360話 ルエルコリスの花1
クリスティーネの治療薬の材料を探しに、俺はアメリアと共に再び帝都へとやって来た。まずは変わった様子はないか、前回と同じように森と平原との境界線から、門の様子を覗き見る。
「どう、ジーク?」
「あぁ、どうも前回来たときみたいに、隠蔽解除の魔術具による確認はしていないみたいだ」
俺は遠視の魔術を使用して見えた状況を、アメリアへと説明する。
門に立つ騎士の数は、前回六名だったのが四名まで減っているようだ。そこでの確認も、軽く口頭での質問だけに留まっているように見える。
「そうなの? 随分早く警戒が解けたわね」
「多分、帝都に入ろうとする人を、町の外に並ばせるのを嫌ったんだろうな」
前回来た時は、帝都にやって来た人たちが門の外側に列を成していた。それだけ、門での確認に時間を要していたということである。
町の外側に多くの人が集まれば、それだけ魔物に襲われる危険性も上がってしまう。魔物に襲われないよう、確認事項を減らしたのだろう。そのおかげで、今日は門で待つ人の数も数えるほどである。
「この様子なら、俺達は帝都から離れたと思われてるんだろうな」
こちらに怪我人がいることについては、レオニード達城の者も知っているはずだ。だが、その状態で町の外で野宿を続けるのは、とても危険である。
実際には俺の土魔術で洞窟内に避難しているおかげで危険は少ないが、向こうはそのことを知らない。そのため、怪我人を連れた状態で、帝都から少しずつ離れていると思っているのだろう。
「多分、近隣の町では、ここよりも出入りを手厚く見張ってるんだろうな」
「なるほどね。王国に帰る時には気にしないといけないけど……ひとまず、帝都はちょっと安全になったかしら?」
「そうだな。もし必要があれば、クリスとフィナを連れてきても、異種族の特徴を隠していれば大丈夫だろう」
騎士達が探していたのは、銀翼の半龍族と白翼の有翼族の二人だ。その二人を帝都の中に入れても、異種族の特徴を隠していれば、早々見つかるようなこともないだろう。
そうして俺はアメリアと共に、帝都の門へと歩いていった。列に並んでいるのは数人程で、すぐに俺達の番になる。
一応、アメリアには火兎族の特徴である耳と尻尾を隠さないままでいてもらったが、特に呼び止められることもなく、町中へと入ることが出来た。
アメリアは町中に入ると同時に、耳と尻尾を隠す。
それから俺の方へと顔を向けた。
「それでジーク、まずは薬屋に行くのよね?」
「あぁ、前と同じだな。そこでクリスの薬の材料が揃えば、後は食料でも買って帰ろうか」
帝都にある薬屋の場所は、フィリーネの薬を買うために回ったので既にわかっている。
そこで俺達は、まず帝都で一番大きいと思われる薬屋へと足を運んだ。この店であれば、多少珍しい薬の素材でも、取り扱っていることだろう。
薬屋というのは、基本的には既にできている薬を販売する店である。それでもこの店では、薬の素材自体も扱っていることは、前回足を運んだ際に確認していた。
思った通り、クリスの治療薬に使用する素材も、この店には置かれていた。アメリアと言葉を交わしながら、少し珍しい素材も含めて、一つを除いて必要量を確保する。
そうして最後に残った素材は、やはりルエルコリスの花だった。この花を乾燥させ、粉末状となった素材が必要となるのだが、どれだけ棚を見て回っても、見つけることが出来ない。
「ジーク、見つからないわ」
「そうだな……よし、聞いてみるか」
右手へと目を向けてみれば、恰幅の良い薬屋の店主の姿があった。探し物が見つからないのなら、彼に聞いてみるのが早いだろう。
もしかしたら店の裏手などに、店頭には並べていないものだってあるかもしれない。
俺がアメリアと共に近寄れば、店主は笑顔を向けてくる。
「何かお探しですか?」
「あぁ、探している素材があるんだ」
そう言って、俺は背負い袋から一冊の本を取り出した。俺の持っている本の一冊で、エリーゼが調べていた植物について書かれている本だ。
その本をパラパラと捲り、ルエルコリスについて書かれているページを開く。それを、店主が見えるようにと広げて見せた。
「この、ルエルコリスという花を探しているんだ。薬の素材となるはずなんだが、この店では扱ってないか?」
「ルエルコリスですか。一応、痛み止めの薬になる素材ですね」
そう言って、薬屋の店主は顎先に片手を当てて見せる。
それなりに珍しい素材ではあるが、さすがに薬を扱っているだけあって知っているようだ。
「残念ながら、当店では扱っておりませんね。それよりも効果的で、手に入りやすい痛み止めの薬がありますから」
俺が調べた、薬について書かれていた本の通りだ。やはり痛み止めとして一般的に利用されているのは、ルエルコリスを使わない別の薬のようだ。
店主はさらに、片手で薬の並べられた棚の方を指し示す。
「痛み止めの薬をお求めでしたら、別の薬がございますよ?」
「いや、俺達が探しているのはルエルコリスの花なんだ。どこか、売っている場所を知らないか?」
俺の言葉に、店主は首を横に振って見せる。
「申し訳ありませんが、存じ上げませんね。見たところ、お客様は冒険者の方ですよね? それでしたら、ご自分で採取に行かれる方が確実かと。確か、帝都の近くでも手に入ると、聞いたことがありますよ?」
「いよいよとなったら、そうするさ。時に店主、ルエルコリスの花が咲く場所を知っているか?」
「重ね重ね申し訳ありませんが、そこまでは。そのあたりは、冒険者ギルドに行けばわかると思いますよ?」
「そうするよ。教えてくれて助かった」
そうして俺達は、ルエルコリスの花意外の薬に必要な素材を購入し、薬屋を後にした。
店を出てすぐ、アメリアがこちらを見上げて口を開く。
「それでジーク、どうするの? 冒険者ギルドに行ってみる?」
「いや、それよりも先に、他の薬屋を当たってみよう。もしかしたら、どこか扱っている店があるかもしれない」
「そうね、採取に行かなくて済むなら、その方がいいもの」
それから俺達は、帝都のにある数件の薬屋を回ってみた。
だが、何れの店でもルエルコリスの花は扱ってはいなかった。
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