俺の持っている帝国全体の地図よりも細かく書かれている。


「ここが帝都ですね」


 女性はそう言って、地図の中心を指差した。

 そこから指を、俺達から見て左下方向、南西へと動かしていく。


「こちら、帝都の南西には広大な森が広がっておりますが、どうやらルエルコリスの花は、その奥地にあるようです」


 そう言いながら、女性は地図上に小さく丸を描くように、指を動かして見せた。


「ねぇジーク、ここって……」


「あぁ、近いな」


 女性が指差したのは、俺達が拠点としている洞窟の、さらに南西方向のようだ。それなりに距離はあるようだが、想像よりは遥かに近い。

 あくまで地図上で見た限りではあるが、夜明けとともに出発すれば、早ければ翌日の夕方には帰ってこられそうだ。


「これなら、すぐにでも取りに行けそうだな」


「そうね、順調にいけば一泊二日ってところかしら」


 俺はアメリアと共にほっと息を吐く。

 そこへ、受付の女性が「ただ」と言葉を続けた。


「こちらは強力な魔物も出没しますので、向かう際は重々お気を付けてください。特に最近は、ホワイトバンキ―が普段よりも多く目撃されております」


「ホワイトバンキ―か……わかった、気を付けるよ」


 ホワイトバンキ―というと、エリザヴェータの乗った馬車を襲った、全身を白い体毛で覆われた魔物だ。こちらと同数程度であれば問題ないが、数が多くなると厄介である。

 とは言え、あの魔物に群れるような習性はないので、そう多い数に出くわすこともないだろう。前回は、魔寄せの粉があったため大量に出てきただけだ。


 それから俺は、受付の女性が示してくれた地点を、手持ちの地図へと書き写す。

 そうして冒険者ギルドでの用事を済ませた俺達は、軽く食材を調達してから、拠点である洞窟へと戻るのだった。

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