表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

353/685

353話 薬の調達1

 森と平原との境界線で、俺はアメリアと共に木々の後ろに身を隠す。そうして、遥か遠くに見える帝都の様子を眺めていた。ここからは帝都の城壁すらも随分と小さく見え、肉眼では大した情報も得られない。

 様子を探るために遠視の魔術を使用しようと、体内の魔力を練り上げる。そこへ、アメリアが話しかけてきた。


「ここまで来てなんだけど……良かったの、ジーク? クリスの傍についていた方が良かったんじゃない?」


「あぁ、もちろん傍に居たい気持ちもあったんだけどな」


 拠点としている洞窟内でクリスティーネが目覚めてから、彼女が記憶喪失となっていることはすぐにわかった。それから詳しい話を聞こうと思ったのだが、どうやらクリスティーネは腹を空かせていたようなので、彼女に食事を用意したのだった。

 食事は広間に用意したのだが、寝室からそこまで行くのに、クリスティーネは少しふらついているようで、シャルロットが介添えをしていた。


 それからクリスティーネは食事に手を付けたのだが、彼女は食事中も終始うとうとと舟を漕いでいた。食事をとる速度も、普段とは比較にならないくらいに遅い。

 そうしてたっぷりと食事に時間をかけ、ようやく話が出来ると思ったのだが、クリスティーネは机に突っ伏して、寝息を立て始めたのだった。


 記憶喪失ということ以外にも、どうも様子がおかしいのだが、眠ってしまった以上は仕方がない。俺は寝入ってしまったクリスティーネを抱え、再び寝室に寝かせるのだった。

 結局、クリスティーネといろいろな話をする前に昼になってしまったので、アメリアと共に帝都の様子を見にやって来たというわけだった。


「ただ隣にいたところで、俺に出来ることはないからな。それよりも、今優先するべきなのはフィナの薬だ」


 あのまま、ずっとクリスティーネが目覚めないようであれば、帝都に足を運ぶか迷っていたところだろう。昏々と眠り続けているようであれば心配だし、彼女が目を覚ますときには、俺が傍に居てやりたかった。

 だが、短い時間だったとはいえ、クリスティーネは目を覚ました。記憶は失っているし、終始ぼんやりとした様子ではあったものの、ひとまずのところ意識は取り戻したのだ。


 それだけで、随分と安心した。記憶を取り戻す方法を探すことを始めとして、問題は山積みではあるものの、一歩前進したと言っていいだろう。

 クリスティーネと話をするのは、今後いくらでもできるのだ。今はそれよりも、フィリーネの薬を手に入れることが先決である。


「そうね、ジークの言う通りだと思うけど……でも、貴方が冷静でよかったわ。てっきり、もっとショックを受けていると思ったけど」


「……別に、何とも思ってないわけじゃないぞ? ただ、誰が悪いわけでもないし、すぐに解決するような事でもないからな」


 正直に言えば、かなりショックではある。

 長い時間をかけて、ようやくクリスティーネを助け出したのだ。久しぶりにゆっくりと話が出来ると思っていたところで、記憶が無いと来たのである。内心、かなり落ち込んでいる。


 だが、嘆いたところでクリスティーネの記憶が戻るわけでもない。皆の前で少し格好をつけているというのもあるが、落ち込んでいる暇があれば、出来ることを少しずつこなしていくべきだろう。


「なるほどね……えぇ、それでいいと思うわ」


「差し当たっては、帝都に入るところからだな」


「どう、ジーク? 何か見える?」


「ちょっと待ってくれ」


 魔力を練り上げ、遠視の魔術を使用すれば、帝都の入口に当たる門の様子が間近に見えた。

 昨日、シャルロットの魔術によって、ちょっとした雪山と化していた門の入口は、今は既に雪が片付けられ、ぽっかりと口を開けている。魔術の名残だろう、門の左右には雪がうず高く積み上げられていた。


 そして、門にはいつも通り騎士服に身を包んだ男達の姿があった。

 ただ、その人数が普段よりも少し多い。


「騎士が増えてるな……前は二人だったのが、六人になっている」


 このタイミングで騎士が増えたということは、俺達の件と無関係ということはないだろう。間違いなく、俺達を探していると考えてよさそうだ。

 後は、実際に騎士達が、帝都に入ろうとする者達に対して、どういう確認をしているのか知りたいところだ。


 門の前には他にも、帝都に入ろうとしているのだろう人々が列をなしていた。さらに丁度良いことに、そのうちの数人の男達が門の方へと近寄っている。装いから見て、冒険者だろう。

 男達は門のところで立ち止まると、騎士達と何やら話している。出来れば会話が聞きたいところだが、余りにも離れすぎていて、音を拾う魔術を使用しても聞き取れない距離なのが残念だ。


「他にはどう? 何とか止められずに、中に入れないかしら?」


「難しいだろうな。しっかり止められているみたいだ。あれは何をしているんだ……?」


 騎士達と冒険者は言葉を交わしながら、何かをしているようだ。騎士が差し出している箱のようなものに、冒険者が手を添えているように見える。

 その箱には、どこかで見覚えがあるような気がした。一体何だっただろうかと、俺は記憶を探る。


「見たのはそこまで昔のことじゃないと思うんだが……あれは確か、帝国に入った時だったか?」


 王国から帝国へと渡る際、俺達は国境にもなっている川を横断した。そうして帝国へと足を踏み入れると同時、騎士達が近寄ってきたのだった。

 そこで、今帝都の入口でやり取りしているのと同じような、箱型の魔術具を使用したのだった。確かあれは、隠蔽解除の魔術具だったはずだ。


「隠蔽解除の魔術具……そう言えば、そんなこともあったわね」


「おそらく、異種族の特徴を元に俺達を探しているんだろうな。このまま帝都に入ろうとすれば、アメリアが火兎族であることが向こうに知られて……いや、待てよ?」


 俺は前方の光景から、アメリアの方へと視線を移す。


「なぁアメリア、昨日クリスを助け出して逃げるときって、耳や尻尾はどうしてた?」


「どうって、いつも通り隠してたわよ?」


 アメリアやフィリーネは普段、町中へと入るときは異種族の特徴を隠している。それは、無用なトラブルを避けるためだ。

 異種族というのはそれなりの数がいるものだが、この世界には圧倒的に、俺のような人族の方が多い。


 町中を異種族が歩いたからと言って、ノルドベルクの町のように邪険にされるようなことはそうないことではある。それでも、異種族の特徴を隠していた方が、少しだけ安全なのだ。

 そのため、アメリアは昨日も、町中では異種族である特徴を隠していた。隠していなかったのは気を失っていたクリスティーネと、空を飛んでいたフィリーネだけである。


「つまり、アメリアが火兎族であるということは、騎士達に知られていないってことだ」


 異種族の特徴を隠したアメリアは、普通の赤毛の少女に見える。少々人目を惹く容姿はしているものの、騎士達に追われるときは距離も開いていたし、顔を覚えられているということもないだろう。


「なるほどね。要は最初から耳と尻尾を隠さずに堂々と行っても、クリスを攫ったのが私達だとバレることはないと」


「あぁ、行けると思う。アメリア、町中に入ったら隠していいから、門ではそのままの姿でいてくれるか?」


 アメリアは過去に、火兎族ということが知られて奴隷狩りに襲われている。最近だって、火兎族の隠れ里が狙われたのだ。あまり大勢の人がいる前で、異種族の特徴を出したくはないだろう。

 それでも、町中に入ろうとすれば、門で正体を明らかにする必要がある。それが嫌なら、仕方がないので俺一人で帝都に行くことになるだろうな。


 そう思ったが、アメリアはさして悩むことなく、首を縦に振って見せた。


「えぇ、別にいいわ。この辺りなら、獣人族の一種ということはわかっても、火兎族ということを知っている人はそういないでしょう……それに、何かあったら何とかしてくれるんでしょう?」


 そう問いかけるアメリアは、俺の事を信頼してくれているのだろう。その瞳には、どこか期待するような色合いが見えた。

 当然、騎士達と戦闘するようなことにでもなれば、俺は身を挺してでもアメリアの身を守るつもりである。


「当然、何とかするさ。それじゃ、ちょっと行ってみるか」


 そう言って俺達は木の影から姿を現し、帝都の外壁に向かって歩き始めた。

評価およびブックマークを頂きました。

ありがとうございます。


「面白い!」「続きを読みたい!」など思った方は、是非ともブックマークおよび下の評価を5つ星にしてください。

作者のモチベーションが上がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
上記リンクをクリックするとランキングサイトに投票されます。
是非投票をお願いします。

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ